WORKS

当研究室における主たる研究課題

1.アブラナ科Brassica属、Raphanus属のゲノム研究基盤と育種への応用
2.自家不和合性に関する分子遺伝学的、育種学的研究
3.環境ストレス耐性の遺伝機構に関する研究
4.実用的な育種技術の開発
5.アブラナ科Brassica属および近縁種の遺伝資源保全・管理

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最近の研究成果の概要

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2020

世界のダイコン500品種のゲノム情報を公開(Kobayashi et al. 2020)
 ダイコンの品種開発を加速するためにはゲノム情報の基盤整備を進める必要があります。2014年にダイコンのゲノム塩基配列情報を世界に先駆けて発表したのに続き、ゲノム情報を高度化するため、東北大学大学院農学研究科を中心に、千葉県のかずさDNA研究所と農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)野菜花き研究部門と協力して、地域に根付いた品種を主として500を超える世界各地のダイコン品種のDNAを分析し、世界最大級の数となる品種間で異なる部分(SNP:一塩基多型)を明らかにしました。この遺伝情報に基づくと、世界のダイコンは大きく4つのグループに分類され、日本の品種は独自のグループを形成することが分かりました。この研究の詳細は国際科学雑誌「DNA Research」で発表されました。(東北大学プレスリリース)

世界一巨大な根をもつ「桜島大根」のゲノム解読に成功(Shirasawa et al. 2020)
 世界一大きな「桜島ダイコン」のゲノム塩基配列を解読しました。本解読には最新の一分子リアルタイムシーケンサーによるロングリード技術が使われ、ダイコンゲノムとしてのゲノムカバー率はこれまでの80%から100%へと向上し、塩基配列の連続性(繋がりの良さ)も27倍に向上した高精度なゲノム塩基配列を決定しました。この研究の詳細は国際科学雑誌「DNA Research」で発表されました。(かずさDNA研究所プレスリリース)
先の成果と併せて、ダイコンの肥大性を含め、ダイコン特有の特徴(形質)を支配している遺伝子の探索やゲノム情報を利用した育種(品種開発)、さらに品種を識別するDNA分析技術開発が加速すると期待されます。

2019

高温による自家不和合性形質不安定性の解析(Yamamoto et al. 2019)
 シロイヌナズナ近縁種であるArabidopsis lyrataのSRK(柱頭自己認識遺伝子)とSCR(花粉自己認識遺伝子)を導入した自家不和合性シロイヌナズナを材料に、高温による自家不和合性形質の能力低下の分子機構を解析した。結果、高温は柱頭での自家不和合性能力に欠損を引き起こすこと、SRKの対立遺伝子間で高温に対する感受性が異なっていることを見いだした。また、高温で機能を欠損したAlSRKbは高温条件下で細胞膜局在に欠損が見られたが、高温でも機能を維持するAlSRK39は高温条件と通常条件で細胞膜局在量に変化はなかった。この結果から、高温によりSRKが細胞膜に局在できなくなることで自家不和合性能力が欠損していると考えられた。本研究で得られた知見をアブラナ科野菜の育種に活用することで、高温環境でも自殖種子の混入が少ない安定的なF1品種採種が行えると期待される。

ダイコン極晩抽性に関わるFLC遺伝子の挿入多型の分布 (川端ら2019、北柴ら2019)
 アブラナ科作物の一つのダイコンにおいて、その品種作り(育種)には極晩抽性であることが望まれている。アジアの国内外約200品種を調査し、極晩抽性にはFlowering locus C (FLC)遺伝子の第一イントロンにある挿入が大きく関係していることを示し、さらに、この多型を簡易的に検出するためのDNAマーカーを設計した。これは極晩抽性品種の効率的な育種に貢献することが期待される。さらに、このDNAマーカーを使って国内外の404品種を調べた結果、第一イントロン挿入多型は日本品種にしかなく、ダイコンが日本に伝播した後、日本にて各地方の在来品種が生まれる中で生じたものであることを見出した。

