農学部50周年誌に載せた「農学部の情報ネットワーク」の文章です。

 50周年誌に藤原名誉教授が寄せた文章は必見です。ご注文は同窓会までどうぞ。


 朝、研究室に来て自分の机に座ると、まずコンピュータのスイッチを入れる。ネットワークにつながったコンピュータは、自動的にサーバーにアクセスし電子メールをチェックしてくれる。今朝はアメリカの研究者仲間からメールが届いていた。先日、電子メールで連絡した測定方法がうまくいったとの知らせだ。現在の農学部の情報ネットワークでは、このような電子メールの他、文献検索、遺伝子やタンパク等のデータベースの利用などがごく一般化している。その歴史を簡単に振り返ってみたい。

 1988年4月、東北大学のネットワークシステムTAINS(Tohoku University Academic/All-round/Advanced Information Network System)が運用を開始した。これは、キャンパス間の高速な光ファイバによる基幹ネットワークと、建物内の同軸ケーブルによるインハウスネットワークからなるもので、東北大学のどの研究室からもネットワークの利用ができる設備であった。ただし、農学部キャンパスへの基幹ネットワークは、高速な光ファイバ(100Mbps)ではなく低速な無線(6.3Mbps)での接続となった。これは、光ファイバを農学部へ引くために国道4号線を跨ぐコストが莫大なためであり、止むを得ない措置であった。

 農学部内では、医学部より無線で中継された信号は10番教室から各建物へ光ファイバで延長され、さらに各建物内を張り巡らされた黄色い同軸ケーブルに流れている。利用者は、廊下にぶら下がっている黄色い同軸ケーブルに接続するようになっている。

 このTAINSに研究室のパソコンから簡単に接続できるようにするため、コミュニケーションサーバ(略称CS)が66台配布された。これにより、利用者はケーブルを用意しCSとパソコンを接続すればTAINSにつなぐことができ、どの研究室からもパソコンがホストコンピュータの端末として使用できるようになった。TAINS上では、大型計算機センター、情報処理教育センター、図書館検索システム、電子掲示板メールシステム、生協情報システムなどがサービスを行っており、CSを経由して幅広く利用されていた。しかし、CSを介した利用ではパソコンが端末になるだけであり、速度的にも電話線を介したパソコン通信の粋を超えるものではなかった。TAINSの利用が本格化したのはイーサネットが普及してからのことになる。

 TAINSは、1991年頃からインターネットへ接続され、東北大学内のローカルなネットワークからグローバルなネットワークへと大きく進化した。また、この頃CSを介さずにTAINSに直接接続するためのイーサネット機器が入手出来るようになり、研究室内のコンピュータにイーサネットボードを装着すると、世界中のコンピュータと直接やり取り出来るようになった。このようなネットワーク環境の高度化により、従来の大容量のデータの高速転送や大型計算機利用のための利用から、研究上のコミュニケーションツールとしての利用が増加した。特に電子メールはコンピュータを専門としない研究者にも普及しはじめた。

 初期の農学部からの電子メールの利用は、大型計算機センターや情報処理教育センターのシステムをサーバーとしたもので、これらのセンターにログインしコマンドを入力する煩わしいものであり、コンピュータの知識に習熟した一部の研究者に限られていた。しかし、イーサネット機器が安価に入手でき、またパソコン用の電子メールソフトが開発されるようになってから、普通のパソコンユーザでも気軽に使用できるようになり、農学部での利用は増加していった。

 しかしながら、センターのシステムはサービスの停止がよくあるとか個人のファイル容量の制限が厳しい等の不便な点が多く、他の部局では自前でサーバーを用意するようになっていた。農学部内では、有志により2台のサーバー、すなわち1994年の秋からサービスを開始したshibutu.biochem.tohoku.ac.jpと1995年の春からのmidori.bios.tohoku.ac.jp、が運営されるようになり、電子メールの利用がより便利になった。しかし、利用者が200名を超え有志での運営も限界が来たので、農学部として正式なサーバーコンピュータを2台購入するに至り、1996年の春から公式な運用が始まった。現在では、2台のサーバーで合計480人が登録され、教官はもちろん学生にも電子メールが利用されている。

 農学部でTAINSにイーサネットで直接接続したコンピュータは、1994年1月では4台、1995年1月でも14台だったが、サーバーの運営開始とともに急激に増加し1996年1月には160台となった。1995年は農学部におけるTAINSそしてインターネットのビッグバンであった。なお、1996年11月現在では約300台のコンピュータがイーサネットに直接接続されており、研究室はもちろん事務や図書館でも広く利用されている。

 さて、インターネットではWWW(World Wide Web)が広く利用されている。これは、テキスト、音声、画像等の情報を組織化してインターネット上で公開したもので、関連する情報のインターネット上での場所を同時に示すことで、次々に世界中から情報を集めることができるものである。現在のインターネットブームの正体はこれであるが、見て楽しいので非常に人気がある。

 農学部でもメールサーバーを運営していた有志により、農学部を紹介する情報(ホームページ)が作成されWWW上で公開していたが、現在では農学部広報委員会のもとで公式なホームページが作成されている(http://www.bios.tohoku.ac.jp)。これには、学科、学系、講座の紹介はもちろん大学院の入試案内ものせてある。

 TAINS(1988年に敷設したネットワーク、以後TAINS88)は、利用者の増加により回線が混雑し通信に支障をきたすようになったため、次世代の超高速ネットワーク(通称SuperTAINS)が1995年2月に運用を開始した。これはキャンパス間もキャンパス内も光ファイバで結んだものであり、大容量のデータを通信するマルチメディアにも対応できる高速ネットワークが研究室から利用できるようになった。

 農学部では、SuperTAINSの運用開始時の時点では、TAINS88と同様な地理的な事情から光ファイバを引くことができず、SuperTAINSを直接利用することはできなかった。しかし、関係者の働きかけもあり翌年度の拡充工事の際に、他部局の工事に優先して光ファイバの敷設が行われ、農学部でも1996年3月からSuperTAINSが利用できるようになった。

 このSuperTAINSには、1996年4月から情報処理教育センターの農学部サテライト端末局のX端末30台が接続されている。また、農学部のTAINS88に接続されたコンピュータをSuperTAINS側に接続するための必要なネットワーク機器を現在整備中であり、現在のイーサネットの機器が総てSuperTAINSへ接続できる上、より高速なファーストイーサネットと呼ばれる機器も接続できるため、その実現が待たれている。さらに、インターネットでのテレビ会議システムや衛星回線を通じた授業(通称SCS)などが東北大学として予定されており、SuperTAINSの活用が期待されている。

(木村和彦
平成2年〜農学部情報処理委員会委員
平成2年〜東北地区計算機利用協議会委員
平成6年〜東北大学SuperTAINS小委員会委員)


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