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University of California, Davis滞在記(乙木百合香)

はじめに

海外拠点形成事業の一環として、University of California, Davis(UC Davis)に留学しておりますポスドクの乙木百合香です。私は博士課程の最終年度(2015-2016年)に約1年間休学し、ここに留学しました。本事業を通して、また、この大好きな大学に戻って来れて、本当に楽しく、感謝しています。大学から資金が出て、留学できる。これは恵まれた条件です。受け入れる方も、人件費なしで勤勉な日本人と研究できるのですから大歓迎です。この滞在記を読んでいる皆さん、ぜひ挑戦してみてください。この拙文で、留学の魅力の一端でも知ることができれば幸いです。しばしお付き合い下さい。


Davisの生活

Davisは、カリフォルニアの北側、サンフランシスコから北東110 kmほどにあります。人口約7万、とても住みやすい、典型的な学園都市です。人口の約半分が学生で、教員、研究員まで合わせると大半がUC Davis関係者となります。ほとんどが平地なで、市内ならどこでも自転車で行けます。全米屈指の“自転車の町”。専用道路も多く、UC Davisのロゴにもしばしば自転車がでてきます。治安はとてもよく、女性が夜遅くに自転車で帰っても(今のところは)問題ありません。と言うと、ごく普通の町、のようですが、米国で、これだけ恵まれた環境はそうないのです。一般に公共機関は不便で、生活に車は必要。都会だと、車なしでもやれるのですが、だいたい治安が悪い。女性の夜の一人歩きなどは厳禁です。例えばお隣(といっても車で1時間強)の大学、UC Berkeleyの研究者によると、車なしの生活はできるが、男性でも夜、独りでは決して出歩かない、とのことです。時々学内メールで“武器(大体の場合は拳銃)をもったやつがいるぞ!”との注意喚起があるとか。比べて、Davisは本当にのどかで平和です。それでいて、車圏内にサンフランシスコ、ナパワイナリー、シリコンバレー、ヨセミテ国立公園やタホ湖などある。つまり、大都会、大自然、そしてビジネスのメッカにもすぐ行けるという、抜群の立地です。


左:自転車専用道路。道路がやたら広いです。
右:ヨセミテ国立公園。全米で人気NO.1の公立公園です。


UC Davis

UC Davisは、農業学校から始まった総合大学です。Agricultureに由来した“Aggies”の愛称で親しまれ、農学、獣医学部、生物系が特に有名です。数多いカリフォルニア州立大の中で、最も広い敷地面積を誇り、キャンパス内には美術館、コンサートホール、ホテル、川、さらにはなんと飛行場まであるのです。小型機のパイロット免許を取るためにUC Davisを留学先に選ぶ人もいるとか。緑が多く、広々としていて、昼間はハンモックで寝ている人、寝転んで本を読んでいる人など、自由でのびのびとした雰囲気です。野鳥が多く、歩くと色とりどりの鳥に出会えます。比較的大きな鳥(野生の七面鳥やかもめ)はプチ渋滞を引き起こすほど。すっかりDavisの一員です。


キャンパス内。
左:川沿いのお散歩コース。たくさんの植物に囲まれています。
右:研究所の目の前に七面鳥が遊びに来ていました(日常茶飯事。大きいので少し怖い..)。


食事

食べ物は、結構なんでもあります。レストランは、中国料理、メキシカン、イタリアン、フレンチ、(アメリカンな)日本食、などなど。だいたいメージャーどころはおさえてます。ちゃんと選べば美味しいところもあります。スーパーは、教養のある人が多いためか、量より質を大切にするスーパーが多く、オーガニック、グルテンフリー、MSGフリーなどなど、“意識高め”を強調した食材が人気のようです。毎週2回、市内の公園で、地元の野菜やペストリーなどが手に入るファーマーズマーケットが開催され、いつもたくさん人達で賑わっています。生演奏などのプチイベントもあって毎度お祭りのようでとても楽しいです。以前オクラホマに滞在した時、野菜はプラスチックのようでした。こちらでは新鮮で美味しく、とても助かっています。


