園芸学会平成12年度春季大会の報告

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 本年度の園芸学会春季大会は, 3月26日,27日に,神戸大学において行われました.
 発表の課題数は,ポスター112件,果樹62件,野菜70件,花卉72件,利用45件でした.本研究室では海老原・西山が口頭発表をしました.ここでは,口頭発表の一部とポスター発表の一部について紹介します.


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研究発表

T.ポスター発表

課題番号48 炭そ病抵抗性イチゴ新品種‘サンチーゴ’の育成
森 利樹・戸谷 孝・藤原孝之(三重科技センター)

 三重県で育成されたイチゴの新品種‘サンチーゴ’は,炭そ病に対する抵抗性を持つことを目標に選抜された品種であり,‘アイベリー’,‘宝交早生’,‘とよのか’の交配後代である.性質は,1)高い炭そ病抵抗性を持つ,2)大果(果重16.6g)で,揃いが良く,‘女峰’より収量が多い,3)果実品質(高糖度低酸度,ビタミンC含量が高い,果実硬度は‘女峰’と同程度,等)が良い,などの特徴がある.

課題番号57 イチゴの頂花房の開花に及ぼす植物生長調節物質,特にジベレリンの影響
山崎博子・濱野 恵・大和陽一・三浦周行(野菜茶試)

 夜冷短日・低温暗黒処理に代わる省力的な開花促進技術の開発を目的とし,植物生長調整物質がイチゴの頂花房形成に及ぼす影響を検討した.頂花房の開花は,ジベレリン(GA3)とインドール酢酸で早まったが,GA310ppmでは花房あたりの花数が減少した.頂花房の開花は,GA1,GA3およびGA20の10ppm処理で早まったが,処理濃度が2ppmの場合には,いずれのGAにも開花促進効果は認められなかった.処理時期を変えてGAを処理した場合,いずれの時期も対照より2〜4日早まったが,促進の程度が大きく変わることはなかった.花房当たりの花数も処理時期によって異なったが,一定の傾向は認められなかった.

課題番号84 高温条件下でのトルコギキョウの生育・開花に及ぼす苗低温処理の影響
竹崎あかね1・藤野雅丈1・森 昭憲1・吉田裕一2・桝田正治21四国農試・2岡山大農学部)

 トルコギキョウについて,高温下における高品質切り花生産に有効な条件に関して,低温処理(10℃)および処理時の葉齢が生育・開花に及ぼす影響を検討した.期間の異なる低温処理を行ってからおよそ32℃の高温処理を行った場合,21日間の低温処理によって開花率が最も高くなった.播種から高温(35℃)条件下で栽培し,期間の異なる低温処理を行ってから再び高温条件下で栽培した場合,35日間の低温処理によって開花率が100%となった.高温処理を予め行うことで生長が促進され,低温処理によって茎長が増加する傾向が認められ,切り花品質が向上する可能性が示唆された.

課題番号85 赤色光/遠赤色光光量子束比が切り花品質と開花に及ぼす影響
吉村正久1・金浜耕基21大河原農改センター・2東北大学大学院農学研究科)

 赤色光/遠赤色光光量子束比(R/FR比)を変えた資材が花卉の草丈と開花に及ぼす影響について調べた.R/FR比が最も小さいA区から最も大きいE区までの5つの区を設けて,キクとトルコギキョウを栽培した.キクの‘寒精雪’と‘精興黄金’の切り花長と節間長は,A区で最も長く,D区で最も短かった.開花までの日数は,A区が他の区より長かった.なお,E区では花芽が分化しなかった.トルコギキョウ‘あずまのかすみ’では,切り花長はD区で短く,他の区は同じ程度に長かった.節間長はA区で最も長く,E区で最も短かった.開花までの日数は,A〜C区で短く,D・E区で長かった.

U.野菜部会


課題番号14 イチゴ果実注のビタミンC含量の遺伝様式
曽根一純1・望月達也2・野口裕司31野菜茶試久留米支場,2野菜茶試,3北海道農試)

 高ビタミンC含量安定型の‘さちのか’と低ビタミンC含量安定型の‘Cesena’を供試して,正逆交配による品種間F1実生集団および自殖実生集団におけるビタミンC含量の遺伝性を検討した.2品種間のF1実生集団では,ビタミンC含量には不完全優性を示す比較的少数の遺伝子が関与していること,また,自殖実生集団の結果から両品種ではビタミンC含量に関する遺伝子はかなりホモ化していることが推察された.

