平成29年度 外国派遣研究者報告

FEMS 2017( 7th congress of European microbiologists ) 参加報告

東北大学大学院農学研究科
生物産業創成科学専攻 食品機能健康科学講座 動物資源化学分野
博士前期課程1年
井形 愛美

私は2017年7月9日から13日までスペイン、バレンシアで開催されたFEMS 2017( 7th congress of European microbiologists )に参加し、それに加えバレンシアの研究都市にあるNational Council for Scientific Research (CSIC)、Institute of Agrochemistry and Food Technology (IATA)の研究室を訪問し、研究交流を行いました。
バレンシアは地中海に面した港町です。日中は30℃程度まで気温が上がりますが、日本と比べ湿度が低いため非常に過ごしやすい気候でした。街を散策すると、ヨーロッパ調の建物やバロック様式やローマ時代など様々な時代背景を残した歴史的建造物が並び、街路樹のオレンジと相成って、壮健な街並みを演出していました。また町の中心部に大きな闘牛場があったり、各所でラテン音楽がかかっていたりと、街の随所にスペインらしさを感じ、滞在期間中は普段と違った日々を楽しむことができました。
FEMSは、2年ごとにヨーロッパの各都市で開催されており、ヨーロッパを代表する微生物学会です。今回私が参加したFEMS 2017はスペインのThe Spanish Society for Microbiology (SEM)と合同開催され、非常に大規模で参加人数の多い学会となりました。本大会では、様々な視点から微生物に関わる研究者が一堂に会し、感染や抗菌物質、微生物分類学など多岐に渡るセッションが行われました。
バレンシアはパエリア発祥の街としても有名であることから、学会初日のWelcome Receptionでは直径1 mもある平たい専用の鍋でパエリアが振る舞われ、参加者を大いに沸かせました。私は、学会3日目のポスターセッションでプレゼンテーションを行いました。私のポスターのテーマは、ブタ脂肪細胞における自然免疫系刺激による炎症・脂肪蓄積応答でした。初めての学会で、英語で発表を行うことに対し大きな不安を感じていましたが、今回一緒に参加した指導教官とポスドク研究員の方からの応援や、また現地で出会った研究者の方からのアドバイスのおかげで、どうにか落ち着いて発表に臨むことが出来ました。午前のポスター発表では研究内容を伝えることに精一杯でしたが、だんだんと緊張が解け、午後のポスターセッションでは拙い英語ながらも研究の展望やアイデアなどについて多くのコミュニケーションをとることができました。終わってみると、ポスターセッションの時間はあっという間で「もっと言いたかった。」と思う部分もありましたが、自分の研究の理解を深め、更に発信するという点で、非常に有意義な経験となりました。質問や意見に対して自分の考えを十分に伝えきれなかったことから、英語のスピーキング能力をもっと向上させなければと強く決心する機会となりました。また、発表日以外には、分野が異なるシンポジウムや若手研究者のプレゼンテーションを聴講し、微生物学の知識の幅を広げることが出来ました。
FEMS開催後には、腸管免疫と代謝に重点を置いて研究を行っているIATAに訪問しました。私の研究テーマとも重なる部分があり、これからの研究の刺激になるような話を聞くことができました。また、訪問中には意見交換や施設見学だけでなく、所属学生の研究発表を拝見することができました。発表では、腸内細菌による脂質代謝への影響について新たな視点から学び、同世代の研究者が活躍を目の当たりにすることで今後の研究へのモチベーションを大きく向上させるきっかけとなりました。
最後になりましたが、今回助成金を頂戴しました公益財団法人翠生農学振興会の皆様に厚く御礼申し上げます。初めての学会で、FEMSのような大規模な国際学会に参加する機会を頂き、多くのことを学ぶ大変貴重な経験となりました。この経験を活かし、一層精進して研究活動に取り組みたいと考えています。

