土壌を必要としない新農業技術(アイメック)を活用した
      被災農地の復旧・復興プロジェクト

東北大学 農学部 分子酵素学分野 内田隆史
メビオール株式会社 森有一

 

はじめに
 平成23年3月11日に発生した東日本大震災は未曽有の大津波を伴い東日本に大きな災害をもたらした。特に宮城県、岩手県、福島県の被害は類を見ないものであった。大津波によって流失、冠水などの被害を被った農地の推定面積は23,600ヘクタールに上り、最も被害の甚大な宮城県では農地の11%が被災したと言われている。被災した農地は油、塩などの有害物質で汚染されていて、再生には莫大な費用が必要である。更に、農業及び農業関連事業の従事者の内、7万人以上の人が仕事を失うと言われている。本震災では東北沿岸の数多くの漁港が壊滅的な被害を受け、漁業関連の人達も仕事を失うことになり、失職者の数は類を見ないものになると推定されている。東日本大震災の被災農地の復旧と雇用の確保は緊急の課題であり、早急に東日本大震災被災農地復旧プロジェクトを創出すべきことは言を俟たない。
 本提案は、再生医学など医療分野での応用が進んでいた親水性高分子ゲル(ヒドロゲル)を農業分野に応用した「アイメック農法」を、津波被災した農地で実施するプロジェクトであり、本農法の発明者であるメビオール(株)・早稲田大学 森と、ヒドロゲルに関し、森と長年にわたり共同研究してきた東北大学 内田が共同で提案する。アイメック農法ではトマトを主に生産するが、被災地の特徴を考慮し、宮城では新たにイチゴ生産にも取り組む。

本プロジェクトの目的
 1)日本の先端技術である膜分離技術を世界で初めて農業に応用することによって開発されたアイメックによって、大津波によって油などの有毒物質、塩などによって汚染された農地で、安全で高品質の農作物を安定して生産できるかどうかを確認するためにアイメックモデル農場(栽培面積:600坪)を被災農地に建設し、高糖度トマト・イチゴの試験生産を行う。
 2)アイメック農法が被災農地で有効であることを確認した後に、アイメックモデル農場数を拡大する。アイメック農法の技術習得は農業経験が全く無い方々(例えば漁業従事者)でも2年間で可能である。1ヶ所のアイメックモデル農場(600坪)で3人の雇用が発生し、2年後に3人のアイメック技術習得者が独立できるシステムを確立する。本プロジェクトではアイメックモデル農場を100ヶ所設立し、毎年150人の時限雇用と150人のアイメック自営農家を創出することを目指す。10年間で1,500人の時限雇用者と1,200人の新規アイメック農家を創出できる。アイメックモデル農場の経営は高栄養トマト・イチゴの生産販売によって行う。
 3)被災農地にアイメックを導入することにより農業の産業化を促進し、“若者の農業離れによる農家の高齢化、農家数の減少、技術の衰退、挑戦心の欠如、低収益性、”といった日本の農業の問題点を解決した近代化農業モデルを被災地に作り、日本農業の進むべき方向性を実証する。

アイメック農法
 本プロジェクトの核技術であるアイメックは土壌の代わりに選択吸収性を有するヒドロゲルから成る膜(ハイドロメンブレン)を活用した全く新規な農業技術である。
1.アイメック農法とは何か
 アイメックは、図1に示すように、日本の最も得意とする環境、医療用製品に広く使用されている膜技術を、世界で初めて農業に応用することによって発明された革新的な技術である。世界127ヵ国に特許出願中で、すでに日本、米国、中国、露、韓国、加州、欧州、豪州など50ヵ国以上で特許が成立している。