課題番号15 イチゴの赤花性選抜のためのRAPDマーカーの検索
雷 家軍1・曽根一純2・野口裕司3・望月達也41瀋陽農大,2野菜茶試久留米支場,3北海道農試,4野菜茶試)

 イチゴの赤花品種育成に関し,開花前の幼苗時に赤花性の選抜が可能な指標形質の検索を試みた.‘久留米54号’(白花),‘Red ruby’(赤花),両者の交雑実生集団から任意に選定した赤花および白花各14個体を供試した.603種のランダムプライマー中,4プライマーでは,‘久留米54号’בRed ruby’の赤花バルクと白花バルク間で発現が異なり,各バルク内の個体間で発現が一定している4本のバンドが認められた.また,これらのバンドを生じるプライマーを用いたPCR-RAPD分析の結果,由来の異なる多様な赤花および白花系統・品種・種においてもこれらの4本のバンドは発現が安定していることが認められ,赤花性の選抜に利用可能と考えられた.

課題番号16 四季成り性イチゴの花芽分化における限界日長の品種間差異
海老原康仁・西山 学・金浜耕基(東北大大学院農学研究科)

 四季成り性イチゴ‘サマーベリー’を高温条件下で生育すると,13時間日長と14時間日長の間に花芽分化の限界日長が認められることを既報で報告した.本実験では,四季成り性品種‘大石四季成り’,‘夏芳’,‘みよし’,day-neutral型品種‘Brighton’,‘Aptos’を供試してそれぞれの花芽分化の限界日長を調査した.その結果,12時間と13時間の間に限界日長が認められた品種は‘みよし’,13時間と14時間の間は‘大石四季成り2号’,‘Aptos’,14時間と15時間の間は‘夏芳’,15時間日長と24時間の間は‘Brighton’であった.以上より,高温条件下では,四季成り性品種,day-neutral型品種のいずれでも花芽分化の限界日長が認められ,限界日長には品種間差異があることが示された.

課題番号17 イチゴのランナー冷蔵処理が根の活着力及び呼吸活性並びに定植後の開花に及ぼす影響
小林 保(標語中央農技センター)

 採苗したランナーを一定期間保存することにより仮植労力を分散し,効率的に苗生産を行うため,ランナーの冷蔵処理技術について,‘とよのか’を供試して検討した.冷蔵処理温度0℃,5℃,冷蔵処理期間10,20,30日では,いずれも活着率100%で,根の酸素消費量は冷蔵処理によって多くなる傾向が認められた.0℃で24日間冷蔵処理後仮植して育苗した苗は開花が遅れた.冷蔵処理温度0℃,5℃,冷蔵処理期間7,14,21日では処理期間が長いほど,また5℃より0℃で開花の遅延が生じやすかった.以上の結果,ランナーを0〜5℃で約1ヶ月間冷蔵処理することが可能であるが,出庫後の根の酸素消費量や開花に及ぼす影響が少なからず認められた.

課題番号18 イチゴ連続うね利用栽培(不耕起栽培)における物理性の経年変化
斉藤弥生子1,清水知子1,今井克彦21西三河普及センター・2愛知農総試)

 一度立てたうねを崩さず,数年連続して利用する「連続うね利用栽培(不耕起栽培)」は省力・軽作業,施肥量の軽減が図れるが,現地圃場において土壌物理性の経年変化を調査した.1作付けが終了した圃場を1年目とし,不耕起年数の異なる同一敷地内の圃場を4年目まで,透水性,三相分布,土壌硬度について調査した.これらの項目から見た連続うね利用栽培圃場の物理性は,少なくとも4年目まではやや向上し,作土が柔軟になる傾向が認められた.

