2012年度活動報告

所属:東北大学大学院農学研究科 植物遺伝育種学分野
担当:北柴大泰 西尾剛   研究室のホームページはこちら

課題:セイヨウナタネ、カラシナにおける耐塩性系統の選抜と栽培試験

[目的]
1. 耐塩性セイヨウナタネ、カラシナ系統の選抜
2.塩害農地での栽培
3.耐塩性機構の解明
4.耐塩性強ナタネ系統の開発

[経過報告]
1. 耐塩性セイヨウナタネ、カラシナ系統の選抜
 2011年に引き続き、東北大学農学研究科保有の遺伝資源にあるセイヨウナタネ(Brassica napus)、カラシナ(Brassica juncea)の中から、耐塩性が強い系統の選抜を行った。塩処理栽培後の乾物重比、および乾物重比の累積値を指標に耐塩性程度を評価した。セイヨウナタネでは試験した38系統数のうち5系統(‘N-343’, ‘N-127’, ‘Westar’, ‘N-503’, ‘N-119’)、カラシナでは28系統数のうち4系統(‘J-105’, ‘C-639’, ‘J-130’, ‘J-138’)が比較的強い耐塩性を示した(表1)。続けて吸収された地上部でのナトリウム量を測定した。単位乾物重当たりのNa含量は耐塩性の強弱に関わらず処理塩濃度が高くなるにつれNa含量も増加し、系統間で差は観察されなかった(図1)。しかしながら、セイヨウナタネ、カラシナともに耐塩性が強い系統は弱い系統に比べ植物体当たりNa量を多く蓄積する傾向が見られ、セイヨウナタネ、カラシナともに1.5〜2倍であった。耐塩性強系統の除塩への効果は期待できると考えられる。







2.塩害農地での栽培 ― 耐塩性系統の圃場栽培の管理・収穫・調査  2011年10月上旬に被災水田(若林区荒井地区)および被災畑(仙台市農業園芸センター)に植えたセイヨウナタネ、カラシナの成育、収穫量等を調査した。寒雪害のためカラシナは一部枯死した。被災水田のセイヨウナタネは白鳥の食害を受けたが、初春から順調に成育を再開した。6月中旬から7月にかけて収穫時期を迎えた。セイヨウナタネにおいて各系統の草丈、収穫量を栽培試験区(対象畑、被災畑、被災水田)の間で比較すると、いずれの系統も塩害による草丈の減少傾向を示したが、収穫量(kg/a)では減少傾向は見せたものの試験区間で統計的に有意な差は見られなかった(表2)。千粒重では ‘N-119’は塩害の影響をまったく受けなかった。‘キザキノナタネ’の被災畑、被災水田におけるこれらの値は、東北農業研究センターが発表している値とほぼ同程度であり (Ishida et al., 2007)、津波で被災した土地でも十分な成長と種子の収穫が期待できることが分かった。なお、‘キラリボシ’はエルカ酸、グルコシネート量がほとんど無いため、収穫期に種子を含む莢が鳥による食害をうけ、正確なデータを得ることが出来なかった。カラシナでは、上記1で耐塩性強と判定した ‘J-105’と耐塩性弱と判定した ‘J-601’ともに草丈は試験区間でほとんど変化はなかった。しかし被災畑、被災水田において収穫量が両系統とも激減した。栽培試験を踏まえ種子の収穫量の点で考えると、セイヨウナタネが塩害農地には適しており、試験区近郊の農地では ‘N-119’および‘キザキノナタネ’どちらを栽培しても標準程度に収穫が望めると考えられた。またセイヨウナタネは仙台近郊の風土にも問題なく適応できることも分かった。一方のカラシナでは試験した系統では寒害等の影響のためか、十分な種子収穫量は期待できないことが分かった。



3. 耐塩性機構の解明 ― 塩ストレス耐性に関与する遺伝子の発現変動  植物は塩、低温、乾燥などの環境ストレスをうけると防御機構が働き、ストレス耐性に関与する遺伝子が働きだす。アブラナ科植物ですでにいくつかの遺伝子が知られている。耐塩性強のセイヨウナタネ‘N-119’と耐塩性弱の‘キラリボシ’間でこれらの遺伝子発現の変動を調査した。浸透圧調節に関わる適合溶質タンパク質遺伝子の発現が両系統とも急速に高まり、‘N-119’では‘キラリボシ’に比べてその発現量が約7倍であることが分かった。この誘導される適合溶質の生産能が‘N-119’で優れており、急速な塩ストレス下でも細胞内の浸透圧を調節し、細胞内からの水分喪失を迅速に防いでいると考えることが出来る。系統間差を決める他の要因を理解するために、網羅的に塩ストレスで変動する遺伝子を調査している。

4.耐塩性強ナタネ系統の開発  1での耐塩結果に基づき、2012年度春に耐塩性が強い系統間で交雑をしF1世代を得た。現在このF1世代を育成中で、2013年春にはF2世代(次世代)の種が採種できる予定である。この世代にはさらに強い耐塩性を示す植物個体の存在が期待されるため、耐塩性評価方法を検討したのち、次期シーズンには実際に選抜を行うことができると考えている。