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企画展解説 <4. 環境によって変わる土>

 土の材料が同じでも、その環境がちがうと土が変わるという例をモノリスで示しました。「モノリス」とは土の断面をなるべく現地にあるがままに採取し、展示・観察できるようにしたものです。

  1. 植生でちがう土 (a) --広葉樹林と針葉樹林--
  2. 植生でちがう土 (b) --森林植生と草原植生--
  3. 地形と水の影響によって変わる火山灰土の性質
  4. 斜面の位置による土の変化(斜面上部、中部、下部の比較:川渡ススキ草地)
  5. 水田の土の特徴

1. 植生でちがう土 (a) --広葉樹林と針葉樹林--

 土にたいする植物の影響が強い例(a)です。写真2をご覧ください。これらの土は下北半島の恐山周辺にあります。どちらもおもな土の材料は恐山から過去に噴出した火山灰です。しかし、土の上の植物は右が落葉広葉樹林(おもにブナ林)、左が針葉樹林(ヒバ林)とちがいます。この広葉樹林下では秋に葉が落ちますが、分解も速く、その落葉からできる腐植の層はあまり厚くなりません。その薄い腐植層の下には茶色の土層がつづきますが、これは結晶化の進んでいない鉄鉱物と茶色の腐植によります。茶色は下層に向かい徐々に薄くなるだけで、これ以上の土層の分化はほとんどありません。

 これに対して針葉樹林下では腐植の層が20cm以上にも厚く集積しています。その上で軽くジャンプすると体がはずむような感触があります。そして、この腐植の層とその下の無機質土層の間にやや白っぽくなった層ができています。漂白層とよびます。白っぽくなるのはその上の腐植層由来の有機酸により鉄やアルミニウムなどが溶けでるためです。そして、酸性になります。この有機酸はカビが作るとの説もあります。一般的なポドソルでは漂白層の発達がもっと強い傾向があります。
写真2:下北半島恐山周辺のモノリス

 これらの有機酸と鉄、アルミニウムの複合体は下層に移動するにつれてしだいに分解され、鉄は和水酸化物として、アルミニウムはケイ酸と結合してアロフェンやイモゴライト(前者は中空球状、後者は管状のケイ酸アルミニウム、写真4左下参照)として沈殿します。有機酸も分解重合によりしだいに高分子化し、一部は鉄、アルミニウムとの複合体のまま沈殿します。このようにして、漂白層の下にはこげ茶色~赤茶色の土層ができます。集積層とよびます。集積層は腐植の多い層と鉄酸化物やアロフェン・イモゴライトの多い層にわかれることもあります。このような土をポドソルまたはスポドソルとよびます。ヒバはポドソルを形成する性質の強い植物です。
図3:スポドソル(ポドゾル)の模式図

2. 植生でちがう土 (b) --森林植生と草原植生--

 土に対する植物の影響が強い例(b)です。森林の火山灰土と草地の火山灰土の間にもちがいがあります。これは十和田湖東部に分布する土の例です。十和田湖はカルデラ湖で過去1万年以内に数回大噴火しました。それらの火山灰が十和田湖東部に堆積しています。写真3にはこれらの噴火のうち、千年前の火山灰(To-a)と6千年前の火山灰(Ch)が重なって土になっている例をとり上げました。これらの2つの火山灰の上部には腐植がたまっていますが、それぞれの下部には腐植を含む量の少ない薄茶色の層があり、それらはどちらも似ています。しかし、両者の間で腐植の多い層の色がちがいます。ブナ林の腐植の多い層は上記の例のように茶色です。これに対して以前にススキを主とする草地であった所は腐植が黒色です。この関係はTo-a上部だけでなくChの上部でも同様です。これらの土の色に影響した植物のちがいは植物細胞に沈着したケイ酸体や花粉の分析からもわかります。
写真3:十和田カルデラ東部のモノリス

 火山灰土が黒くなる理由は長い間論議されてきました。わが国の湿潤気候下では植物群落は自然に森林となりますが、実際には草地が維持されてきました。ほとんどの研究者は、その原因が人為による火入れにあると考えています。ごく最近まで森林であったニュージーランドの火山灰土の多くは茶色です。

 黒い腐植ができることに関する仮説のひとつは、草の根の腐朽成分がアルミニウムと結合して黒い腐植になるという、植物体自体の性質が原因であるというものです。これに対して、土中に混入している微小~やや粗粒の炭、または植物体が炭になる過程において生成する物質が、黒色の原因物質であるとするのがもうひとつの仮説です。この多量の腐植には、やや他の土にくらべて割合は小さめですが、窒素も含まれます。ところが、実験で作った炭に窒素はほとんどないので、黒い腐植も炭以外の成分が主です。いずれにしても火山灰土に含まれる多量の腐植は火山灰の影響でアルミニウムとの複合体になっています。新しい植物体の影響が強い最表層を除けば、炭素とアルミニウムの原子比は約1:13です。したがって、多量の腐植がたまるにはアルミニウムが寄与しているようです。以上のように多量の黒色腐植は火入れ、草地の植物、火山灰の三者が関与する生成物ですが、その詳細をさらに明らかにするためには、自然と人間の土への関わりを読み解く努力が必要です。

