アルタイの美肌フルーツ・オビルピーハ
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【はじめに】
オビルピーハとは、ロシアのシベリア南端に位置するアルタイ地方原産の小果樹で、グミ科の植物 Hippophae rhamnoides L. ( ヒッポファエ・ラムノイデス ) のなかの ssp. mongolica ( ロシア名 oblepikha ) のことを言います。類似の植物があって、英名で seabuckthorn ( シーバックソーン ) と呼ばれているのは主に ssp. rhamnoides を指し、中国名で沙棘 ( サージ、サジー、サジ ) と呼ばれているのは主に ssp. sinensis を指しています。いずれの ssp. ( 亜種 ) にも、原種には栽培する上で大きな障害となる太く長くて鋭い棘があることと、黄色で小さく酸味の強い果実が少ししか着きませんが、ssp. mongolica から育成されたオビルピーハの改良品種群は棘がほとんどなくなって栽培しやすくなり、果実が大きくたくさん着くようになるとともに、多機能性成分の含量が著しく高くなった小果樹(ベリー)類です。寒さに強いので、東北地方の中山間地での栽培に適していると考えられます。そこで、園芸学研究室ではオビルピーハの特性を把握するとともに、東北地方への導入を試みております。
【研究内容】
オビルピーハの果実成分について書かれた資料によると、おおよそ次のようにまとめられます。果実のビタミンAは 100 g 当たり 3.8〜50.0 mg 含まれています。ビタミンCは 81.5 〜 317.0 mg 含まれています。 1,000 mg 含まれているという報告もあります。果実の中ではローズヒップ ( 2,000 mg ) とアセロラ ( 1,700 mg ) に次いで多いことになります。オイルが 2.6 〜 11.8 % 含まれ、その 80 〜 95 % が必須脂肪酸で、オレイン酸とリノール酸とリノレン酸などの不飽和脂肪酸がたくさん含まれています。オイルにビタミンEが多量に含まれていることがオビルピーハの大きな特徴です。オビルピーハのビタミンEは 100 g のオイル中に 200 mg 程度含まれ、トウモロコシオイルの約 4.5 倍、ダイズオイルの約 20 倍含まれていることが示されています。ビタミンEには皮膚の若返り作用があるといわれているので、美肌効果の高い果実といえます。また、ビタミンA、C、Eは、これら三種類がそろうと特に抗酸化作用が強くなって、活性酸素を効率よく中和する栄養素です。このように、オビルピーハは、ビタミンAとCとEをバランスよく高濃度に含んでいる大変ユニークな、ビタミンエース(ACE)フルーツであると言えます。
オビルピーハは高価な健康食品でもダイエット食品でもありません。栄養豊かな新しいタイプのフルーツです。オビルピーハは、完熟した果実を生で食べるほか、ジュース、ジャム、ワインなどに加工することもできます。シベリアを含めたロシア各地において、オビルピーハはエッセンシャルオイルを日常的に使用するハンドクリ―ムや化粧品をはじめとして、体内の粘膜に作用するさまざまな医薬品にも加工・利用されています。このように、オビルピーハはヒッポファエ・ラムノイデスの他の亜種とは比較にならないほど優れた特性を持ち、利用の実績がある多機能性新規ベリーです(関連文献1)。
日本での栽培事例として、岩手県陸前高田市と宮城県環境事業公社における大規模栽培をあげることができます。そこでは、青果やジュースの生産だけでなく、日本の消費者に適した加工食品と保健薬や医薬品としても利用することを視野に入れて取り組んでいます。これが成功すれば、ビタミンEの不足しがちな人々に、新しい多機能性食品と、天然のエッセンシャルオイルを含んだ美肌クリームなどを提供することができると考えています。このような取り組みは、これまでに、NHKのテレビやラジオを初めとして、多くのテレビ、新聞等で紹介されたところ、視聴者から大きな期待が寄せられています。
2003年9月には第1回国際会議がドイツのベルリンで開かれました。その概要については下記の関連文献2で紹介しています。また、2005年6月3日から7月18日まで仙台市博物館で開催されている「ロシア科学アカデミー所蔵・アルタイの至宝展」特別協力コーナーに東北大学園芸学研究室のオビルピーハ関連の資料が展示されています。