International Hybrid Rice Symposium 2018 (IHRS 2018) 参加報告

東北大学大学院農学研究科
応用生命科学専攻 環境生命科学講座 環境適応生物工学分野
博士前期課程2年
村上 哲也

 私は、2月27日から3月1日にかけてインドネシア・ジョグジャカルタで開催されたInternational Hybrid Rice Symposium 2018 (IHRS 2018) に参加し、ポスター発表を行いました。
日本ではあまり馴染みがありませんが、ハイブリッドライスは、その超多収性という性質から、アジアを始めとした多くの国で作付面積が拡大しています。IHRSは、ハイブリッドライスに関わる最新のゲノミクスや分子育種から、経済学、各国の政策まで、非常に広い分野を扱う学会であり、各国から専門の異なる様々な研究者が集っていました。第7回となる本大会の開催地となったジョグジャカルタは、インドネシアのジャワ島に位置し、多くの大学が集中する教育学研都市、インドネシアの古都として独自の分化を残す観光都市という2つの顔を持つ魅力的な街でした。
ポスター発表では、ハイブリッドライスの育種に利用が期待される、雄性不稔性イネに関する分子遺伝学的な研究について報告しました。私は、英語でのコミュニケーションに大きな不安を抱いていたため、拙いながらにも英語で自分の考えを伝えることが出来たことは、私にとって非常に貴重な経験となりました。しかしながら、「本当はこう言いたいのに」と思う場面も多々あり、実用的にも、交流を楽しむためにも、英会話の能力を向上させたいと強く思いました。大会初日には、各国の研究機関による、自国におけるハイブリッドライス普及の現状について報告がありました。論文では既に確立された技術とされているハイブリッドライスですが、実際には、気象条件、国土の大きさ、他の農産物との関係など、多岐にわたる問題を複合的に考える必要があることを改めて実感し、実用化という段階の困難さを目の当たりにしました。私が行っている研究は、基礎的な側面が強いため、自身の研究に没頭していると視野が狭くなってしまいます。IHRSのような、分野が多岐にわたる学会に参加することで、改めて自分の研究の位置づけや、研究を通じてどのように社会に貢献できるのかを見つめ直すことができました。
研究以外にも強く印象に残っていることとして、ジンバブエの研究者の方と懇親会で同席したことが挙げ得られます。アジアとは大きく環境の異なる、アフリカ大陸のジンバブエでは稲作は一般的ではなく、食糧問題や貧困問題の解決策の1つとしてハイブリッドライスの勉強をしにきたという話を聞き、ハイブリッドライス研究の持つ影響力の大きさを実感するとともに、研究者の1人として責任感を持たなければという身の引き締まる思いがしました。また、私が以前チューターを務めた留学生の、指導教官にあたる方と懇親会で偶然同席するという出来事もあり、縁とは不思議なものだと感じると同時に、こういった場でのつながりを大切にしたいと思いました。
3日目の午後には、実際にハイブリッドライスが育てられている農場の見学をすることができました。仙台の気候ではハイブリッドライスを上手く育てることが難しいため、実際にハイブリッドライスを見るのは初めての経験でした。実際に通常のイネよりも多量に稔ったハイブリッドライスを目にして、以前までは数字だけの感覚であった多収性という性質を、実感を持って理解することができました。本大会を通じて、自分の中でぼんやりとしていた研究の全体像の、はっきりとした輪郭を認識できたような感覚を得ることができました。研究に関わる知識の幅を広げ、自身の研究についてより深く考えられるようになったと感じています。
最後になりましたが、本学会発表にあたり、助成金を交付してくださいました公益財団法人翠生農学振興会の皆様に厚く御礼申し上げます。当初開催が予定されていた、バリ島のアグン山噴火に伴う、開催地、開催期間の変更にも快く対応していただき, ありがとうございました。今回得られた知識、経験を活かし、研究活動に邁進していきたいと思います。

