氏名 加藤 俊治
職位 准教授(兼任)
TEL 022-757-4420
FAX 022-757-4417
Mail shunji.kato.b5*tohoku.ac.jp(*を@に換えてください)
専門分野 分析化学、脂質生化学、油化学、光化学
経歴 弘前大学農学生命科学部卒業、東北大学農学研究科修了、日本医科大学内分泌代謝内科博士研究員、東海大学医学部博士研究員、東北大学農学研究科助教を経て現職。
Research map https://researchmap.jp/shn
研究内容

食品・生体脂質の酸化機構の解明と酸化制御に向けた取り組み

食品・生体脂質の酸化は食品劣化や疾患の発症に関わると言われており、適切な制御が昔から求められてきました。しかし酸化と一口に言っても、そこにはいくつかの酸化機構(熱や光などに由来する)が存在し、適切な制御のためにはその機構を知ることが重要となります。例えば有名な抗酸化成分であるビタミンEは一部の酸化機構にのみ有効です。そのため、食品・生体で生じている酸化機構を明らかにした上で適切な抗酸化対策を講じることが必要となります。私たちはこの脂質酸化機構の解析法の開発に世界に先駆けて成功しており、本法を活用して食品・生体脂質の適切な酸化制御に挑戦しています。

シーズ
  • 脂質酸化機構の解析法

質量分析を用いたリピドミクスは数多く開発されていますが、私たちが開発した質量分析法は本来質量分析には禁忌とされているアルカリ金属を上手く活用した独自の分析法です。この方法によって、酸化脂質の非常に類似した構造を高選択的に見分けることができるようになりました。この方法は食品や生体に存在する幅広い脂質クラス(リン脂質、トリアシルグリセロール、コレステロールエステル等)の酸化機構の解析に有効であり、以下に紹介するような様々な分析法に応用されています。

本研究は伝統ある国際誌Journal of the American Society for Mass Spectrometry, 32 (2021)の表紙に採択されました。

 

リンク:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/jasms.1c00039

  • 食用油、保存に気をつけていますか?

脂質の酸化は食品の品質、消費期限を決める重要な要因です。そのため、食品脂質の酸化制御はSDGs達成に向けた必須の課題といえます。上述の質量分析法を食用油脂の酸化機構解析に応用したところ、私たちが普段使用している油脂がどのような時にどのような酸化機構によって酸化されるのかを明らかにすることができました。特に流通・販売過程で食用油脂が日常光から受ける影響は思いのほか大きく、この知見は食品の包装や管理方法の改善に貢献すると考えられます。

このように脂質酸化は食品にとってネガティブな要因である一方で、天ぷらや揚げ物の香ばしさなど、私たちの食事にとって欠かせない要因の一つでもあります。そのため、私たちは酸化脂質の生成機構だけでなく、その酸化脂質がどのように分解し、どのような風味を付与するのかを明らかにする研究も進めています。こうした研究をベースに食品脂質の酸化を適切に制御できれば、さらなる食品の品質向上や、新たな調味料などが生まれるかもしれません。

本研究の一部は食品分野における初めてのNature関連誌:npj Science of Food(オープンアクセス)や一般商業誌「月刊化学」に掲載されました。

 

リンク:

https://www.nature.com/articles/s41538-017-0009-x

https://www.kagakudojin.co.jp/book/b431887.html

  • 酸化ストレスとは?酸化ストレスと抗酸化食品

 「酸化ストレスは老化や疾患の発症を招く」、「酸化ストレスを抑えるため抗酸化食品を摂ろう」、というフレーズを聞いたことがあると思います。しかし上述のように酸化機構によって適切な抗酸化物質は異なるため、効率良く生体内の酸化ストレスを抑えるためには、私たちの身体の中で生じている酸化機構を知る必要があると考えられます。私たちが構築した質量分析法は、これまで健常人や脂質異常症患者の血中で生じている酸化機構を明らかにしてきました。こうした知見を今後さらに収集し、老化や疾患発症に関わる酸化機構を明らかにし、真に効果を実感できる抗酸化食品の創出に挑戦したいと考えています。

本研究の一部は伝統ある国際誌:Analytical Biochemistryや一般商業誌「現代化学」に掲載されました。

 

リンク:

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0003269714005077

http://www.tkd-pbl.com/book/b492548.html

  • 私たちの身の回りに降り注ぐ光

私たちが構築した質量分析法は、食品や生体脂質の酸化に日常の光が大きな影響を与えていることを明らかにしつつあります。光とは様々な波長の集合体であり、酸化を引き起こすのは光化学的に特定の波長のみと考えられます。私たちの身の回りの光源は次々とLEDに置き換えられている他(受ける波長が変化)、PCやスマホによるブルーライトの曝露時間は増加しています。こうした光が生体や食品の酸化に与える影響を調べるため、私たちはどのような波長が食品や生体脂質の光酸化に影響を与えているのかを明らかにするため、独自の波長別光源の制作を進め、興味深い知見を得つつあります。