東北大学大学院農学研究科 動物環境管理学分野

研究室紹介Lab Introduction

研究内容 Research themes

ヒトを含めた動物は、微生物との相互作用の中で循環する資源を巧みに利用することで、健全な生活を営んできた。しかし、ひとたびこの資源循環システムが遮断されると、感染症の蔓延、食の安全性の崩壊、環境汚染、エネルギーの枯渇等の諸問題が発生してきた。
動物環境管理学分野では、これらの微生物がもたらす動物の病態や環境衛生の異常等の諸問題に対して、獣医学、微生物学の視点から解決を目指す。

トキソプラズマの共焦点顕微鏡像<br>(Sugi T et al. Int J Parasitol Drugs Drug Resist. 5:1-8.)
トキソプラズマの共焦点顕微鏡像
(Sugi T et al.
Int J Parasitol Drugs Drug Resist.
5:1-8.)
クリプトスポリジウムのオーシストの割断面の電子顕微鏡像
クリプトスポリジウムのオーシストの
割断面の電子顕微鏡像
熱帯熱マラリア原虫(ギムザ染色像)
熱帯熱マラリア原虫
(ギムザ染色像)
ウシのルーメン中の繊毛虫
ウシのルーメン中の繊毛虫

主な研究課題

1)原虫、ウイルス、人獣共通感染性の病原体の宿主細胞侵入、増殖、潜伏感染、重症化の各機構の解明

世界三大感染症の1つであるマラリア(熱帯熱マラリア、ローデントマラリア)、人獣共通感染症として地球規模で問題となっているトキソプラズマ症、クリプトスポリジウム症、節足動物媒介感染症であるデング熱等を研究対象とし、「如何にして病原微生物は宿主細胞に感染し、増殖するのか」という命題について、主に分子生物学、ウイルス学の手法をもってアプローチしています。

2)原虫の感染レセプターの同定と抗原虫薬としての糖鎖薬の実用化研究

我々が確立に成功したウイルスベクターを用いた原虫感染レセプター同定系等を駆使して、レセプターの同定を行っています。特に我々が同定した糖鎖レセプターの知見を基にして、抗原虫薬として糖鎖薬の実用化に向けた研究を進めています。

3)免疫制御細胞による原虫破壊機構の解明とペプチド、金属ナノ粒子を用いた抗原虫薬の開発

マクロファージ、好中球等による原虫の貪食、破壊機構の解明、抗微生物ペプチド、アミノ酸被膜金属ナノ粒子のよる抗原虫作用の解明と薬剤利用の研究を行っています。

4)原虫及び共生ウイルスを用いた分子疫学解析と分子診断系の開発

原虫に外部及び内部で共生しているウイルスを用いた分子系統樹解析を行っています。

5)原虫のエピジェネティック機構の解明

原虫のヒストン修飾のエピジェネティック機構の解明とその応用技術の開発を行っています。

6)コンポスト化・メタン化による資源循環システムの構築
7)新たな微生物燃料電池開発による低環境負荷の排水処理・エネルギー生産系の構築

研究室風景

沿革

 本分野は、動物の個体および群の飼養管理と動物およびその環境の衛生管理を教育研究対象としている。本分野に関わる歴史は、川渡農場の前身である陸軍調馬隊設置に伴う鍛冶谷沢軍馬育成場が発足した明治17年(1884年)に遡ることができる。軍馬育成場は陸軍軍馬補充部鍛冶谷沢派出部にその後改称されたが、60年余りにわたって、馬を対象とした家畜の群管理が行われてきた。昭和19年(1944年)補充部内に陸軍獣医学校が設置されることに伴い牛の飼養が開始され、家畜の衛生に関する教育が行われた。
 陸軍獣医学校の廃止、宮城県管理川渡農場、東北帝国大学附属川渡農場、東北大学附属川渡農場を経て、昭和21年(1946年)に農学部附属川渡農場が設立され、昭和 25年(1949年)5月31日に公布された国立学校設置法により東北大学農学部附属川渡農場が設置された。

 この農場において、家畜の管理および防疫の実務および研究が、行われてきた。本業務および研究に携わったのは、藤田潯吉助教授(故人、元農水省家畜衛生試験場長:昭和23年2月15日-29年3月31日)、勝野正則助手(故人、元東北大学教授:昭和25年10月1日-26年12月31日)、安保圭一雇員(元岩手大教授:昭和23年2月1日-24年12月31日)、高橋貢雇員(麻布獣医学園理事長:昭和 23年6月1日-昭和 26年3月31日)、武安義生助手(故人:昭和27年8月1日-33年3月31日)、黒崎順二助手(故人:昭和23年1月31日-38年3月31日)、林兼六助教授(故人:昭和36年11月1日-57年11月8日)であった。

