植物遺伝育種学研究室での環境ストレス耐性の遺伝育種に関する研究

(2014.7.1 更新)


1. イネの耐冷性遺伝子の研究


 東北地方のイネ育種において、冷害に強い品種を作ることが最も重要な目標でした。温暖化したとはいえ、数年に一度は冷夏になり、花粉形成に障害が起こり、不稔籾が増加します。「ひとめぼれ」は冷害に強い品種として「ササニシキ」に取って代わりましたが、平成5 年よりも厳しい冷夏に見舞われると、「ひとめぼれ」であっても大きく減収する可能性があるため、更なる耐冷性の強化が求められます。


 中国雲南省のイネ品種「麗江新団黒谷」は、極めて強い穂ばらみ期耐冷性を持つことから、「ひとめぼれ」との戻し交雑後代で「ひとめぼれ」より強い耐冷性を持つ「羽系840」が東北農業研究センターで育成されています。耐冷性検定圃場を持つ東北農業研究センターと共同で研究を行い、「羽系840」と「ひとめぼれ」のF2 集団を用い、「麗江新団黒谷」と「ひとめぼれ」の間で多型を示すSNP マーカーを多数作成して遺伝分析し、第3 染色体の長腕末端近傍にQTL を検出しました。そのQTL を含む準同質遺伝子系統を多数作成して耐冷性の評価を行い、耐冷性遺伝子を800 kb の領域内に絞り込みました。その800 kb の塩基配列を決定して比較し、150 のSNP を見出し、耐冷性遺伝子の候補を4 つに絞り込みました(Shirasawa et al. 2012 Theor Apple Genet 124, 937-946)。これら4 つの遺伝子の間で組換わった系統を作成して耐冷性を評価し、どの遺伝子が耐冷性遺伝子であるかを見出そうとしています。また、これらの遺伝子を用いた形質転換体を作成して耐冷性評価を行おうとしていますが、遺伝子組換え植物となることから、耐冷性検定圃場を使った大規模な検定が行えず、遺伝子の解明に時間がかかっています。




左の背が高いイネが耐冷性最強の「麗江新団黒谷」



耐冷性遺伝子の絞り込みと変異検出のためのDNA マーカー



2. イネの登熟期高温耐性の遺伝子解析


 近年、夏期に異常な高温の日が続くことが多くなり、イネの登熟期(受精後種子が発達する期間)の高温は玄米の白濁を引き起こすことから、西日本だけでなく東北地方においても大きな問題となっています。登熟期高温障害に耐性の品種が強く求められており、耐性に品種間差があることが分かっていますが、その耐性遺伝子は未同定です。登熟期の高温障害は、開花5 日後から10 日後の間の高温の影響を最も受けやすいことを見出していました。耐性遺伝子を見出すためには、登熟時期、つまり開花期が同じ品種を用いて遺伝分析する必要があります。共同研究チームの宮城県古川農業試験場で育成された開花期がほぼ同じの「こころまち」は高温障害に強く、「東北168 号」は弱いことが分かりました。これら2品種間のSNP を多数見出し、そのSNP を分析するDNA マーカーを作成して、その交雑後代を用いて遺伝分析を行い、高温耐性の品種間差の遺伝子が第6染色体のWx 遺伝子の近くにあることを明らかにしました。しかし、この高温耐性の検定は難しいことから、原因遺伝子の同定には至っていません。





3. ナタネの耐乾性と耐塩性


 日本では雨が多いが、世界的には水不足が作物生産の大きな障害となっており、近年その深刻さが高まっています。アブラナ科作物と同種の野生植物は、半乾燥地に生育しているものが多いため、一般に乾燥に強いものが多いです。セイヨウナタネやカラシナも比較的乾燥に強いものが多いですが、それでも中国やインドではナタネ生産で問題となっているようです。そのため、科学技術振興機構の支援を受けて耐乾性ナタネ作出のための研究を中国武漢にある中国農業科学院油糧作物研究所と行っています。


 2011 年3 月の東日本大震災の津波のため、2万ヘクタールもの農地が海水を被り、過剰な塩分が作物生産の障害となりました。アブラナ科作物は塩害にも強いものが多く、当研究室ではアブラナ近縁種の遺伝資源を持っていますので、ナタネを塩害農地復興に利用する菜の花プロジェクト(URL : http://www.nanohana-tohoku.com)に参加しました。これまでの研究で、セイヨウナタネやアブラナ科野菜が塩害に強いとする評価と弱いとする評価が様々でしたが、同じセイヨウナタネやカラシナの種内でも、耐塩性に品種間差が大きいことを明らかにし、耐塩性品種を見出しました。また、多数品種を用いた耐塩性の遺伝分析を行い、耐塩性の品種系統間差に関わる遺伝子を明らかにしつつあります。




塩害で屋敷林の木が枯れる地域でのセイヨウナタネの栽培

 上記以外にも、いろいろやっています。興味のある方は、お気軽にお問い合わせ下さい。お問い合わせ先は、植物遺伝育種学研究室のトップページから。