18th International Plant Nutrition Colloquium 参加報告書

岡山大学
資源植物科学研究所
特別契約職員助教
小西 範幸

 私は貴財団の支援を受けて、8月21日から8月24日にかけてデンマーク・コペンハーゲンで開催された第18回国際植物栄養会議に参加しました。本学会は、1954年にフランス・パリで開催されてから4年ごとに世界各地で開催され、植物栄養学を牽引してきた大規模な国際学会です。18回目の開催となった今回の学会には、50以上の国々から約550人以上が参加し、口頭とポスターを合わせておよそ500題の発表が行われました。会議が行われたデンマークの首都コペンハーゲンは、中世の街並みが残る非常に美しい港町でした。
 さて、本会議で私は、以下に示す内容の博士論文の一部をポスター発表で報告しました。植物が利用できる主要な窒素源であるアンモニウムの大部分は、土壌から吸収された後にすぐさま根で同化されます。植物においてアンモニウム同化の最初の反応はグルタミン合成酵素によって触媒されます。アブラナ科のモデル植物であるシロイヌナズナの根には主に4種類のグルタミン合成酵素 (GLN1;1, GLN1;2, GLN1;3, GLN1;4) が発現していることが分かっていました。大腸菌でこれらのグルタミン合成酵素をそれぞれ発現させた場合、GLN1;2とGLN1;3はアンモニウムに対して低い親和性を示し、GLN1;1とGLN1;4は高い親和性を示しました。この結果は、グルタミン合成酵素には分子種ごとの機能分担があることを示唆していますが、植物体内におけるグルタミン合成酵素分子種の生理的役割の違いは分かっていませんでした。本発表では、低濃度と高濃度のアンモニウムを与えた条件でGLN1;2とGLN1;3の遺伝子破壊変異体を生育させ、根におけるこれら2遺伝子の生理的機能の違いを解析しました。GLN1;2単変異体を高濃度のアンモニウムを与えて生育させると、導管液のアンモニウム濃度の著しい上昇とグルタミン濃度の低下、50%以上の新鮮重量の減少を示しました。一方、GLN1;3単変異体はいずれのアンモニウム条件でも野生型と比べて有意な表現型を示しませんでした。ただし、GLN1;2:GLN1;3二重変異体は、導管液のグルタミン濃度と新鮮重量がGLN1;2単変異体と比べて有意に減少しました。GLN1;2またはGLN1;3のプロモーターGFPを用いてこれらの組織分布を解析すると、GLN1;2は根の表皮・皮層・内皮といった表層細胞群に分布するのに対し、GLN1;3は導管への物質の積み込みに関わる内鞘細胞 (内側の細胞群) に分布していました。これらの結果からGLN1;2は根の表層細胞群で高濃度のアンモニウムを中心的に同化し、GLN1;3はGLN1;2の機能をサポートして導管液に積み込まれるグルタミンの合成に貢献することが明らかになりました。
 ポスターセッションでは、多くの参加者と私の研究について議論を交わすことができました。この会議には、窒素以外にもリン酸、鉄、マグネシウム、ケイ素などの様々な栄養素の専門家が集まっているおり、幅広い観点から私の研究についての指摘をいただけたと感じております。口頭発表では、植物栄養の各分野を牽引する先生方の話を聞くことができました。これらの中には未発表な刺激的なデータもありましたし、論文を読むだけでは知ることのできない植物栄養分野のトレンド、研究に対する各人の取り組み方などの情報を収集できました。さらに、懇親会や休憩時間には、多くの先生方とお話しすることができ、これまで論文で名前を知っているだけだった方々と直接的な関係を築く端緒になったと感じております。
 私は、この春に学位を取り、4月から岡山大学資源植物科学研究所でポスドクとして働いております。研究者として生き残るために非常に重要なこの時期に世界の研究者と交わる機会を得られたのはひとえに貴財団のご支援のおかげだと深く感謝しております。この経験を活かしてさらに面白い研究をできるように精進してまいります。ご支援いただき、ありがとうございました。

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Society for Coastal Ecosystems Studies – Asia Pacific 3rd International Symposium 参加報告書

