Pin1 : Pin1の概要 (1/3頁)



タンパク質の構造:ペプチド結合

trans - ペプチド結合 (左) とcis - ペプチド結合 (右)。(水素原子は非表示)

タンパク質はアミノ酸がペプチド結合でつながったものです。ペプチド結合には、C-N結合にを基準にしたときのCα原子 (図中のR1、R2で表した側鎖が生えている不斉炭素原子) の位置関係から
  • Cα原子がtrans - 位にあるtrans - ペプチド結合 (左)
  • Cα原子がcis - 位にあるcis - ペプチド結合 (右)
の二種類があります。実際のタンパク質の構造では、立体障害が起こるcis - ペプチド結合はほとんど見られません。

ペプチド結合の構造式ではC-Nの結合は単結合なので、ペプチド結合は自由に回転してtranscis の異性化が起こりそうですが、 実際にはC-N結合は二重結合性を帯びた安定した結合であり、異性化は簡単には起こりません。 そのおかげで、タンパク質は“ふにゃふにゃ”にならず構造を保っていられるとも言えます。



特殊なアミノ酸:プロリン

trans - ペプチド結合 (左) とcis - ペプチド結合 (右) のプロリン残基。 (水素原子は非表示)

タンパク質を構成する20種類の標準アミノ酸の中で、プロリンは主鎖のN原子と側鎖が共有結合した環を持つアミノ酸です。 このユニークな構造のため、プロリン部分のペプチド結合は少し変わった化学的性質となっており、他のアミノ酸に比べtranscis の異性化が容易に起こります。 実際にタンパク質の結晶構造の中に見出されるcis - ペプチド結合のほとんどはプロリン部分で見られます。



ペプチド結合を異性化する酵素:PPIase

プロリンのペプチド結合が比較的容易に異性化すると言っても、実際には非常に遅い反応です。生体内では、この異性化はPPIase [プロリン異性化酵素(PeptidylProlyl-Isomerase); EC番号 5.2.1] という酵素で触媒されています。

PPIaseの存在意義はいくつかありますが、その最大のものはタンパク質のフォールディングを助けるシャペロンとしての機能です。タンパク質が転写、翻訳されフォールディングするとき、 プロリン部分がcis - ペプチドにならないとうまくフォールディングできない場合があります。多くの場合、この『プロリンがcis - ペプチドになるのを待つステップ』がタンパク質フォールディングの律速段階となっています。 PPIaseはプロリンのペプチド結合を異性化することで、速やかなフォールディングを助けています。



PPIase:重要な創薬ターゲット

PPIase活性を持つ酵素としてcyclophilinFK506 binding protein (FKBP)parvulinがあります。 Cyclophilin、FKBPはそれぞれ非常に有効な免疫抑制剤であるcyclosporinタクロリムス (FK506) の標的タンパク質として知られています。 このことは、PPIaseが生体内で重要な機能に関連していることを示唆しています。Cyclophilin、FKBPはともに今日の『創薬』研究の重要な標的タンパク質となっています。



Pin1:ユニークなPPIase

我々が研究対象としているPin1はparvulin familyに分類されるPPIaseです。Pin1はcyclophilinやFKBPとは一線を画す非常にユニークな特徴を持っています。

Pin1のPPIase反応の基質特異性は『リン酸化したセリンまたはスレオニンの次に位置するプロリン:(Phospho-Ser/Thr) - (Pro)』です。すなわち、Pin1はリン酸化したタンパク質に特異的に働くPPIaseなのです。




このことは実に面白いことを示唆しています。
タンパク質のリン酸化は生体の中で大きな役割を担う翻訳後修飾です。酵素の活性調節、シグナル伝達など細胞周期など多くの生命現象が リン酸化をトリガーとして起こります。リン酸化がタンパク質の構造に変化をもたらし、その変化が機能を調節していると考えられていることから、タンパク質のリン酸化はよく“スイッチ”に例えられます。 すなわちタンパク質の『リン酸化』と『構造変化』は非常に密接な関係にあるのです。

Pin1はリン酸化したタンパク質のみに作用してペプチド結合を異性化します。つまりリン酸化タンパク質の構造を積極的に変化させると考えられるのです。 これはPin1がタンパク質の『リン酸化』と『構造変化』を結びつける『仲介者』としての役割を担うことを示唆しています。