研究内容

原田昌彦教授

ゲノム配列が同じでも・・・

「カエルの子はカエル」という言葉がある通り、それぞれの生物は固有のゲノム(すべての遺伝子を含むDNA)を持っており、それにより生物種が決定されます。その一方、私たちの体を構成する一つ一つの細胞を考えると、それぞれが同じゲノムDNAを持っているにも関わらず、皮膚の細胞や眼の細胞、さらには体内の神経細胞など、それぞれが異なった形と機能を持っていることにも気付きます。また遺伝子に変化がなくても、歳をとっていきます。何故でしょう?


ゲノムDNAは、細胞核に収納されて機能しています

ゲノムDNAは、細胞核に収納されて機能しています(図1)。細胞核内で、ゲノムDNAはタンパク質と結合してクロマチンを形成しています。このクロマチン構造が細胞核構造と協調してゲノム機能(遺伝子発現やDNA複製・修復・分配など)を制御することで、形態や機能の異なる様々な細胞が分化し、維持されています。したがって、細胞核やクロマチンの構造やその変化のしくみを解明することは、ゲノムDNAの機能制御を知ることに必須であるばかりでなく、発生や疾病のメカニズム解明にも直結しています。したがって、クローン、再生医療、遺伝子治療などの分野においても、細胞核・クロマチンの研究は極めて重要な位置を占めているのです。細胞核やクロマチンがどのようなタンパク質によって構築されているのか、またこのようなタンパク質によって核やクロマチンの構造・機能がどのように制御されているのかについては、まだその多くが未知のままです。そのため、世界中の研究者がこれらの未知のタンパク質やその機能の解明を目指しています。我々のグループは、アクチン関連タンパク質(図2)や様々なクロマチンタンパク質の解析を通じて、この競争に参加しています。

Arp: アクチン関連タンパク質

では、アクチン関連タンパク質とは何でしょう?まず、アクチンはご存じですか?筋肉を構成する細胞中に多く存在してフィラメント状の構造を形成し、筋肉の収縮に関わるタンパク質として発見されました。その後、筋肉以外にも、すべての細胞にアクチンは存在しており、細胞骨格の形成や運動、さらには細胞の分裂などに中心的な役割りを果たしていることが明らかにされています。このようなアクチンが細胞核やクロマチンの構造や機能にも関わるというアイディアは魅力的ですが、残念ながら、細胞核にはほんのわずかなアクチンしか存在しません。一方、アクチン関連タンパク質(actin-related proteinの略でArpと呼ばれます)は、アクチンに構造的にも進化的にも、とてもよく似た特徴をもつタンパク質で、およそ10種類が存在しています。私たちは、このうちのいくつかのArpが細胞核に集積していることを世界ではじめて報告しました。その後も、様々な Arpが出芽酵母やヒトの細胞核に集積していることを見出し、その機能解析を続けています。このようなArpの中には、脳・神経だけに存在しているものもあり、細胞分化の観点からも注目されています。

クロマチンタンパク質とArp

一方、クロマチンを構成するもっとも主要なタンパク質はヒストンです。クロマチンリモデリング酵素は、ヒストンに作用し、ATPのエネルギーを使ってクロマチンの構造を変えるタンパク質ですが、Arpの重要な機能の一つとして、クロマチンリモデリング酵素の機能の制御があることが分かりました。このようなArpの機能のメカニズムを明らかにするために、ヒストンやクロマチンリモデリング酵素の研究も行っています。我々は、このような研究を、他学部や他大学、さらには海外の研究室との共同研究によっても推進しています。


Reviews for beginners


染色体と細胞核のダイナミクス [化学同人] (2013)

高次エピゲノムと細胞骨格 [細胞工学, 31, 894-900] (2012)
北村大志・原田昌彦

細胞核の構造とエピジェネティック制御 [化学と生物, 50, 4, 262-268] (2012)
尾間由佳子, 原田昌彦

堀籠智洋准教授

出芽酵母を用いたクロマチン動態、細胞老化・若返りの研究

リボソームRNA遺伝子(rDNA)は地球上のすべての生物が持つ巨大な反復遺伝子です。この遺伝子領域がDNA二本鎖切断を受けて不安定化すると、細胞老化が引き起こされることが知られています。我々は、損傷を受けたrDNA(患者)が修復の行われる場所(病院)まで自ら移動して安定化されることを明らかにしています(図1)。このようなクロマチン動態とその時空間的制御に関する解析から、ヒトにまで保存された老化と若返りの機構を解明したいと考えています。


高山裕貴准教授

<準備中>