桜島ダイコンのゲノム解読 (白澤ら 2019 )
 桜島ダイコンは世界一大きな根を持つことで有名である。ロングリードタイプの次世代シーケンサーを使ってダイコンのゲノム塩基配列解読を試み推定ゲノムサイズ (530 Mb)の95%に相当する部分を決定した。これは従来の報告(最大で80.4%)をはるかに上回る成果である。肥大のみならず、ダイコン諸形質に関わる遺伝機構を明らかにする上で重要な情報が得られることが期待される。

2018

ダイコンのゲノムワイドな変異解析(Shirasawa and Kitashiba 2017, 小林ら2018)
 次世代シーケンサーを用いたddRAD-Seq法により9,000を越えるSNPマーカーからなる超高密度連鎖地図を作成した。さらに、ダイコン約520系統のゲノムの約32,000座に渡るSNPを解析した。このうち全系統に共通する約1,780座を用いて遺伝的多様性解析をしたところ、Raphnanus属は遺伝的に大きく4つのグループに分類され、さらに日本の在来品種は独自に分集団化した中で成立したものであると推測された。

ダイコン自家不和合性Sハプロタイプの世界標準番号の提唱(Haseyama et al. 2018)
 ダイコンの多数のSハプロタイプの塩基配列を決定し、韓国で報告されている一部の配列との対応関係を調査して整理した。これまでにRaphanus sativus種において35のSハプロタイプがあることが明らかになり、さらに、混乱しているSハプロタイプ名を整理して、世界標準番号を塩基配列情報およびSハプロタイプ判定法の情報付きで提唱した。

自家不和合性自己認識分子の機能解析(Yamamoto et al. 2018, Wang et al. 2018
①Arabidopsis lyrataのSCR(花粉側自己認識遺伝子)とSRK(柱頭側自己認識遺伝子)を導入した自家不和合性シロイヌナズナを用いて、自家不和合性反応にSRKのエンドサイトーシスが必要かを解析した。その結果、エンドサイトーシス機能欠損型突然変異体の自家不和合性は正常であったことから、SRKの活性化にエンドサイトーシスは必要ではなく、SRK活性化が細胞膜で起こっていることが示唆された。②Brassica rapaにおいて、SCRの対立遺伝子間に花粉側において遺伝的な優劣性が存在する。クラスIに属する対立遺伝子はクラスIIに対して優性を一般的に示すが、この法則が成り立たないSCR対立遺伝子を発見し解析した。この発見は優劣性の分子機構をさらに詳細に解明することに役立つと期待される

逆遺伝学的突然変異選抜技術の開発(Kohata et al. 2018)
  突然変異体集団から、高感度で効率的に期待する突然変異をもつ個体を選抜するDNA分析技術をイネで開発した。最大で1,000個体中に突然変異体が1個体存在する場合でも、高感度でその突然変異体を見出すことのできる分析技術である。イネ以外の他種作物のへの応用も期待できる。

2017

ダイコン特有の辛み成分グルコラファサチンを合成する酵素遺伝子の同定(Kakizaki et al. 2017)
 ダイコンの食味を特徴付ける辛みやたくあんの黄色、さらに、ダイコン特有のたくあん臭は、グルコシノレート(カラシ油配糖体)の一種であるグルコラファサチンの分解産物によりもたらされる。グルコラファサチンを全く含まず辛み成分の質が変化した突然変異体を利用して、これまで不明であったグルコラファサチンを合成する鍵酵素を発見した。2014年に当分野を中心に研究を展開したダイコンのドラフトゲノム塩基配列の決定の成果により、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)野菜花き研究部門と共同でグルコラファサチン合成酵素の同定に向けた研究が加速した。この成果を利用して、農研機構では原因遺伝子の塩基配列情報をもとにグルコラファサチンが合成されず辛み成分の組成が変化した2つの品種を育成し、たくあん臭や黄変が生じず、フレッシュ感のあるダイコン加工品の開発が進められている。

