園芸学会平成10年度春季大会・シンポジウム講演内容


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1.Biochemistry of short-day and long-day flowering in Pharbitis nil
Shinozaki, M., E. Ueno, M. Fujinami and K.Kasuya (Kyoto Univ.)

アサガオの長日と短日における開花の生化学

要旨の訳(アレンジしている部分もあります)
 アサガオは花成誘導の研究に広く供試されている典型的な短日植物である.
未展開の子葉を持つ実生苗であっても1回の暗処理によって花成誘導できる.また,貧栄養( poor nutrient;PN),強光(high-intensity light;HL),低温( low temperature;LT),根の伸長の物理的・化学的抑制など,様々な処理をすることによって,連続光下でも花成誘導できる.更に,これらの処理に対する反応性は,品種によっても異なる.したがって,アサガオは花成誘導のメカニズムの解明に格好の材料である.講演者らは,アサガオの,‘Violet',‘Kidachi’,‘Tendan’という品種を供試して,あらゆる条件下において花成の誘導を解明しようと試みている.
 今回のシンポジウムでは,アサガオの花成に関する2つの演題を発表した.

(1)PN,HL,LTによる長日条件下における花成誘導のメカニズム
(2)短日における花成の最近の成果

(1)PN,HL,LTによる長日条件下における花成誘導のメカニズム
 これらの条件において子葉は花成誘導に必要であったので,子葉の抽出物を様々な検出器を装備したHPLCを用いて分析しところ,花芽形成に密接に関連するいくつかの物質を発見した.

  1. PNとHL条件下において花成誘導に関連する(花成に先立ち集積した)物質
    ・フェニルプロパノイド: chlorogenic acid(CGA),p-coum-aroylqunic acid (CQA),pinoresinol-β-D-glucoside(PRG)
    ・糖:グルコース,フルクトース,スクロースなど
    ・ポリアミン:putrescine(PUT)

  2. LT下において,花成に先立って増加した物質
    ・feruloyqunic acid(FQA)と,CGAの代わりにアスコルビン酸と,PRG
    *開花に及ぼすHLの促進と抑制効果はアスコルビン酸の作用によって説明できる.

  3. 必要条件…高濃度の糖
    補助的条件…CGA,PRG,FQAおよび/あるいはPUT
    →これらが満たされたときに長日で花成が誘導される

  4. フェニルプロパノイドが果たす生理的な役割を解明するために,phospho-diesterase(PDE)阻害物質として知られているPRGに着目した.
    →PDE阻害物質である,Papaverine,Theophyline,CaffeineはPN下の花芽形成を促進させた.

  5. 長日の花成を促進させたFQとあるベンゾイック酸の誘導物質は PDEの活性を阻害した.
    →長日下の開花での c-AMPの関連を示す.
    →PN条件下における花成と関連する c-AMPの内生レベルを表す.

(2)短日における花成の最近の成果
 HPLCを使ったパターン解析において日長で誘導した葉の抽出のなかにフロリゲン様物質を見つけだすのは困難だった.近年,講演者らは catecholamine(CA)の生合成とデグラデーションを阻害する物質が,暗期の前や暗期中に処理された場合,花芽形成が阻害されることを発見した.そこで,CAを fmolレベルで測定できるカラムを導入したが,CAを測定することは出来なかった.しかし,フロリゲンと思われる多くの物質を見つけることが出来た.

2.Ecotopic expression of the homeobox gene disturbs the developmental program
Kano-Murakami, Y. (Natl. Inst. Fruit Tree Sci.)