課題番号29 カブ‘鳴沢菜’の花芽形成に対する低温と日長の影響
斉藤秀幸1・斉藤 隆21宮城県農業短大・2東京農大農学部)

 花芽形成の日長感応性が小さいカブの‘鳴沢菜’を供試して,低温処理期間と低温処理後の日数が花成に及ぼす影響を調査した.20℃・12時間日長下で5日間育成した子葉展開後の苗と,同条件下で20日間育成した本葉3枚の苗に,9℃・12時間日長の低温処理を0,1,2,3週間行い,低温処理終了後は20℃・8,12,16,24時間日長下で50日間育成した.その結果,鳴沢菜の低温感応による花芽形成は,短日によって抑制,長日によって助長されたが,特に24時間日長で助長作用が大きいこと,3葉期からの低温処理では,子葉期からの低温処理と比べて短日による花芽形成の抑制は小さいものと考えられた.

課題番号31 ‘イチョウイモ’の花穂と新芋の発育に及ぼす日長と植物成長調整物質の組み合わせ処理の影響の再確認
吉田康徳1・高橋春實1・神田啓臣1・金浜耕基21秋田県立大短大部,2東北大農学部)

 イチョウイモの花穂と新芋の発育に及ぼす植物成長調整物質の影響を調査した既報で不明だった点を明らかにするために,ジャスモン酸誘導体(PD)にジベレリン(GA),またはウニコナゾールP(Uni)を添加して,ジャスモン酸誘導体の影響を再確認するとともに,GAとUniによる新芋の発育促進または抑制の要因を明らかにしようとした.主枝の伸長について,24時間日長下では,GAは対照区と同じ程度,Uniで抑制,PD+GAとPD+Uniでは,添加したGAとUniの影響が見られるのみで,PDの相乗効果は認められなかった.花穂発育株率は8時間日長ではGA区で,24時間日長区ではGA区とPD+GA区で低かった.GAは新芋の発育開始期を促進していないこと,Uniは新芋の初期発育を促進しないことから,主枝の伸長抑制が新芋の発育を促進していないと見られた.新芋はGA区で最も大きくなったので,GAは新芋の発育量を促進していると見られた.

V.花き部会


課題番号20 トルコギキョウの抑制栽培に関する研究(第4報)種子を低温処理した直播栽培における品種間差異について
勝谷範敏・梶原真二(広島農技センター)

 トルコギキョウの晩生品種を対象とし,直播栽培における低温処理の効果を検討した.ビーカーに入れた種子に水を加え,10℃・暗黒状態で35日間低温処理を行った.低温処理後,最低夜温10℃で管理し,発芽,抽だい,開花について調査した.無処理の種子より低温処理した種子で発芽,抽だい,開花が早かった.ロゼット化は,供試した10品種中,1品種を除いて防止できた.低温処理によって,切り花長は長くなり,切り花重は低下したが,品質が低下するほどでなかった.低温処理に要する経費は極めて低かった.

課題番号21 高温育苗における水管理がトルコギキョウの開花に及ぼす影響
小笠原宣好・吉田美智・鈴木 洋(山形大農学部)

 トルコギキョウは高温下で育苗するとロゼット化するが,水管理によってロゼット化が防げるか検討した.かん水法について,1日に0.5回または1回かん水する区と,湛水する区を設けたところ,早生品種の‘あずまの波’では潅水量が少ないほどロゼット化しやすく開花率が低下し,晩生品種の‘サンパープル’では潅水量が多いほど開花が早くなった.また,土耕育苗では抽だいした株がなかったのに対して,水耕育苗では100%開花した.水耕育苗では,25(昼温)/20(夜温)℃より,30/25℃で開花が早かった.

課題番号22 一重咲デルフィニウムの定植時期と日長及び補光が開花に及ぼす影響
中村恵章・福田正夫(愛知農総試)

 一重咲デルフィニウムのシネンシス系‘ハイランドブルー’の栽培に関して,栽培時期の影響と,定植後の電照および補光と定植時期の及ぼす影響について検討した.9月10日から10月17日の間に時期を変えて定植したところ,到花日数に影響は認められなかったが,早い定植では切り花長が短くなるなど品質の低下が認められた.定植後の日長処理について,日長時間の延長で到花日数が短縮され,ナトリウムランプを用いた場合は白熱灯を用いた場合より切り花品質が向上した.


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