イネにおける液胞膜グルタミン排出型輸送体の発見

早川 俊彦 准教授
(植物細胞生化学分野)
専門 植物分子栄養学

窒素は、植物の生育や作物の生産性を左右する多量必須栄養素です。湛水下の水田で栽培されるイネは、主に土壌中のアンモニウム態窒素を根で吸収します。吸収アンモニウムは、グルタミン合成酵素とグルタミン酸合成酵素の共役酵素反応によりグルタミンに初期同化され、このグルタミンが導管を介して、根から地上部へ長距離輸送されて生育に利用されます。しかし、根のグルタミン貯蔵の分子機構は不明なままでした。

東北大学大学院農学研究科の早川俊彦准教授の研究グループと同研究科の種村健太郎教授と平舘裕希助教、工学研究科の魚住信之教授と齋藤俊也博士研究員、新潟大学農学部の末吉邦教授および国際農林水産業研究センターの小原実広主任研究員は、機能が全く不明であった植物ATLa/AVT6推定アミノ酸輸送体族の一員であるイネATL6 (amino acid transporter-like 6)が、液胞膜グルタミン排出型輸送体であることを発見しました。十分なアンモニウム態窒素を供給したイネ幼植物の根では、グルタミン応答性の液胞膜ATL6が、過剰な同化グルタミンをサイトゾルから液胞内に輸送して一時的な液胞内貯蔵に関わり、根から地上部への同化グルタミンの長距離輸送と地上部の生育に影響を与えることを明らかとしました(図)。本研究成果は、持続可能な開発目標(SDGs)(目標2:飢餓をゼロに)のための、より高生産・持続可能な農業達成に向けたイネの窒素利用と生育の高効率化の分子育種につながると期待されます。

本研究成果は、国際誌「The Plant Journal」の掲載に先立ち、オンライン版(2021年7月21日)に掲載されました。

【発表論文】
雑誌名:The Plant Journal,107, 1616-1630 (2021).
https://doi.org/10.1111/tpj.15403
論文名:Rice amino acid transporter-like 6 (OsATL6) is involved in amino acid homeostasis by modulating the vacuolar storage of glutamine in roots.
著者名:Saori Ogasawara*, Masataka Ezaki*, Ryusuke Ishida, Kuni Sueyoshi, Shunya Saito, Yuki Hiradate, Toru Kudo, Mitsuhiro Obara, Soichi Kojima, Nobuyuki Uozumi, Kentaro Tanemura, and Toshihiko Hayakawa** (*equal contribution, **corresponding author)

十分な濃度のアンモニウム態窒素栄養を与えたイネ幼植物根の過剰同化グルタミンの一時的液胞貯蔵におけるATL6の機能のモデル図. (A) 野生型イネ.(B) ATL6遺伝子発現抑制イネ. NH4+, アンモニウム; AMT1, アンモニウム輸送体1; ATL6, アミノ酸輸送体様タンパク質6; Gln, グルタミン; Glu, グルタミン酸; GS1, サイトゾル型グルタミン合成酵素1; NADH-GOGAT1, NADH-グルタミン酸合成酵素1; 2-OG, 2-オキソグルタル酸.

この研究は、植物体内での窒素リサイクルの機構を明らかにし、少ない肥料でもよく育つ作物の開発を目指しており、以下のSDGsの達成に貢献しうるものです。

  • 1.貧困をなくそう
  • 2.飢餓をゼロに
  • 3.すべての人に健康と福祉を