3. 地形と水の影響によって変わる火山灰土の性質

 会津盆地の中南部には約5千年前に噴出した沼沢火山灰が堆積しています。その前の噴火は5万年前です。5千年前までの埋没表層とその上の沼沢火山灰層の境界は容易に区別できます。この沼沢火山灰が土になる過程で、水の関与の仕方が、できあがった土の性質に大きなちがいを与えました。

 会津盆地の中でも比較的高い位置にある漆原では茶色~黒色の火山灰土になっています。その生成物はアロフェン・イモゴライトを主とする通常の黒ボク土です(写真4左のモノリス)。ですが、このアロフェン・イモゴライトは原料である火山ガラスに比べて、化学組成が大きく異なります。火山ガラスの元素組成には幅がありますが、アルミニウムに比べてケイ酸が多量に含まれます。これに対してアロフェン・イモゴライトにはアルミニウムが多く含まれます。したがって、アロフェン・イモゴライトが生成する過程では多量のケイ酸が溶出します。この過程が進むには、雨が多く、しかも排水も良い、すなわち流水で火山灰が洗浄されるような過程が効果的です。
写真4:排水条件の異なる火山灰土のモノリス写真4+:粘土鉱物の透過型電子顕微鏡写真

 これに対して、水の量は常に大量にあってもその動きが遅ければ、ケイ素はあまり除去されません。したがって、火山ガラスは変化しにくく、しかもアロフェン・イモゴライト(写真4右下)よりケイ酸の多い粘土(ハロイサイト)が少量できるという経過をたどるようです。湯川の土(写真4右のモノリス)では、5千年前までの表土の上に比較的大きな軽石が15cmほど堆積しています。この層は噴火のとき直接空中から降下したと思われます。その上の厚い灰色の層の中には直立する湿性植物の遺体が認められ、細かい火山灰が水の弱い流れにともなって周囲から集まり、厚い層になったのではないかと推測されます。

4. 斜面の位置による土の変化(斜面上部、中部、下部の比較:川渡ススキ草地)

 丘陵地における黒ボク土の断面が斜面の上部と下部で変化する例です。一目見てわかりやすい変化は表層の黒い層の厚さです。斜面上部ほど黒い層が薄くなります。これは斜面上部ほど乾燥しやすく、有機物が分解しやすいためです。植物養分も斜面の下方で多く、植物の生育も斜面の上部から中・下部に向かい旺盛になる傾向があります。
写真5:斜面の土のモノリス図3+:斜面の土の模式図

5. 水田の土の特徴

 わが国の景観における特徴の一つは平野に広がる水田です。水田は水稲の生育する4ヶ月ほどの間湛水します。このため、水田の土の断面には水の影響がでます(写真6)。この鹿島台の断面写真を撮ったのは稲の収穫後で、土の表面に水はありませんが、土の中には水の影響が残っています。

 影響する水には二種類あります。地下水とかんがい水です。この写真では水田の下層はほぼ常時水に浸って還元状態になっています。写真では水を掻い出したので水面の位置は1m以下ですが、このままにしておきますとゆっくり水面が上昇します。

 この青い層の上には薄茶色の土に茶色の斑紋が多くでています。これは鉄の沈殿で、湿生植物の根の周囲またはその根が分解してできた管状のすきまにできています。このことはこの層または上部の層が還元-酸化をくり返したことを示します。

 深さ約30cm付近に黒色の層がありますが、これは以前の表土です。この地点ではその上に洪水堆積物または客土が上乗せされ、現在の水田作の影響は深さ30cmまでの部分に別に認められます。

 上部約30cmのなかでも、その上の部分10数cmが現在の作土です。かんがい水の影響があるのはこの作土とその下20~30cmまでの部分です。水田作土は少なくとも前作の水稲根、稲かぶ、散布されたワラまたは堆肥などが入り、それが微生物の餌となり、湛水期間中には容易に還元状態となり、マンガン、鉄は溶出します。このような湛水期間における作土の強い還元は水田の土の特徴です。還元状態の鉄やマンガンがゆっくり下層に移動し、作土の下が酸化状態なら、そこで沈殿して斑紋ができます。写真6における現在の作土の下にできた鉄の沈殿は深さ約20cmの所にあります。
写真6:水田の土(鹿島台)

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