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学部1年生向け:「現代における農と農学」 より

lecture1-title.png学部1年生向けに開講されている「現代における農と農学」での研究室紹介内容を掲載しました。講義は第1セメスターの金曜日3講時目に実施されており,高橋正助教授が新1年生に対して土壌立地学研究室を20分程度でわかりやすく紹介します。

(紹介文作成:高橋正,2006-05-09)



キーワードは「火山灰土壌」と「土壌-植物相互作用」

土壌立地学研究室では,主に火山灰土や低地土を用いて土壌と植物の相互作用の研究を行っています.その内容は,窒素,リン,イオウなどの養分元素の効率的供給法,カドミウム,マンガン,アルミニウムなどの過剰害のコントロール法、有機質資材や浄水場発生土の環境保全的利用法などです.また,火山灰土壌については,土壌生成分類学的な視点からも研究を行っています.これらの研究内容について紹介します.


火山灰土壌:アロフェン質および非アロフェン質

lecture1-01.png1970年代までは,火山灰土壌はすべて,アロフェンやイモゴライト(アロフェン質粘土鉱物)を含むと考えられてきました.私たち土壌立地学研究室などの研究により,アロフェン質粘土鉱物を含まない,アルミニウム腐植複合体が主体の土壌が日本のみならず世界各地で見つけられました.これらの土壌は,当初は火山灰土壌の中心概念から外れるものと考えられていましたが,現在では,世界土壌照合基準(世界土壌科学会議ほか,1998),土壌タクソノミー(アメリカ農務省,2003),農耕地土壌分類(農耕地土壌分類委員会 1994),日本の統一的土壌分類体系-第二次案(日本ペドロジー学会第四次分類・命名委員会,2003)などにより,火山灰土壌の典型的なもののひとつとして位置づけられています.


アロフェン質と非アロフェン質火山灰土の分布

lecture1-02.pngこの図は日本の農耕地におけるアロフェン質火山灰土と非アロフェン質黒ボク土の分布を示しています.緑色で示されるアロフェン質火山灰土は火山灰土全体の約70%の面積を占め,比較的新しく起源の明らかな火山放出物を母材としています.これに対して非アロフェン質火山灰土(図の赤色部分)の母材はやや古く,起源となる火山も明確でないものが多いのですが,広い範囲に分布することがわかります.私たちは2005年度から科学研究費補助金を受け,アジア,オセアニア,北南米,欧州の火山灰土壌の比較研究を行っています.


火山灰土壌:気候,植生と土壌生成

lecture1-03.png火山灰土壌の生成に及ぼす気候と植生の影響が調べられました.同じ火山放出物から,温暖湿潤気候では主に黒ボク土ができ,寒冷湿潤気候ではポドゾルができることが,南八甲田地域,下北半島,米国アラスカ州などで確認されました.表層の腐植の性質は植生によって変化し,草原植生の影響を強く受けると黒色土(黒ボク土)が,森林植生下では褐色土ができることがわかっています(写真).したがって,森林の土壌が火山灰土の性質をもつか否かは土の色からは判断できず,わが国の森林土壌に占める火山灰由来土壌の割合はわかっていません.森林土壌が黒ボク土の性質を示すかどうかは,土壌の炭素蓄積能力,酸性雨への緩衝能などを把握するために重要です.農耕地土壌と森林土壌研究の融合が必要です.


火山灰土壌:水分環境と粘土生成(会津盆地の沼沢火山灰由来土壌)

lecture1-04.png火山灰からできる土壌の典型的なコロイド成分はアロフェン質鉱物やAl-腐植複合体ですが,半乾燥気候地域や水はけの悪い場所では,結晶性の1:1型鉱物であるハロイサイトができる場合があります.ハロイサイトのなかには,1:1型鉱物としては非常に大きな陽イオン交換容量(CEC)をもつもの,結晶性鉱物でありながら重金属選択性の高いものが認められています.このユニークな鉱物の化学的性質について研究を進めています.


火山灰土壌:リンの給源としてのアパタイト

lecture1-05.png火山灰土壌の材料である火山放出物には,植物の肥料の三要素のひとつ,リン(P)がわずかながら含まれています.それはアパタイトというリン酸カルシウムで,動物の歯や骨に似た組成をもつものです.アパタイトが徐々に化学的風化を受け,土壌の活性アルミニウムや鉄と反応して土壌に蓄積されてゆく過程を検討しています.