東北大学大学院農学研究科
資源生物科学専攻 水圏生物生産学講座 水圏植物生態学分野
      博士課程前期2年
伊藤 浩吉

 私は、2017年12月4日から9日にフィリピンセブ島で開催された Society for Coastal Ecosystems Studies – Asia Pacific (通称 SCESAP) に参加し、自身の研究について英語による口頭発表を行いました。本大会は、アジア太平洋の沿岸域生態系に関する科学や、それらの保全・管理の在り方について議論し、当該分野の研究・教育を発展させることを目的に設立された比較的新しい学会です。2013年の九州天草、2015年のタイでの開催に引き続き、3回目となる本大会には、日本・中国・韓国だけでなく東南アジア諸国 (フィリピン・マレーシア・インドネシア) からも多くの学生・研究者が集いました。このため、欧米や日本といった先進国が中心となる他の国際学会と比べて、すべての国が対等に、分け隔てなく意見を交わすことのできる、とても雰囲気の良い学会でした。発表の場以外でも、ランチやディナー、学会で企画されたさまざまなエクスカーションを通じて参加者同士が交流できる場が数多く設けられており、誰とでもすぐに仲良く会話をすることができました。
 開催地がセブということもあり、サンゴ礁やマングローブといった熱帯・亜熱帯生態系の研究報告がほとんどでした。私の研究は、東北太平洋沿岸の海藻藻場という全く環境の異なるテーマであったため、いかに聴衆の興味をひきつけるかが課題でした。図や写真を多用し、文字を少なくしてストーリーを明確にすることで、見やすく、分かりやすく、面白い発表を心掛けました。口頭発表の本番ではかなり緊張してしまいましたが、3分という少ない時間の中で3人の研究者からご質問やご意見を頂き、また発表後も見ず知らずの海外研究者から「面白い発表だった」と声をかけて頂きました。たとえ英語を流暢に話すことができなくとも、自分に自信をもってアピールすることのできる雰囲気、そしてそれを真摯に受け止めてくれる聴衆の方々がいてくださったからこそ成し得たのだと思います。
 もちろん、美しい経験ばかりではありません。一歩学会の外に出ると、そこはやはり発展途上国なのだと思いました。開催地のセブ島はその美しい海のイメージで、観光ガイドにもよく載っています。しかし、実際に目にするセブの街中は信号がないにも関わらず交通量が多く、いたるところで路上生活者を目にしました。大型のショッピングモールや大通りではフィリピン人の他に、韓国人や中国人旅行者が多く、さまざまな言語が飛び交っていました。水道水も日本と同じように口にすることはできません。道は完全に舗装されている訳ではなく、建物にもいたるところにひびが入っていました。目にするもののほとんどすべてが、日本ではまず考えられないようなことばかりだったのです。私は改めて、日本がいかに安全で、特殊な環境であるかということを思い知らされました。
 とはいえ、今回の渡航経験が私にとっての大きな自信につながったことは事実です。見ず知らずの土地で、母国語以外の言語で自分の意思を伝えるという作業は、学会発表の場だけでなく、滞在期間中の生活についても共通することでした。空港の警備員、ホテルのスタッフ、ショッピングモールの店員、タクシーの運転手……こうした現地の居住者ときちんと会話しコミュニケーションをとれたことも、得難い体験であったと感じています。
 学会の最後には、サンカルロス大学の海洋ステーションを訪問し、自分と同じ海藻の研究者と出会うことができました。このつながりを活かして、将来的に南方系のホンダワラ類やその葉上動物も研究したいと考えています。海洋ステーションの後はオランゴに移動し、バードウォッチングやスノーケリング、マングローブ生態系の観察を楽しみました。
 最後になりましたが、本学会発表並びに初めての海外旅行にあたり、渡航費を助成してくださいました公益財団法人翠生農学振興会の皆様に深く感謝申し上げます。やはり海外渡航には多くの費用が掛かり、今回も往復の飛行機代が最も大きな割合を占めておりました。この助成金によって、現地での人との交流や体験活動の幅が大きく広がったことは言うまでもありません。この機会に得たさまざまな教訓を今後の研究活動に活かしていきたいと考えております。ありがとうございました。