目指せ!絶滅危惧種ミヤマシロチョウの復活 個体群の復活に適した再導入源を、遺伝解析から解明

中濵直之 (兵庫県立大学兼兵庫県立人と自然の博物館)、花岡敏道 (浅間山系ミヤマシロチョウの会)、伊藤建夫 (信州大学名誉教授)、岸本年郎 (ふじのくに地球環境史ミュージアム)、大脇淳 (山梨県富士山科学研究所)、松尾歩 (東北大学)、北原正彦(山梨県富士山科学研究所)、宇佐美真一 (信州大学)、陶山佳久 (東北大学) 、須賀丈(長野県環境保全研究所)らの研究グループは、絶滅危惧種ミヤマシロチョウの遺伝解析から、野生個体群の復活に適した再導入源を明らかにしました。

ミヤマシロチョウは、本州中部の山地に生息する日本固有亜種で、長野県、群馬県、山梨県、静岡県にのみ分布するシロチョウ科の中型チョウ類です (図1)。生息地の開発による消失や植生遷移による食樹の減少から近年は絶滅の危険が増大しており、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に選定されているほか、各県のレッドリストにおいても絶滅危惧種に指定されている状況です。

生息地のうち、長野県と山梨県にまたがる八ヶ岳は以前からミヤマシロチョウの生息地として知られていましたが、植生などの生息環境の変化に伴い2010年代後半から野外での生息が殆ど確認できなくなっていました。その個体群を復活させるためには、生息環境の改善に併せて、他の地域から移動すること (再導入) が必要ですが、そのためにはもともとの八ヶ岳の個体群と遺伝的に類似した個体群を探索する必要がありました。本研究では、長野県、山梨県、静岡県の各地域5集団 (八ヶ岳、浅間山系、赤石山脈) から遺伝解析を実施することで、各地域における遺伝的な違いを評価しました。その結果、いずれの集団ともに遺伝的な違いはほとんどなく、どの地域から移動させても、もともとのミヤマシロチョウの遺伝子を乱す恐れが小さいことがわかりました。ただし個体群によって食樹や生息環境が微妙に異なる可能性があるため、それらに配慮した再導入源の探索が推奨されます。

本研究は、ほとんど実態が不明であったミヤマシロチョウの地域間における遺伝的違いを明らかにしただけでなく、八ヶ岳への再導入源を示した重要な成果といえます。また本研究手法がほかの絶滅危惧種に適用されることで、遺伝子を乱すことなく個体群を復活させることにつながると期待されます。本研究成果は2022年1月10日に、国際科学誌「Journal of Insect Conservation」の電子版に掲載されました。

プレスリリース(東北大学ホームページ)