ソバによるアパタイトからのリン吸収

lecture1-06.pngアパタイトは非常に溶けにくく,多くの植物はそのリンを容易には利用できません.しかし,植物のなかにはこれを利用できるものもあります.その一つがソバです.このようなソバのリン吸収特性を生かして,土壌中のリンの効率的利用技術へと発展できる可能性があります.


低リン酸土壌での作物根のリン酸肥料への伸長

lecture1-07.png火山灰土壌中のリン酸はアロフェン質粘土鉱物やAl-腐植複合体と固く結びつくため,植物へのリン酸の供給は極端に制限されます.したがってリン酸肥料は土壌と混合しない方が得策です.リン酸肥料の固まりを土壌中においてアブラナ科植物を植えると,根がリン酸肥料に絡まるように伸長することがわかりました.このような性質をもつ他の植物の検索や,さらに効率的なリン酸施与システムを研究しています.


低リン土壌でのリン酸施肥:定植前リン施肥

lecture1-08.png苗を作ってそれを畑に移植するような栽培体系では,リン酸肥料を土壌になるべく混合しない施肥システムは容易に確立できます.移植前に苗に集中的にリンを施肥する方法です.この施肥法でリン酸肥料の大幅な利用率の増加が認められました.


酸性(アルミニウム過剰)障害

lecture1-09.png非アロフェン質火山灰土壌の多くはアルミニウムが溶解しやすく,アルミニウム感受性の作物にアルミニウム過剰害を引き起こします.毒性アルミニウムは粘土鉱物の永久荷電上のアルミニウム以外に,Al-腐植複合体のアルミニウムも含まれることが示唆されました.腐植は一般にはアルミニウム過剰害を緩和する方向に働きますが,アルミニウムが多すぎると複合体からアルミニウムが放出され毒性を示すようになるのです.


Al過剰障害のメカニズム解明,石灰(CaCO3),石コウ(CaSO4・2H2O)による改良

lecture1-10.pngアルミニウム過剰障害は一般には石灰(CaCO3など)による土壌酸性の中和で改善できます.土壌の深い部分の改良のために石こう(CaSO4・2H2O) を用いる方法がありますが,その効果は土壌によって大きく異なります.石こう施用効果のみられる土壌とそうでない土壌の本質的な違いと,そのメカニズムについて調べています.


有機質資材による透水不良の要因解析

lecture1-11.png土壌への有機質資材の利用はますます盛んに行われるようになりましたが,注意すべきいくつかの点があります.そのひとつは,土壌の透水性が低下する場合があることです.褐色低地土壌に牛糞堆肥(カリウムイオンを多く含む)を施用すると,土壌が分散して目詰まりを起こし,水はけが大幅に悪化することがわかりました.この改善方法について検討しています.


カドミウム汚染土壌の改良

lecture1-12.pngかつて日本では重金属で汚染された農地がたくさんありました.これらの汚染土壌は今日ではほとんどが改良されていますが,カドミウムについてはさらに改良が要求されています.コーデックス委員会で国際食品規格のうち,カドミウムの基準が厳しくなる方向にあるからです.土壌改良の方法として,客土(非汚染土壌の搬入),ファイトレメディエーション(植物による浄化)などがありますが,私たちは塩類で土壌を洗浄する方法で検討を行っています.


土壌の元素の可給化,局在化,溶脱

lecture1-13.pngその他,このようなテーマで修論と卒論が行われています.
すべてのテーマにおいて,フィールド調査,栽培実験,および化学分析の技術が必要とされます.


土壌モノリス作り

lecture1-14.png私たちの研究室の前の廊下には,3つの土壌モノリス(土壌断面をそのままの姿で採取した標本 )が掛かっています.ひとつは東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター複合陸域生産システム部(旧農場) の向山地区の土壌です.この土壌は,非アロフェン質火山灰土壌の国際標準断面として知られています.ススキ草原植生が維持されていて,腐植層が真っ黒な土壌です.2つめは,複合陸域生産システム部の畑圃場として用いられている,これもまた真っ黒な土壌です.学生が3年次に農場実習を行う土壌です.3つめは,灰色低地土です.本学の生命科学研究科が志田郡鹿島台町に所有する水田土壌です.写真のように,土壌モノリスは樹脂で固めて土壌を剥ぎ取って作製します.

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