2016

ダイコンゲノムの変異解析(Shirasawa and Kitashiba 投稿中; Ishidaら2015; Kakizakiら投稿中; 長谷山ら2016)
RADseq法により4,435マーカーからなる超高密度連鎖地図を作成した。さらに、ダイコン118系統のゲノムの約37,000箇所の塩基配列変異を解析した。この変異情報に基づき分子系統樹解析をしたところ、118系統は遺伝的に大きく8つのグループに分類された。ダイコンのグルコシノレートは、4MTB-GSLが大部分を占めるが、4MTB-GSLの代わりにグルコエルシンが多い突然変異体を見出した。その原因遺伝子を同定し、グルコエルシンから4MTB-GSLに変える酵素をコードしている遺伝子であることを明らかにした。ダイコンの多数のSハプロタイプの塩基配列を決定し、世界的に混乱しているSハプロタイプ名の統合を可能とした。

自家不和合性自己認識分子の機能解析(山本ら2016; 宮腰ら2016)
Arabidopsis lyrataのSCR(花粉側自己認識遺伝子)とSRK(柱頭側自己認識遺伝子)を導入して自家不和合性にしたシロイヌナズナを用い、エンドサイトーシスに関与する遺伝子AP2Mの突然変異体をCRISPR/Cas9で作成した。機能欠損型突然変異体の自家不和合性は正常であったことから、SRKの活性化にはエンドサイトーシスは重要ではなく、SRK活性化が細胞膜で起こっていることを示すことができた。

イネの耐冷性に関わる量的遺伝子座の同定(Ulziibatら2016; Endoら2016)
穂ばらみ期の耐冷性が極強の「ひとめぼれ」の耐冷性をさらに強化するため、中国品種「麗江新団黒谷」やブータン品種「Kuchum」の耐冷性が戻し交雑育種で導入されているが、これら遺伝資源の耐冷性遺伝子座をSNPやSSRなどのDNAマーカーを用いて絞り込み、「麗江新団黒谷」の耐冷性遺伝子は、第3染色体の長腕末端近くの35 kb領域に、「Kuchum」の耐冷性遺伝子は、第4染色体の1.4 Mb領域にあることを明らかにした。「麗江新団黒谷」の35 kb領域にある6つの遺伝子と耐冷性との明確な関連は見出せなかった。

セイヨウナタネの耐塩性と形質転換効率の遺伝分析(Yongら2015; 真壁ら2016; 斎藤ら2016)
85品種を用いて15,166遺伝子座の変異解析を行い、無処理区に対する塩処理区の生育程度の比と地上部のNaイオン濃度を測定し、ゲノムワイドアソーシエーション解析を行った。A1、A2、A3、A5、A7、C3、C9染色体にQTLを検出し、A1染色体のQTL中のBnaaTSN1は、耐塩性品種が正常な遺伝子、耐塩性弱品種が機能欠損型対立遺伝子を持つことを見出した。地上部Na濃度も品種間差が大きく、6つのQTLを検出した。最もアソシエーションが高い遺伝子座はC7染色体に検出され、その近傍にはLEA遺伝子が座乗し、高Na蓄積品種と低Na蓄積品種間でエキソン領域に非同義的置換が見出された。アグロバクテリウムによる遺伝子導入効率に大きな品種間差があることを見出し、同様の解析で、A1に形質転換効率に関わるQTLがあることを明らかにした。

ハクサイの小胞子培養の効率に関わる遺伝子座の同定(Kitashibaら2016)
小胞子培養効率が高い品種と低い品種の自殖系統間のF1個体を用いて小胞子培養を行い、得られた胚様体の遺伝子型を154のDNAマーカーについて分析し、分離比が高品種側に大きく偏っている染色体領域をA5、A8、A9に見出した。その中で、A8のBr071-5cマーカーの位置は、BC3F1集団の遺伝子型間で小胞子培養効率に最も大きな差が検出され、このマーカー近傍に培養効率に関わる遺伝子があると推察された。

一塩基多型の高感度検出技術の開発(北柴ら2016)
ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを用いて1/1,000濃度で含まれる変異型SNPを検出する高感度分析法を開発した。また、CRISPR/Cas9で野生型遺伝子を特異的に切断し、変異型SNPを検出する技術も開発した。これらは、逆遺伝学的突然変異体選抜への利用が期待できる。