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植物の発生

 植物の茎頂分裂組織(芽の生長点)の機能に密接に関わっている遺伝子にKNOX遺伝子があります。KNOX遺伝子が機能を失うと茎頂分裂組織の形成や維持ができなくなり、逆に本来発現していない葉で発現すると葉が生長点の性質を持ち、形が異常になります。従って、植物が正常な形で育っていくには、KNOX遺伝子が茎頂分裂組織だけで発現し、そこから形成される葉では発現が抑制されることが必要です。つまり、植物はKNOX遺伝子の発現のオン・オフを調節することにより体づくりをしており、その調節の仕組みが植物の形作りにはとても大切です。
 一般に遺伝子の発現調節は、転写される領域のすぐ上流の発現調節領域(プロモーター)により制御されています。しかし、KNOX遺伝子の場合は、それだけでは説明できない、以下のような非常に奇妙な現象が知られています。

(1)KNOX遺伝子のイントロンにトランスポゾンが挿入すると、葉で異所的に発現する(トウモロコシ)。(Vollbrecht et al (1991) Nature 350, 241-243)
(2)イントロンの一部が重複すると、異所的発現が引き起こされる(オオムギ)。(Muller et al (1995) Nature 374, 727-730)
(3)KNOX遺伝子が重複すると、葉で異所的に発現する(トウモロコシ)。 (Vollbrecht et al (1991) Nature 350, 241-243)
(4)KNOX遺伝子のゲノム断片を導入すると、葉で異所発現する(イネ)。(Matsuoka et al (1993) Plant Cell 5, 1039-1048)
(5)KNOX遺伝子のcDNAをプロモーターに連結せずに導入しても、導入したcDNAが葉で発現し、さらに内在のKNOX遺伝子も葉で異所発現する(イネ)。(Ito and Kurata (2008) Plant Sci 174, 357-36)
(6)KNOX遺伝子のmRNAが長距離移動する(トマト)。(Kim et al (2001) Science 293, 287-289)
(7)恒常的プロモーターを用いてKNOX遺伝子を発現させても、RNAは一部の細胞からしか検出されない(オオムギ)。(Williams-Carrier et al (1997) Development 124, 3737-3745)
(8)プロモーター領域は葉でも活性がある(イネ)。(Ito and Kurata (2008) Plant Sci 174, 357-36)

 これらの現象は、一般に考えられるプロモーター領域による発現制御では説明することができません。プロモーターだけでなく、エクソン、イントロンを含めた発現調節領域、遺伝子のコピー数による調節、RNAの移動や分解などの転写後調節など、様々な要因を含んだ統合的理解が必要です。私たちは、このような複雑な発現制御を受けるKNOX遺伝子が、どのような仕組みで茎頂分裂組織特異的に発現するかを、イネを用いて調べています。このような研究を通じて、植物の形づくりの仕組みを明らかにしたいと考えています。そして、それを応用し、植物の形を自由にデザインできるデザイナーを夢見ています。

以下は、具体的な研究テーマです。

(1)KNOX遺伝子の発現制御領域の解明

多くの場合、遺伝子の発現はプロモーターと呼ばれる発現調節領域に制御されています。しかし、KNOX遺伝子のプロモーターは茎頂分裂組織だけでなく、葉でも遺伝子発現を引き起こしてしまいました。

Posh1-G.jpg

従って、プロモーター領域以外にも発現制御をしている配列があるはずです。一方、KNOX遺伝子のcDNAをプロモーターに連結せずにイネに導入すると、導入したcDNAとともに元々イネが持っているKNOX遺伝子も葉で発現し、強制発現させた時と同様な表現型を示しました。

OSH1cDNA.jpg

このことはエクソンにも発現制御領域が存在し、その数が増えると葉での発現抑制機構が破綻することを示唆しています。

現在、その仕組みの解明に取り組んでいます。

(参考文献)
Tsuda et al (2011) Plant Cell 23, 4368-4381
Ito and Kurata (2008) Plant Sci 174, 357-36

(2)KNOX遺伝子が異所的に発現する突然変異体の解析

KNOX遺伝子の葉での発現を抑制している遺伝子を見つけるため、KNOX遺伝子が葉で発現する突然変異体を選抜し、その解析を行っています。そのような突然変異体では、KNOX遺伝子の葉での発現を抑制する遺伝子が働かなくなっていると考えられます。現在、タマネギのような形になったonion1、onion2、onion3突然変異体の解析を行っています。

onion1.jpg

ONION1、ONION2、ONION3遺伝子を同定し、その機能を調べることにより、KNOX遺伝子の発現制御機構とイネの発生の仕組みを明らかにしていきたいと考えています。

(参考文献)
Akiba et al (2014) Plant Cell Physiol 55, 42-51
Tsuda et al (2013) Plant Cell Physiol 54, 209-217
Ito et al (2011) Plant J 66, 680-688
Takasugi and Ito (2011) Plant Signal Behav 6, 887-888
Tsuda et al (2009) Plant Sci 177, 131–135

添付ファイル: filePosh1-G.jpg 760件 [詳細] fileOSH1cDNA.jpg 794件 [詳細] fileonion1.jpg 788件 [詳細]