植物遺伝育種学研究室でのイネの研究

(2006.8.14更新)

赤字はイネの遺伝子研究におけるキーワードを、青字は当研究室における研究のキーワードを示します。

実験田

イネは農作物として初めて、高等植物としてはシロイヌナズナに続いて2番目に、全ゲノム配列の解読がなされました。
私たちは、解読されたイネゲノム情報を利用して、いろいろな品種のDNA多型(主に、遺伝子領域の一塩基の違い:一塩基多型)を分析することで、次のような研究を行っています。

  1. 研究手法の開発
  • PCR-RF-SSCP分析法の開発(Sato & Nishio 2002 Plant Cell Rep 21, 276-281)
PCR-RF-SSCP分析法

PCR-RF-SSCP分析法により、一塩基多型を効率良く見つけることが可能になりました。この方法でモチ性突然変異体wx遺伝子を分析し、その原因となる一塩基多型を数多く見つけ出すことに成功しました (Sato & Nishio 2003 Theor Appl Genet 107, 560-567)。


ポリアクリルアミドゲル電気泳動装置


←一度に288検体の分析が可能な大型のポリアクリルアミドゲル電気泳動装置を用いて分析を行います。



  • ミスマッチ切断酵素による一塩基多型検出技術の開発 (Sato et al. 2006 Breed Sci 56, 179-183)

アブラナ科野菜から抽出した酵素を用いた一塩基多型分析により、ガンマ線照射により人為的に誘発した突然変異体の逆遺伝学的な選抜が可能になりました。

ミスマッチ

←このアガロースゲル電気泳動装置で分析を行っています。一度に1,440個体に相当するサンプルを分析できます。



  • ドットブロットSNP分析法の開発 (Shirasawa et al. 2006 Theor Appl Genet 113, 147-155)

多検体の一塩基多型を、一度に簡単に判定する技術を開発しました。この方法は、DNA選抜育種法や米の品種判別、後に述べるQTL解析に非常に有効です。


←この器械で、8 cm×12 cmの大きさのナイロン膜に864サンプルのDNAを載せることができます。


↓このように、点(ドット)のシグナルとして一塩基多型を判定できます。



※ミスマッチ切断酵素による一塩基多型分析技術とドットブロットSNP分析法を組み合わせることで、DNAレベルでの米の産地識別技術を開発しました。

↑ミスマッチ切断酵素による一塩基多型分析により、ガンマ線照射したイネの中から品種特性に影響を与えないサイレント突然変異を見つけ出し、これを産地識別の標識とします。この標識(サイレント突然変異)を持つイネを特定の地域だけで栽培します。他の地域産のイネはこの標識を持ちません。ドットブロットSNP分析により、コメ1粒レベルで特定地域産(標識を持つコメ)と他地域産(標識を持たないコメ)が判別できます。

自然でも生じる突然変異を利用しているもので、安全性についての心配はありません。


  1. イネ品種の遺伝子多型に関する研究
  • ジャポニカ品種の遺伝子の一塩基多型分析 (Shirasawa et al. 2004 DNA Res 11, 275-283)

↑PCR-RF-SSCP分析により、バンドパターンの違いとして一塩基多型を検出します。ジャポニカ品種の遺伝子領域の一塩基多型を数多く見つけました。

←ジャポニカ品種の家系から、育種過程で選抜された染色体領域を明らかにしました。これは、日本で行われているジャポニカ品種同士の交配による育種に、有効な情報を提供します。


  • モチ品種のモチ性原因遺伝子の構造

←モチ品種がモチ性を示す原因をDNAレベルで明らかにし、モチ品種がどのように誕生したのかを明らかにしました。



  1. ストレス耐性関連遺伝子のQTL解析

たくさんのイネの遺伝子型と表現型を照らし合わせることで、目的の遺伝子を解明することができます。そのため、イネの栽培や表現型の評価も行っています。

  1. 登熟期の高温耐性のQTL解析

↑夏の異常な高温は玄米を白濁させ、米の品質を低下させます。夏の暑さに強い良品質な品種を育成するために、高温ストレス耐性遺伝子の解明を行っています。

←人工気象室内で登熟中のイネに高温ストレスを与え、玄米の品質の評価を行います。



  1. 穂ばらみ期耐冷性のQTL解析

逆に、夏の気温が低いと冷害に見舞われます。冷害に強い品種を育成するために、中国の雲南省に由来する品種の耐冷性遺伝子の解明も行っています。

←冷却水のプールの中にイネを入れて冷害を再現し、耐冷性の強弱を検定します。



  1. その他

上記以外にも、いろいろやっています。興味のある方は、お気軽にお問い合わせ下さい。お問い合わせ先は、植物遺伝育種学研究室のトップページから。