コミュニティ

アメリカは自由な国。自ら動くならば、何でもできます。でも、じっとしてたら何も起きないのもアメリカ。私は渡米当初、サンクスギビング休暇にラボに来たら、ラボはおろか大学そのものに人っ子一人いない。すべてのお店は閉まり、友人は皆家族の元に帰っていました。独り身の留学生には辛い時間を過ごすことになりました。自分からコミュニティを見つけ、積極的に出ていかないと、休日はとても寂しいです。さらに、ホリデーシーズンになると必ず“休みは何するの?”という会話が主流になります。仕事、なんて答えようものなら、衝撃波が走ります。なので、孤独なサンクスギビングを過ごして以降、必ず事前に予定を入れるようにしています。コミュニティは多様、探すのは簡単です。特に多いのがクリスチャンのコミュニティです。私自身はクリスチャンなので、毎週日本人教会に行っていますが、それ以外にも色々な集まりがあります。日本にいるとあまりキリスト教に触れるチャンスは少ないかもしれませんが、なにせここはキリスト教大国。石を投げればクリスチャンコミュニティに当たります。色々な教会やクリスチャン母体の団体がことあるごとにパーティやら交流会をやっています。そこでは、大学関係者のみならず、多種多様な人達に気軽に出会えます。クリスチャンでなくても大歓迎なので、多様な文化を学ぶという視点でコミュニティに参加するのも楽しいと思います。


日本人コミュニティ

残念ながら日本人はあまり多くありません。留学生の数は、今や人口2000万の台湾にも負けているくらいですから。そうはいっても、そこそこ日本人研究者もいます。UC Davisには、Bay Area Scientist(BAS)という日本人コミュニティがあり、毎月異分野の研究者が集まり研究会が開催されます。こちらに来ている日本人の多くは、はっきりとした目的を持ち、志高く、個性的な方が多く、本当に面白く刺激されます。なのでいつも議論は白熱。また、少しエリアを広げると、Japanese University Network in the Bay Area(JUNBA)という日本からの留学をサポートする団体がありまして、定期的に日本人研究者の集まりを開催しております。現地アメリカで活躍されている一流の研究者が集まり、セミナーや交流会をします。先日はUC Berkeley兼東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の村山斉教授が講演してくださいました(写真)。研究の枠を超えると、Silicon Valley Innovation Forum(SVIF)という日本人の集まりもあります。こちらで活躍される実業家やビジネスマン、研究者など様々な職種から多士済々集まり、これからの日本について熱く議論します。この前はノーベル賞受賞者の名古屋大学教授、天野浩先生を招いての会があり大変盛り上がりました。先生も、とても勉強になったとおっしゃってました。
 “海外にまで行ってなぜ日本人と?”と思う方もおられるかもしれませんが、日本にいてもこんな多分野、かつ世界で活躍される方々が一堂に会する機会って、どのくらいあるでしょうか。異分野でも、“日本人”という共通項があるから、一気に仲良くなれるんですね。また、国外に出ると、外から日本を眺めることになり、日本を再発見します。中にいるときには気がつかなかった我が国の問題点とそして素晴らしい点も知らされます。結果、日本に対して熱い思いを持つようになります。このような想いも共通項として、親しくなります。海外で出会う日本人コミュニティも留学における魅力の一つだと私は思います。


左:International Scholarの集まり。多国籍かつ多宗教ですが、みんなで英語の聖書を読んでます。
右:JUNBA主催の日本人研究者交流会。


研究生活

研究環境
私の場合、施設、実験装置などの環境は、正直日本とあまり変わりません。でも、文化的環境(?)はかなり違います。例えば、①研究に集中できる、②異分野の人が身近にいて、かつオープンなので、自分次第でいくらでもコミュティを広げれること、③交渉次第でどうとでもなる、といった点で、これは有用です。以前飲み会で知り合った方と共同研究に発展した、なんてこともありました。この町の半分以上はUC Davis関係者ですから、チャンスはどこにでも、いくらでもあります。

