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オランダ ワーゲニンゲン滞在記(大坪和香子)

昨年9月から、東北大学若手リーダー研究者海外派遣プログラムの支援により、オランダのワーゲニンゲン大学(WUR, Wageningen University and Research)において研究滞在をしています。WURは、教育機関であるワーゲニンゲン大学と、オランダの政府機関である農業・自然・食品安全省の研究所が統合した教育研究機関です(2016年に正式に統合)。このため一般の大学とは異なる側面が多く、大学の本部のようなものはなく、事務・環境管理・教育・研究の各専門の部門がそれぞれ独立して運営を行っています。

キャンパスの様子。正面奥が筆者が研究滞在している動物科学研究科の建物Zodiac。

学部生が通うキャンパス最大の建物。学食や図書館のあるForum(左)と講義棟のOrion(右)

左:Forumの中の様子。たくさんの学生で賑わっている中、自習する学生が多い。
 右:Zodiacの建物の内部。エントランスホールはビジターにも開放された空間になっている。


WURには、動物科学、植物科学、環境科学、社会科学の4つの研究部門がありますが、今回は、2016年から東北大学大学院農学研究科と部局間協定を締結している動物科学研究部門の中の、2つの研究グループに客員研究員として所属し、研究をさせて頂いています。

左:エントランスホールでPhDの学生(オランダ、イラン、スペイン、スリナム)とランチ
 右:廊下に貼られているCBIのメンバーの紹介。私も入れてもらっています。


2つの研究グループに所属させて頂いている理由は、私が現在取り組んでいる研究テーマが「海藻多糖が腸内フローラと宿主免疫に与える影響の解明」であり、「腸内フローラ」と「宿主免疫」のそれぞれの解析を得意とするグループと共同研究をさせて頂いているからです。


腸内フローラについては、腸内細菌ゲノムから代謝・生理学的機能を明らかにする解析を得意とする「宿主細胞間インタラクトミクスグループ(HMI)」のMichiel Kleerebezem教授、宿主免疫については、ゼブラフィッシュを用いた免疫因子の発現解析を得意とする「細胞生物免疫学グループ(CBI)」のSylvia Brugman助教の協力を得て、研究を行っています。

実験室。地震がないので、頭上に置いてある器具等が多い。窓の外がよく見えて開放的。


オランダでは数年前から日本食がブームで、海藻を食べる人が増えてきました。レストランやスーパーマーケットでは海藻サラダが手に入りますし、自然食品店では、乾燥ワカメや昆布を買うことができます。今回の海藻多糖に関する研究テーマについても、WURとの共同研究の提案後、すぐに承諾してもらうことができ、オランダの食文化に馴染みのなかった海藻がヒトや動物の栄養・腸内フローラ・免疫に与える影響について、関心が高まっていることが伺えました。


WURにおける1週間は、月曜日の朝のセミナーから始まります。セミナーでは、学生2名が進捗状況を話すいわゆる「プログレス」ですが、修士課程の学生の場合はセミナー発表も修士号取得のプロセスの一環になっており、緊張感が漂う中、活発な質問や厳しい指摘が飛び交います。博士課程(PhD)の学生になると、セミナー発表の態度にも余裕が見られ、研究計画や論文執筆も主体的に行っていることが感じられます。


時短勤務の教職員が多いので、午前中にディスカッションやミーティング、事務手続きを完了させます。午後は、オランダの学校は14時〜15時半の間に終わるため、子供を迎えに行くために、その前に帰宅する人が多いです。他にも、犬の散歩をするために昼休みに帰宅する准教授や、子供が小さいので週4日勤務(うち1日は自宅勤務)にしている助教(男性)もいます。


このような柔軟な働き方が許されている一方で、オランダでは「約束(アポイントメント)」が非常に重要視されています。誰もがスケジュール表(アジェンダ)を持ち歩いており、学生が教員と相談したい時も、実験で何か教えてもらう時も、事務に書類手続きをお願いする時も、銀行で口座を開く時も、最初に行うのは「電話かメールでアポイントメントを取る」ことです。アポイントメント無しで、何かをしてもらえることはまずありません。 これは、一見面倒なようですが、予定の無い時間は全て自分のために最大限活用できる、というメリットがあり、どの職種に就いていても、誰にも邪魔されない「自分の時間」を最大限に活用できることが、オランダ人が幸せに働き、尚且つ生産性が高い理由なのだと思います。


今回WURに来て驚いたことは、教育・研究・運営が、ほぼ全て英語で行なわれていることです。学生時代にドイツに留学していた時は、大学や研究所で英語は通じるものの、事務手続きの書類、研究室の実験プロトコルや安全ラベルなどの表示、学内の看板、学食のメニューなどはドイツ語だったので、ドイツ語の知識がないと色々と不便でしたが、WURでは英語がメインの言語として使用されており、オランダ語の知識が全くなくても不自由しない環境が整っています。WURでは、オランダ国内の農業だけではなく、発展途上国の食料生産性の向上や、災害復興、エネルギー政策、薬剤耐性拡大の抑止など、国際的な課題の解決を目指しているため、各国からWURにやってきた優秀な人材の受け入れ体制を徹底的に強化しているように思えます。WURに来てから、インドネシア、カメルーン、スリナム、スリランカなど、世界各国の学生や研究者に会いましたが、出身国の農業問題に真摯に向き合い、解決したいという情熱を持ってWURに留学しているという印象を受けました。

掲示板。セミナーや講義の案内の他、コンサートやイベントの案内も全て英語。


WURでの滞在は今年の5月末までとなりますが、今年中に共同研究成果を論文発表し、将来的な共同研究体制の基盤を確立することを目指して、毎日の研究生活を大切に過ごしていきたいと思います。


最後に、今回のオランダ滞在は、本拠点形成事業によるご支援なくしては実現しませんでした。この場を借りて、本拠点形成事業に心から感謝を申し上げます。

大坪和香子
東北大学大学院農学研究科
動物資源化学分野 助教
  • 日本学術振興会
  • 研究拠点形成事業
  • 東北大学
  • 東北大学大学院 農学研究科
  • 食と農免疫国際教育研究センター