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平成23年度東北農業試験研究推進会議 作物推進部会 畑作物研究会(夏期)

大津波による農耕地土壌への影響−宮城県の広域土壌調査の事例から−
菅野均志,平成23年度東北農業試験研究推進会議 作物推進部会 畑作物研究会(夏期), 研究会資料 p.31
岩手県農業研究センター(2011.8.25)

講演要旨
大津波による農耕地土壌への影響 −宮城県の広域土壌調査の事例から−
菅野 均志(東北大学大学院農学研究科)

 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震により発生した大津波は青森県から千葉県の太平洋沿岸の農地23,600 haに甚大な被害をもたらした(農村振興局,2011年3月)。東北地方には被災農地の96.8%(水田19,521 ha,畑地3,321 ha)が集中し,そのうちの65.7%(全体の63.6%)が宮城県に分布する。本報告では大津波による農耕地土壌への影響と対策を解説し,被災農地の事例を宮城県沿岸部の広域土壌調査の結果(速報値)に沿って紹介する。
 津波が海岸線に到達すると海水だけでなく海底の泥土や土砂が陸地に運ばれる。強い水流は地表を押し流し,場合によっては土壌の攪乱や浸食を伴う。海水が浸入した農耕地土壌では塩化ナトリウムを主体として塩分濃度が高まり,作物には浸透圧ストレスによる吸水阻害とナトリウムイオンの害が複合した塩害が発生する。一方,津波堆積物は有害金属や硫化物を含むことがあり,前者は土壌汚染の危険性から,後者は酸化されると硫酸を生じ農地を著しく酸性化する危険性等から,作土への混合には注意が必要である。大津波による農耕地土壌への影響を (1) 海水の浸水,(2) 泥土や土砂の堆積,(3) 作土の攪乱や流失に大別すると,対策はそれぞれ (1) 塩分の除去(除塩),(2) 堆積物の性状による排土もしくは混合,(3) 客土や整地等となる。海水浸入による農地被害の評価には土壌の1:5水浸出液の電気伝導度(土壌EC)が多く用いられ,水田の除塩目標としても土壌ECで0.6〜0.3 dS/m以下(JA全農,2011年3月)が提案されている。ただし,この値は作物,品種,生育時期や土壌等により異なるので注意が必要である。
 宮城県は津波被災農地の復旧のための情報収集を目的として,沿岸部農地の堆積泥土(土砂)調査を東北大学と共同で実施した。調査は2011年5月11日から5月19日にかけて実施し,県内344地点で津波堆積物の泥土(泥層)および土砂(砂層)の厚さを記載し,それらを作土上層および次層の各10 cmとともに採取した。宮城県農業振興課の記者発表(速報値,2011年7月21日)によると,堆積物が泥層と砂層の両方を含む地点は119地点,泥層のみは98地点,砂層のみは58地点,厚さの算術平均は6.5 cm(最大40.3 cm)であった。堆積泥層61点と砂層8点で硫化物の酸化による土壌の酸性化が懸念された。堆積物の土壌ECの算術平均は泥層で13.0 dS/m,砂層で3.0 dS/mとなり,特に泥層で作土と比べて非常に高い値を示した。堆積物に含まれる重金属(銅,砒素,カドミウム)は泥層で濃度が高い傾向はあるものの土壌汚染の危険性は低いと判断された。これらの結果から,土壌の酸性化を避け効率的な除塩を行うために被災農地の修復事業では堆積物を可能な限り排土(除去)することが推奨されている。
 農地復旧は用排水路や排水機場等の農業水利施設の回復が前提となり,その上で初めて塩分濃度の低い灌漑水を用いた除塩作業が可能なことに留意しなければならない。実際の作業内容に関しては「農地の除塩マニュアル(農村振興局,平成23年6月24日)」等を参考にされたい。

参考文献
・農林水産省統計部農村振興局,津波により流失や冠水等の被害を受けた農地の推定面積(平成23年3月29日)
・日本土壌肥料学会津波による農地の塩害WG,津波・高潮による塩害(1)
・JA全農,津波による塩害対策と水田の土壌管理について(平成23年3月29日)
・宮城県農業振興課普及支援班,津波被災農地に堆積した土砂の調査結果(速報値)について(平成23年 7月21日)
・農林水産省統計部農村振興局,農地の除塩マニュアル(平成23年6月24日)

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