VOICE: Plant Science [No. 005] 佐藤有希代さん(ケルン大学植物科学研究所 JSPS海外特別研究員)

植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら

今回はケルン大学植物科学研究所でご研究中の佐藤有希代さんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。

佐藤有希代さん(ケルン大学植物科学研究所 JSPS海外特別研究員。植物病理学分野で博士後期課程修了、PhD)

どんなご研究をなさっているか教えてください。

 私は学生時代から今まで植物の病原体に関する研究を続けています。植物病理学は週刊スピリッツでの連載も始まったホットな分野です笑。学生時代には「植物のウイルス抵抗性システム」について研究していました。その後、岡山大学資源植物科学研究所に移り、植物に病気を引き起こす糸状菌に感染する「菌類ウイルス」の研究を始めました。菌類ウイルスには、「農作物の糸状菌病害を制御する手段」として、さらに、「植物と糸状菌のウイルス抵抗性システムを比較するための研究材料」として興味を抱いてきました。ウイルス抵抗性システムの研究を行っているうちに、菌類ウイルスが宿主菌の進化の速さを変える可能性を思いつき、検証したいと考え始めました。そこで今年の4月から、「植物病原性糸状菌(バーティシリウム萎凋病菌)のゲノム進化機構」について先駆的な研究を行ってきた、ケルン大学のBart Thomma先生のもとで修行を始めることにしました。

写真/バーティシリウムをナスの苗に接種しているところです。菌の胞子の懸濁液に植物の根を浸漬して接種します。菌の胞子の中にいるウイルスが、菌の植物病原性やその進化に影響を及ぼしているか調べるための一段階です。

現在いらっしゃるドイツのケルン大学への留学について、詳しく教えていただけますか。

 ケルン大学には、日本学術振興会の海外特別研究員という制度で留学してきました。研究テーマと渡航先を自由に設定して、渡航費と2年分の生活費・研究費をいただける制度です。テーマ設定が自由なことはとても魅力的ですが、無限にある疑問の中からどの課題に取り組むべきか頭をフル回転して決めなければなりません。ボスからも『自分が最も“enthusiastic”になれることを研究するんだ!』と自由を与えられており、「自分が最も“enthusiastic”になれること」とは何か、「この研究室にいてこそできること・学べること」にいかに繋げられるかを日々考えながら、試行錯誤で研究を進めています。
 ケルンには、博士課程の学生やポスドクが多く、たくさんの方と研究交流を交わせることを魅力的に感じています。ケルン大学に加えてマックス・プランク植物育種学研究所もあり、植物・微生物相互作用の研究者がたくさん集っています。研究室横断セミナーやシンポジウムも盛んでとても勉強になっています。

写真/ケルン大学バイオセンターの植物育成室です。中央吹き抜け、ガラス張りの5階建ての建物の最上階にズラリと立ち並んでいます。私が今いる研究室の真上にあります。お洒落すぎてびっくりです。

研究をしていて、楽しいと感じるのはどんな時でしょうか。

 研究結果やアイデアについて、国籍や年齢・身分を越えて、誰かと「面白い」という気持ちを共有できる瞬間がとても楽しいと感じます。海外(遠く)のラボに来て良かったことの一つは、憧れの研究室の舞台裏に立ち会える所です。渡航前に「どうしたらこんな面白いこと思いつくの?発見できるの?」と外から眺めていた研究室で、現在の研究がどんな思考&試行プロセスを経て進められていくかを間近に見ることは、勉強になるし、一ファンとして言葉に表せないくらいワクワクします。
 「実験がうまくいった!」といった素朴な喜びも皆と分かち合うことができます。例えば最近、バーティシリウム萎凋病菌のプロトプラスト調製系の立ち上げに携わった際、他の研究グループの論文をフォローした結果、見事に綺麗な細胞が採れて皆で喜びました。研究は、研究室のメンバーや共同研究者とはもちろんのこと、論文を通じた世界中の人との共同作業であることを日々実感しています。

写真/バーティシリウムの菌糸から調製したプロトプラスト(細胞壁を分解して単離した細胞)の光学顕微鏡写真です。実験系の立ち上げ中で上手くいくかどうかと気を揉んでいたところ、綺麗なプロトプラストがとれて一安心です。「Amazing!」と喜びを分かち合いました。

将来の夢を教えてください。

 植物の病気を取り巻く様々な生物間相互作用を理解することで、植物を守るための新しい視点を生み出せるよう努力していきたいです。私が今所属している研究室では、“plant as a holobiont”という概念のもと研究が進められています。植物を、近くにいる様々な生物を含めた「超個体」として捉えようという概念です。ラボの中心的な研究対象は「植物病原糸状菌」ですが、その進化の軌跡について、「植物」だけでなく「植物内生細菌・真菌」や「藻類」との相互作用も含めて紐解こうとしています。今の研究室で「ウイルス」を扱っているのは私一人だけですが、研究室のコンセプトに高い親和性を感じ、とても居心地良く過ごしています。かつ、新しい分野に触れて刺激を受け続ける毎日です。一人で研究できることは限られているので、これからもいろいろな国のいろいろな研究コミュニティの方々と交流・協力しながら、どんな研究同士あるいは生物同士が接点を持ちうるか広く考え続けて、農業現場で起こっている事象について多角的に紐解いていけたらと夢見ています。

写真/今年イタリアで開かれた国際菌類ウイルス学会の写真です。ヨーロッパで研究するメリットの一つは、ヨーロッパの様々な国に安く気軽に行けるため(イタリアにはケルンから往復2万円以下で行けました)、国際的な人脈を広げやすいことかと感じています。

世界の人々と「面白いこと」を共有する楽しさは研究ならではですね。論文を通じて、会ったことのない研究者や過去・未来の研究者にもつながっていると思うと感慨深いものがあります。今日はありがとうございました。ますますのご活躍を楽しみにしています。

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