図1 アイメック農法とは何か

2.アイメック農法の原理と特徴
 アイメックの原理を図2に示す。作物をハイドロメンブラン(HM)と呼ばれるフイルムで養液と隔離して栽培するシステムである。フイルムの特徴は、1)フイルムには数ナノメーターの超微細孔が無数に開いていて、水、各種イオン、アミノ酸、糖分などの栄養素はフイルムの中に吸収されるが数十ナノメーターのウイルス、さらにサイズの大きな菌類はフイルム中には侵入できないために、養液が汚染されても作物は病気にならないため農薬の使用が抑えられ、更に水耕栽培のように養液を循環、殺菌する必要も無く、設備コスト、運転コストが大幅に削減される、2)フイルムは吸水性を示すハイドロゲルから形成されていて養液側から水分と栄養素を吸い込むが、反対の植物側には放出しないためにフイルム表面はカラカラに乾燥している。そこで作物は根をフイルム表面に張り付けてフイルムの内部の水分と栄養素を吸い取ろうとして、図3に示すように膨大な量の根毛を発生させフイルム表面に付着させる。それでも不十分なため、大量の糖などを合成し、浸透圧を高め、フイルム中との浸透圧差でフイルムから水分、栄養素を吸収した結果、高栄養化する。従来、養液中の塩分濃度を高め、浸透圧効果により水分の吸収性を抑制し、高栄養化する方法は開発されてきたが、高塩障害によって著しく生産性が低下するという問題を解決できなかった。アイメックの特徴は、塩分ストレスの代わりにハイドロゲル中の水の持つ水分ストレスによって生産性を落とすことなく高栄養価を達成できる点で、革新的な技術といえる、3)フイルムは完全な工業製品であり、土などの天然素材と異なり均一性、再現性に優れていて、栽培技術のマニュアル化が容易であり、全く農業の経験が無い人でも1~2年で栽培技術を習得できる。更に、フイルムは工業製品であり、生産量が増えるとコストが大幅に低下するというメリットがある。又、使用後は焼却処分が可能であり、将来的には熱水に溶解することによりリサイクルも可能になる。

図2 アイメックの原理


図3 養液を吸い取るためにハイドロメンブラン上で発達した膨大な量の毛根

3.アイメックシステムの構成と特徴
 アイメックシステムの構成を図4に示す。その特長は、1)大地に敷かれた止水シートによって栽培部分が大地と完全に隔離されているために、作物を津波により塩分、ヘドロ、放射性物質など有毒物質で汚染された土壌でも安全な農産物を生産性を落とさずに生産できる、2)供給された水、肥料が止水シートによって外部に流亡することがなく、すべて作物に使われるため、低コスト、低環境負荷農業が可能になる。従来の水耕栽培では何十トンという水、肥料が廃棄され、土耕栽培の場合は大量の水、肥料が土壌中に流亡し、高コストと環境汚染の問題を起こしていた。アイメックでは水の使用量は従来の土耕栽培、水耕栽培の10~20%である。3)従来の水耕、土耕栽培では、生産量を上げると品質が低下し、高品質化すると生産量が低下するという問題を解決することができなかった。アイメックではフイルムの下から供給される養液は、先にも述べたように、作物の栄養価を高め、糖分、グルタミン酸の含量が水耕栽培と比較して2~3倍に増加する。更に、GABA、リコピンなどの機能成分も数倍に増加する。一方、フイルムの上から供給される養液は作物の生長を促すために、初めて生産性と品質の両立が可能になる、4)アイメック設備コストは水耕栽培の数分の一で、更に工事が農家自身ででき、トラクター、耕運機などの重機も不要という点も有利である、5)アイメック栽培ではフイルムが土の代わりをするために、長年の経験が必定な“土作り”が不要になるために農業経験のない若者でも早期に習得でき、農家の若年化に寄与する、などである。アイメックは今日の農業問題の解決の一助となる。

図4 アイメックシステムの構成

4.アイメックの普及状況
 高品質トマトのアイメック技術は確立していて、3年前から普及を開始し、農事組合法人和郷園、農業生産法人株式会社つくば菜園、など約20施設に導入され、総面積は27,000坪(9ヘクタール)になっていて、更に今後は普及が加速するものと考えている。一昨年度に始まった農水省支援「植物工場プロジェクト」に7件の生産者のアイメックトマト栽培(総面積:6,500坪)が採択され、トマトが生産されている。フイルムトマトは明治屋、サミットストア、CGCグループ、オイシックス、横浜水信、寺島薬局などにおいて、差別化価格で販売されている。トマト以外にメロン、きゅうり、パプリカ、レタスなどのアイメック技術が確立している。図5にアイメックトマト農場(栽培面積600坪)を示す。

図5 アイメックトマト農場(栽培面積:600坪)

図5に示すアイメック農場の事業収支の1例を表1に示すが、大変高い収益が得られている。

表1 アイメックで高糖度トマトの生産時の事業収支の一例

 一方、国外では一昨年ドバイの砂漠の真ん中にハウスを建設しトマト栽培テストを実施した(図6)。従来の農業技術では土と水の枯渇した砂漠では作物を生産することは困難であるが、アイメックを用いると、太陽光が強く、かつ晴天率が高いために日本よりも高収量、高品質のトマトが生産できた。アイメックによって砂漠を農産物生産基地に変えられることが分かった。この成果を活用し、中東地域にアイメックを普及する会社、Agricelがドバイに設立された。又、水不足が顕在化しているオーストラリアビクトリア州政府が三菱化学と共にアイメックを評価した結果、水耕栽培と比較して節水効果と生産物の高品質性が実証され、現在は拡大評価中である。中国では内モンゴルのオルドス市で導入の検討が始まった。以上のような、海外の砂漠での実証実験が大津波で被災した農地においてもアイメックが有用であることを示している。

