当研究室では秋田県農業試験場との共同研究で、「秋田63号」という高収量性のイネを用い (Figure A)、圃場試験にて多収を実証しました(1057 kg/ 10 a、玄米収量日本新記録を2001年に達成)。現在は、秋田県立大・秋田県農試・岩手生工研センターとの共同研究により、その多収要因遺伝子の同定を進め、さらに高収量をめざした新品種育種を行っています。
Figure A:精玄米収量1057 kg/10aの日本記録を達成した秋田63号
1960年代の緑の革命以来、人類は穀物の品種改良 (短稈化など)や栽培技術の改善(化学肥料・農薬の使用、農業機器や灌漑設備の改善など)を背景に穀物の収穫量を増加させてきました。しかし、現在では、耕地面積の頭打ちや、単位土地面積あたりの穀物収量 (単収)の伸びも鈍くなっていることから、収穫量も頭打ちになってきています。世界人口は今後も増加することが予想されており、近い将来、人類は深刻な食糧不足に見舞われると考えられます。その問題を解決するために、当研究室では植物個体に着目して研究をおこなっています。
収量を増加させるための要素として、1)シンク能:光合成産物を蓄えることのできる稲穂の容量(つまりは、モミの数とモミの大きさ)、2)ソース能:光合成能力、3)収穫物への転流効率:光合成産物を稲穂へ送る能力の三つを挙げることができます (Figure B)。
Figure B:収量を増加させるための要素
1)については、世界での稲作つくりとして、多肥に依存して主にモミ数を増やすところに重点が置かれていました。イネの収量を増加させるためには、モミの大きさに重点を置くことも試みられてきましたが、今まで多収に結びついた例はありませんでした。モミの数とモミの大きさには負の相関関係(トレードオフ)があったからです(モミのサイズを大きくすると、モミの数が減る)。
Figure C:従来と未来型の多収米品種
この関係をブレークスルーしたのが秋田63号です(Figure C)。秋田63号と、従来の高収量品種(雪化粧)、そして、一般的な品種(ササニシキ、あきたこまちなど)を様々な窒素栄養条件下において栽培しました。興味深いことに、秋田63号は少ない肥料で高収量を得られるうえ、肥料成分が少ないほど増収効果が大きいという結果が得られました。つまり、秋田63号は粒が大きく少肥でもモミ数が十分に確保できる超多収性品種で(Figure D)、窒素利用効率に優れた未来型の新品種であることが分かりました(Mae et al. 2006)。
Figure D:品種ごとのモミのサイズ
当研究室では、2)についても光合成におけるCO2固定タンパク質であるRubiscoに着目し、植物の生育環境に応じて、その適量化や活性化状態の最適化などを研究することで光合成機能の改善を目指しています(「光合成機能の改善と植物の生産性」を参照)。
昨今、環境への配慮から肥料の過剰投入は避けられる傾向にあり、より効率的な肥料の使用が求められています。肥料そのものの改良や施肥法の改善が進められる一方で、上記にあげたイネの多収を構成する3つの要素の改善を目指すことにより、施肥量の削減と収量増大の両立を期待できると考えられます。