コミュニケーション
 これはカリフォルニアの特徴ですが、非常に外国人が多いです。まさに人種のサラダボールです。私の研究室は、ボスですらアメリカ人でなく、同僚や学生もカナダ、フランス、中国、イラン、アメリカ人、などなど国際色がとても豊かです。したがって異文化には慣れており、違いを受け入れる寛容さが必然的に備わっています。英語があまり上手くなくても、発音がJapanishでも、気に止めません。聞き取ろうと、理解しようとしてくれます。留学したばかりの時は、発言を躊躇することがありました。しかし、こちらでは、何も意見を発しない=バカ、もしくは何にも考えていない人と見られます。沈黙は金ではないのです。ですので、間違ってもいいからとにかく発言するようにしています。理解しようとする聞く側の姿勢にしばしば助けられますが、理解できた時には、とてもフェアに扱ってくれます。お陰様で、臆せず話せるようになってきました。
 よく日本人は、英語を話す方を前にするだけで縮こまってしまうことが多いですよね。文法なんて間違ってもかまわないので、ちゃんと意見することが大切です。必ず理解しようと聞いてくれる人がいます。もし、あなたが、英語を理由に留学を躊躇しているなら、あなたこそ、臆さず、挑戦してほしいと思います。

研究に対する姿勢
 Davisは、サンフランシスコ、サンノゼ、サンタクララなどを含む、いわゆる“シリコンバレー”からそれぞれ車で1時間半程度の距離です。ご存知のようにシリコンバレーでは、Apple、Google、Intel、Facebookに代表されるように、イノベーションが盛んに起きている世界で最もホットな場所の1つです。シリコンバレーといえば、IoTのイメージが強いかもしれませんが、バイオ系の会社もたくさんあります。UC Davisの教授で、自分の会社持っている方は多いです。こんな私ですら、時々バイオ系のスタートアップにリクルートされることがあるくらいです。そんな環境もあり、学生も研究の目的意識が明確な人が多いです。自分はこういう技術を用いて、この研究をし、こんなビジネスにつなげる、といった具体的な目標をもち、それを実現するため、やるべき研究を選ぶのです。だから、学部生の頃に色々な研究室を自由にローテーションし、自分のやりたいことと教授との兼ね合いを擦り合わせて配属先を決めます。こちらでは、先生が自分の集めたお金から、博士課程の学生に給料を払います。先生もいい学生を採用すべく真剣です。なので研究室に入ってくる時、学生のほとんどは、はっきりと自らの方向性を言えます。
 自らを翻ると、私は学生の頃、自分の研究を、どう世の中に役立てるかとか、どこまで考えていただろうかと反省させられます。正直、研究の丁寧さや、勤勉さ、ハードワークさに関しては、日本人は誰にも負けません。この点は国際的にも信用されています。でも、個人でどれほど明確なビジョンを持ち世界に出てくか、という点は弱いと思います(自分も含めて)。21世紀、たとえどんな職種でも、国際化の波にさらされ、世界で戦うことになります。今後彼らと肩を並べていくには、世界お墨付きの勤勉さに加えて、彼らのように明確なビジョンをもって研究していきたいと日々思わされています。


最後に

私は日本にいる時、研究者としてそんなに自信をもっていませんでした。でも私が思っていた以上に日本人の賢さと真面目さは、世界から評価されています。みなさんも自信を持ってください。そして、日本で培ったその勤勉さと、少しの勇気と、日本人の誇りを持って一歩踏み出してほしいです。そこにいるのは、言葉は違えど、血の通った普通の人間です。怖くありません。そのために素晴らしい本事業があります。ぜひたくさんの方にチャレンジしていただきたいです。もっとUC Davisや留学について知りたい方がおりましたら是非気軽にご連絡ください。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

乙木百合香
東北大学大学院農学研究科
機能分子解析学分野・ポスドク研究員
  • 日本学術振興会
  • 研究拠点形成事業
  • 東北大学
  • 東北大学大学院 農学研究科
  • 食と農免疫国際教育研究センター