有用タンパク質の低コスト生産:イネは暗いところでもタンパク質を作れるか?

 日常生活や医療でさまざまなタンパク質が使われています。植物を用いて有用タンパク質を生産する場合、遺伝子組換え体の規制と生産管理の点から植物工場での生産が必要です。しかし、植物工場は電気コストが高く、植物を用いてタンパク質を生産する場合の利点の1つであるコストの低さを十分に活かすことができません。

 環境適応植物工学分野の伊藤幸博准教授らは、光照射やそれに伴うエアコンの電気コストがかからない暗所で植物を育て、タンパク質を生産することを考えました。しかし、光合成のできない暗所で植物がどのくらいタンパク質を作るのか、さらにどのような条件にすればタンパク質量が増えるのかが分かっていませんでした。そこで、イネが暗所で発芽、生育した場合に作る総可溶性タンパク質量を調べました。

 水だけを与えて発芽、生育させたところ、イネの芽生えが作るタンパク質量は明るくても暗くてもほぼ同量であることがわかりました。また、ミネラルと糖を加えるとタンパク質量が暗所で約2倍に増えることがわかりました。ミネラルのうち最も重要なのは、窒素と硫黄でした。密植すると、1個体あたりのタンパク質量は減りますが、面積あたりに換算すると多くなることもわかりました。

 暗所でイネの種子を発芽、生育させ、タンパク質を作らせるということは、種子のデンプンをタンパク質に変換するということです。このことは種子が大きければ、それに合わせてタンパク質量も増える可能性を示しています。そこで、種子の大きさが違う品種を用いてタンパク質量を比較したところ、水だけを与えて発芽、生育させた場合はタンパク質量に大きな差は見られませんでしたが、ミネラルと糖を与えると、種子が大きいほどタンパク質量も多くなることがわかりました。

 以上のように、イネは暗所で発芽生育してもタンパク質を生産すること、タンパク質量を増やすには、ミネラルと糖の添加、密植、種子の大きい品種の利用が有効であることがわかりました。この結果は、イネを用いた暗所でのタンパク質生産が十分に可能であることを示唆しています。

 この研究は、環境適応植物工学分野(大学院生の渡邉明子さん、伊藤准教授)と東北大学科学者の卵養成講座(受講生の畑中佳乃さん、竹島幸乃さん、佐々木華凜さん、髙橋乃愛さん)が共同で行ったものです。本研究成果は、2022511日に国際学術誌「Scientific Reports」で公開されました。

 

【掲載論文情報】
タイトル: Evaluation of protein production in rice seedlings under dark conditions
著者: Watanabe A, Hatanaka Y, Takeshima Y, Sasaki K, Takahashi N, Ito Y* (*責任著者)
雑誌名: Scientific Reports 12, 7759 (2022)
DOI
10.1038/s41598-022-11672-0

 

【問い合わせ先】
伊藤幸博
東北大学大学院農学研究科環境適応植物工学分野 准教授
e-mail: yukito
tohoku.ac.jp (*を@に変更してください)

 

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