環境ストレス耐性の遺伝機構に関する研究

津波で被災した畑地でのセイヨウナタネの栽培

 2011年に起きた東日本大震災をきっかけに、塩害に強い(耐塩性)作物の探索、利用、開発の重要性が高まっています。アブラナ類は多くの野菜の中で比較的耐塩性が高いと言われています†。当研究室では、保有・管理しているアブラナ類の遺伝資源から耐塩性の高いセイヨウナタネ(Brassica napus種)やカラシナ(Brassica juncea種)の系統を選抜しました*1。これらの系統を菜の花プロジェクト(農学研究科)*2に活用しました。また、耐塩性に関わる遺伝子座の同定などの研究に取り組んでいます*3。海岸に生息するハマダイコンの耐塩性能力の高さにも注目し、高度な耐塩性植物の開発を目指して、同様に遺伝子の同定の研究に挑戦しています。
 夏季のシーズン、特に穂が出始める頃に20℃を下回る低温に数日遭遇すると、充実した実が穂につかずに収穫が減少します。これを「冷害(障害型冷害)」言います。東北地方は「やませ」の影響を受け冷害の被害を受けるリスクが高い地域です。そのため、冷害に強い耐冷性品種の育成に向けた遺伝・育種学的研究が欠かせません。遺伝的改良の方法として、耐冷性遺伝子の探索とその利用があります。日本国内で耐冷性が強い品種の一つに‘ひとめぼれ’がありますが、それを超える耐冷性品種が中国やブータンで見つかっています。これまでにこれらの系統が持つ耐冷性遺伝子が座乗する染色体上の大まか位置(遺伝子座)を明らかにしています*4。現在、さらに遺伝子を特定するための研究に挑戦しています。


†, 大沢孝也(1961)、園芸学会雑誌 30: 241-
*1, Nasu et al. 2012, Nakai et al. 2015, Nakai et al. 2017
*2, 北柴2014菜の花サイエンス-津波塩害農地の復興(東北大学出版会)、北柴2018農学の知を復興に生かす(東北大学出版会)
*3Yong et al. 2014, Yong et al. 2015
*4, Ulziibat et al. 2016, Endo et al. 2016
*協力、共同研究: 菜の花プロジェクト(農学研究科)、農研機構東北農業研究センター、宮城県古川農業試験場


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