 昭和38年(1963年)4月1日、太田實技官が赴任し、同年6月に助手、昭和50年(1975年)に助教授に昇任し、農場内の家畜の管理および衛生に携わるとともに、牛の放牧、行動および繁殖管理をテーマとして、林兼六教授(兼任)とともに家畜管理学を担当した。  平成9年(1997年)4月1日、資源生物科学専攻の専任講座として生物共生システム科学講座が新設された。本講座は、おもに林地から耕地までの生態系を主領域とする生物共生科学分野と、草地から動物・家畜までの生態系を主領域とする資源動物群制御科学分野からなり、各分野には1名の教授と、助教授または助手が配置された。

 資源動物群制御科学分野の初代教授として、太田實助教授が昇任し、同年9月1日助教授として酪農学園大学峯尾仁助教授を迎えた。太田教授は、テレメトリーシステムを用いた、ルーメン運動の非接触的に計測などを通して、暑熱環境下のウシの生理や行動の研究、乳房炎の予防・治療を目的とした免疫学的な研究などを行った。平成10年(1998年)11月15日、峯尾助教授が辞職し、助教授はしばらく空席となったが、平成11年(1999年)8月1日、動物微生物科学分野より中井裕助教授を迎えた。平成12年(2000年)4月には仙台で研究を継続していた学生および院生も完全に移動し、その後順次、微生物実験室、アイソレーターと空調をもつ小動物飼育室、DNAシーケンサーなどを設置した遺伝子実験室、9m3汚水浄化実験槽、6m3コンポスト実験槽などの整備を進めつつ、原虫の遺伝子解析や環境微生物の生態および機能解析など、新しい研究テーマを展開した。同年7月1日、技術部の佐々木貴子技官が本分野に配置され、分子生物学研究の支援体制が整えられた。

 平成14年(2002年)3月31日太田教授が定年退官し、4月1日中井助教授が教授に昇任した。中井教授は、健康な家畜と健全な生産環境を作り出すことを目標に掲げ、「動物-微生物-環境」の相互関係の解明を課題とし、とくに、人獣共通感染症の起因微生物、畜産環境における病原体および機能性微生物を対象として、研究を開始した。平成15年(2003年)4月1日、農学研究科は再び改組され、本分野は動物遺伝育種学分野および動物生理科学分野とともに動物生産科学講座を形成するに至っている。

 平成19年(2007年)4月、小田和賢一助教が着任、平成21年(2009年)3月退職した。この年は多田千佳准教授が3月に、福田康弘助教が10月に着任した。多田准教授は畜産環境微生物の動態と機能解析を、福田助教は原生生物の特性を用いた分化とエピジェネティクスの関係の解明を研究テーマとし、さらに教育研究を推進する体制が整った。

 平成23年(2011年))3月11日、東日本大震災により東北地方と関東地方に甚大な被害が発生した。農学研究科では震災発生直後から「食・農・村の復興プロジェクト」が立ち上げられ、様々な復興支援策が実施された。中井教授も耐塩性の高いアブラナ科作物を植栽することで、津波塩害を被った農地を復旧する「東北大学菜の花プロジェクト」を立ち上げた。平成26年(2014年)には地球温暖化防止フィールド教育研究施設が完成した。この施設は総面積1600m2の二階建てであり、研究室、実験室、講義室および学生実習室が備えられている。新棟は「研究棟」、旧棟は「管理棟」と呼称され、川渡フィールドセンターの4研究室はこの研究棟を中心に教育研究活動を進めていくこととなった。

 平成30年(2018年)3月、中井教授の退職に伴い、平成31年(2019年)4月、教授として、帯広畜産大学原虫病研究センターの加藤健太郎准教授が着任した。加藤教授は地球規模で流行する感染症の制圧を目指し、主に世界三大感染症の1つであるマラリアと人獣共通感染症であるトキソプラズマ症、クリプトスポリジウム症について、分子生物学、ウイルス学の手法を以って、感染症学の基礎研究と診断・予防・治療に供する実用化研究を進めている。さらに7月には伴戸寛徳特任助教、翌年2月に村越ふみ助教(クロスアポイントメント)も着任した。なお2020年4月現在の教室員は教授1、准教授1、助教3、技術職員1、ポスドク4、技術補助員1、研究員2、博士課程後期1、博士課程前期2、学部生3の計19名である。