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土は私たちの足もとにいつもあります。見なれているせいか、私たちは土の中のことはふだんあまり気にしてい ないかもしれません。しかし、土はさまざまな植物や動物が生きている場所です。そして、私たち人間の活動と食料や繊維・木材生産の場でもある大切な存在です。
地球という大きなスケールで見るなら、土は陸地の表面を薄くおおう地球の“皮ふ”のようなものです。使い方を誤ると引っかき傷をおわせてしまいますが、うまく使えば自然の物質循環の恵みをながくうけることができます。
土のちがいを簡単に示すのはその色です。国内にもさまざまな土がありますが、世界の土はさらに多様です。土の名前には土の色の特徴を示す語もよく使われています。
全体の見通しのために、ここで世界の土と日本の土を単純化して見ておきます。
土の材料が同じでも、その環境がちがうと土が変わるという例をモノリスで示しました。「モノリス」とは土の断面をなるべく現地にあるがままに採取し、展示・観察できるようにしたものです。
土とその上に生育している植物とはお互いに影響しあっています。たとえば、栄養が豊富な沖積土壌は植物がよく育ちますが、養分が少ない火山放出物・未熟土壌は植物の生育がよくありません。また、生育している植物によって土が変化して、同じ火山灰からできた土でも、針葉樹が生えていると腐植が多くなったり、広葉樹だと少なくなったりします。このように、地上の植物を見ることは土をしらべる重要な手がかりになります。しかし、広い範囲の植物をしらべて歩くのは大変です。このため、飛行機や人工衛星を使って、空や宇宙から地上の様子をしらべる技術(リモートセンシング)ができました。
土の重要な機能の一つは、養分と水を供給して植物を育むことです。そして、私たちはその機能を食料生産に利用しています。また、土の中には、作物の種類にもよりますが、生育を阻害する化学形態の物質を含むものもあり、改善を要します。このような作物と土・肥料の相互関係の中から、目に見えやすい現象をとりあげました。
植物に必要な必須元素は一般に16種類です。これらのうち、炭素、酸素、水素は植物体を構成する主要元素で、空中から炭酸ガスとして、あるいは土から水として吸収します。窒素、リン、カリウムはその次に多量に必要な元素で、おもに根を介して土から吸収されます。ただし、窒素は後述のように微生物のはたらきにより空中から取り入れる植物もあります。この他に植物はカルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン、ホウ素、塩素などを必要とします(図6)。
これらの元素の起源は土の材料である岩石などに由来し、腐植や粘土などに保持されています。また、自然状態では希薄な養分を集める機能をもつ微生物との共生もあります。自然植物はこのような自然の養分循環の中で生存しています。
私たちの食料生産においては、上記のような自然の植物養分の動きだけでは十分でなく、品質向上・安定増収のため補給が必要な場合もあります。その養分を補給するのが肥料で、有機質・無機質多様なものが使われています。
土には植物の他にたいへん多くの生物が住んでいます。それらはネズミやモグラのように大きな動物、ミミズや昆虫、そして、カビや細菌のような微生物です。これらの生物は、有機物の物理的分解、化学的分解合成などの形態変化、移動、循環などに重要な役割を果たしています。動植物の遺体、生ゴミなどが土の中でしだいに分解されて形が無くなるのもこれらの生物の働きです。
ここではこれらの中からイトミミズ、菌根菌、根粒菌のはたらきを紹介します。
土は、物理、化学、生物、地学など多分野の現象が複雑に 組み合わさったふしぎな世界です。自然の法則だけでなく、 人為も加わります。空気や水を健全に保つことは私たちの生 活の場を快適に保つために必須です。このような身の回りの 保全すべき対象、あるいは理解すべき対象に、土を含めるこ とはいかがでしょうか。
古代文明のいくつかは大河の下流域に展開しました。そし て、何百年も繁栄がつづいたことはその文明人たちの英知の すばらしさを示しています。しかし、上流部の乱開発が進む につれて、豪雨時に土壌侵食が進み、下流域は洪水堆積物に 埋もれ、文明はしだいに衰退したとの説があります。すなわ ち、土の管理が不十分であったことが文明衰退の重要な原因 のひとつと考え得るようです。
企画展「東北大学総合学術博物館のすべて Ⅸ」として「土のけしき・土のふしぎ」が,2009年3月10日より開催されております。当分野で収集した土壌断面標本(モノリス)など,他では見ることができない土にまつわる沢山の展示を用意しました。ぜひご覧ください。
●会場:仙台市科学館 3階エントランスホール (仙台市青葉区台原森林公園4番1号)
●期間:2009年3月10日(火)~4月5日(日)10:00~16:45
(入館は16:00まで : 月曜日と3/26休館)
●主催:東北大学総合学術博物館・東北大学大学院農学研究科・仙台市科学館
●協力:東北大学大学院生命科学研究科