         図6 ドバイのアイメックトマト農場

本プロジェクトの実施計画
1. 宮城県での実績と計画
 本年6月初旬に、みやぎ全農の方々がアイメックトマト農場を視察され、8月初めにみやぎ全農傘下の被災農家の方々にアイメック栽培の説明を行い、大変強い関心を頂き、アイメックトマトの栽培過程を実際に観察したいという要望をいただき、8月下旬から名取市の宮城県農業・園芸総合研究所内で小規模テストを実施した。栽培したトマトの試食会を11月18,19日に開催されるJAグループ担い手営農復興支援フェスタ2011 in宮城で行う予定である。(追記;好評のうち終了した。)
 宮城の津波被害地は、イチゴの生産地としても有名であるので、トマトに加え、アイメックイチゴ農場もつくり、イチゴの生産も行う。
 本プロジェクトでは、まず、みやぎ全農の指導の下でアイメックトマトおよびイチゴ栽培を事業化しようと考えられている被災農家と共にアイメックモデルハウス(栽培面積:600坪)を被災地に建設し、高糖度トマト・イチゴの試験生産を実施する。我々はすでに新潟、茨城、千葉、静岡、山梨、愛知、鳥取、九州でアイメックトマトを生産販売していて、表1に示した事業収支との整合性を確認する。この試験栽培に必要な農家1件当たりの経費、約5,240万円(施設費、4,000万円と初年度の年間経常費、1,240万円の合計)を復興資金などで予算化する。表1から分かるように、施設費と初年度の経常経費を本プロジェクトで負担すれば、初年度の粗利は1,064万円(707万円+減価償却費、357万円)となり、次年度以降の年間経常費883万円(年間経常費、1,240万円 - 減価償却費、357万円)を賄って余りある、即ち2年度以降は経営が自立化できることになる。
2. アイメックトマト・イチゴの事業化
 アイメックモデルプラントにより事業性を確認後に、アイメックトマト・イチゴプラント(栽培面積:6,000坪)を被災地に100ヶ所設置する。設置経費、約524,000万円(5,240万円x100ヶ所)を復興資金などで予算化する。1)で述べたように100ヶ所のアイメック農場の経営は自立化できる。
100ヶ所のアイメック農場は毎年150人の雇用と150人のアイメック農家を生みだし、10年間で1,500人の雇用と1,200人のアントアプレナーを創出でき、被災地の雇用促進に大きく貢献できると考える。
 アイメックで生産される野菜類は安全、安心、高品質であり、この特徴を市場に浸透させるためのブランド戦略を構築する。又、アイメックの大きなメリットは気候、立地条件などに生産性が左右されにくい。即ち、計画通りにバイヤーに産物を供給できる。この点を活かして、食品会社、食品加工業者、流通業者、スーパー、百貨店、レストラン、ホテルなどと連携しサプライチェーンを構築する。
 更に、アイメック産物を使った加工食品事業を重点化する。アイメック産物の高品質性が加工食品としても差別化できるものと考える。農産物には必ず半端物ができ、これを加工することによって有効活用できる。更に、未加工農産物の国内需要8.6兆円に対して、加工品の市場は45.3兆円に上り、市場規模が5倍超に拡大する。
 一方、農産物の輸出入額のギャップ是正の意味でもアイメック産物の海外への販売ルートの構築に重点を置く。大手商社などとの連携によって、食品の安全性、高品質性に重点を置く中国、中東へのアイメック野菜及び加工品の販売ルートの構築を急ぐ。
 ここ3年間、アイメックトマトに対する市場の反応を調査してきたが、安全性と品質で優位性を保てれば、市場における競争に勝てるという確信を持つことができた。

まとめ
 我々は、土壌を必要としない新農業技術であるアイメック農法は、津波被災した宮城県を始めとする東北沿岸の農地でのトマトやイチゴの栽培に有用であり、必ず被災地の復興に貢献できると信じている。
 本農法の普及をご支援いただけるようお願いします。