発達プログラムをDisturbするホメオボックス遺伝子の異所性(ecptic)発現

要旨の訳
 動物の発達プログラムはホメオティック遺伝子によってコントロールされている.ホメオティック遺伝子は特異的で相同性のある配列である,ホメオボックス配列が占めている.そして,ホメオボックスの遺伝子産物(ホメオドメインタンパク質)は,遺伝子調整タンパク質として働くことが考えられている.この遺伝子調節タンパク質(gene regulator protein)は, helix-turn-helix motif によってtarget DNAと結合している.そして,発達プログラムの調節器として影響を及ぼす.
 動物の場合と同様に,ホメオボックス遺伝子が植物の発達や分化をコントロールするか否かは興味深い問題である.植物のホメオボックス遺伝子の影響を理解するために,ホメオボックスを含む遺伝子であるOSH1をコメから単離し,アラビドプシス,タバコ,キウイフルーツに導入した.OSH1形質転換植物は矮化したり,異常な形の葉が発生したり,頂芽優勢がなくなるといった共通した形態的な変化を表した.これらの観察の結果は,OSH1遺伝子の産物が,植物の形態に関連する遺伝子の発現を制御したことを示している.しかしながら,target遺伝子のように,何によってOSH1は植物の形態を調整しているのかという分子的メカニズムは不明である.そこで,植物の成長と発達に明らかに影響を及ぼしている植物ホルモンを分析した.OSH1の発現に関連するホルモンの変化と発達におけるOSH1の可能性のある影響部位について考察する.

講演内容

  1. OSH1形質転換植物は矮化したり(キウイフルーツは‘look like bonsai’),形が異常な(針状の細い)葉を発生したり,頂芽優勢がなくなるといった共通した形態的な変化が認められた.

  2. アラビドプシスの場合,頂芽優勢がなくなった結果,花が植物体のあちこちに出来て,花数が増えた.花が咲くまでの時間は影響を及ぼされなかった.この結果から,OSH1遺伝子の産物は,植物の形態に関連する遺伝子の発現を制御していると考えられる.播種から開花までの期間は野生型と変わらなかった.

  3. タバコでホルモンの形成について調査したところ,OHS1の発現がシビアな植物体ではGA1が著しく減少したり,GA4が半減していることが確認された.また,OHS1遺伝子の発現がシビアな植物体にGA3を処理したところ,矮化状態が回復した.
    キウイフルーツの場合,GA1は検出されなくなったが,GA4はほとんど影響されないことが分かった.

  4. OHS1の過度の発現が,特にGA20の生成に影響を及ぼし,植物体の形態を変えることが推測された.



3.Environmental and mechanical effects on stem elongation
Erwin, J. E. (University of Minnesota)

茎伸長に及ぼす環境と機械的な影響.

要旨の訳
 光の質と日長に相互に作用する日周的な温度の変動は植物の茎伸長に影響を及ぼす.多くの植物で,細胞の分裂ではなく,細胞の伸長は夜温と比較して,日中の温度が高くなるのにしたがって,また,日長が長くなるのにしたがって,増加する.日周的な温度の変動と日長が茎伸長に及ぼす影響は,自然の中で付加的に現れる.茎伸長に及ぼす光の質の影響はフィトクロームを通して媒介され,%Pfrが減少すると茎身長は増加する.茎伸長に及ぼす日周的な温度と日長の影響の基本は,内生ジベレリンのレベルに及ぼす温度と,GA(ジベレリン)に対する組織の感受性に関係する.茎伸長は,機械的すなわち接触刺激による伸長阻害,あるいは温度の変動に対してもっとも敏感である.その敏感になるのは,24時間の周期の間で,茎伸長がもっとも急速で,刺激が起こる間である.すなわち,暗期の終わりと,明期の始まりの時期である.茎伸長の接触による抑制の基本は,エチレン合成の内的刺激と関連している.商業的な植物生産と将来の研究方向について考察する.

※以下の講演の内容については,アレンジしてあります.

  1. DIFによる草丈調節
    ・DIF:昼温と夜温の差(DIFference between day and night temperature)
     DIF=昼温−夜温
    ・草丈は,DIFが正(昼温>夜温)の場合は伸長し,負(昼温<夜温)の場合は抑制される.
    ・草丈の制御は温度差によって決定され,差が大きいほど影響が大きい.差が同じであれば,温度の高い・低いに関わらず同じ程度に伸長したり抑制されたりする.

  2. 光の質
    ・赤色光下で草丈の伸長は減少し,遠赤色光下で促進される.
     赤色光と遠赤色光の比率(R/FR)が大きいと伸長抑制,小さいと促進
    ・蛍光灯より白熱灯で草丈が長くなる.
     →白熱灯の光は蛍光灯の光より遠赤色光を多く含んでいる.
    ・栽植密度が高いほど草丈が長くなる理由について.植物の茎の部分に透過する光の質(色)が遠赤色が多くなるため.光は波長が長いほど遠くまで届く.

  3. ホルモンの影響
    ・負のDIF下ではGA1194453,が減少し,GA1を処理すると,草丈が回復する.




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