VOICE: Plant Science [No. 007] 風間智彦さん(九州大学大学院農学研究院 准教授)

植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら

今回は、コース卒業生で九州大学大学院農学研究院 准教授の風間智彦さんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。

風間智彦さん(九州大学大学院農学研究院 准教授)
(環境適応生物工学分野[現 環境適応植物工学分野]で博士後期課程修了、PhD)

現在どんなご研究をなさっているか教えてください。

 植物を対象にゲノム編集技術を使って機能の改変や遺伝子の機能解析など、遺伝子工学的な研究を行っています。植物細胞は、核、ミトコンドリア、葉緑体の3つの細胞内小器官にそれぞれ遺伝子情報(DNA)を持っていますが、種子が発芽して花を咲かせ、次世代にDNAを伝えてライフサイクルを完結させるためには、それぞれ3つの細胞内小器官が協調する必要があります。私は、ミトコンドリアや葉緑体がきちんと働くために、核からどのような制御を受けているのか?に興味を持って研究をしています。また、植物のミトコンドリアの中には、遺伝子として機能しそうな配列がたくさん予測されていますが、それらの予測された遺伝子が本当に機能しているのか?を知ろうとしています。

写真/遺伝子導入実験の過程。(A)遺伝子導入前のイネカルス(B)アグロバクテリウムを感染させた後、再分化培地で培養する(C)再分化してきたカルスを発根培地に移して培養する(D)遺伝子導入個体をチャンバー内で育成させる。環境適応生物工学の鳥山先生仕込みの牛乳パックを利用したポットを使っています。

研究をしていて、楽しいと感じる瞬間について教えてください。

実験計画を立てている時がとても好きです。こういうデータが出たら、次はこれをやって、もしうまくいかなかったときのために、こっちの実験もしておくか?などを一人で考えたり、仲間の研究者と話しながら考えている時に楽しいと感じますね。また、実験の結果が思いもしなかった結果だったりすると、どういうことが起こっているのか?なんで予想と違った結果が出てきたのか?予想自体が違っているのか?などと考えていると、時間が過ぎるのを忘れてしまいますね。

研究の息抜きになるような趣味はお持ちですか。

 家族でドライブによく行きます。九州は、教科書に載っているような遺跡(縄文、弥生、古墳時代などの遺跡)が多いので、そのような遺跡を見に行くことが多くなりました。全国に約700基しかない装飾古墳のうちの約200基が熊本で見つかっているようなので、次は装飾古墳を見に行きたいと思っています。また、最近は家族でキャンプに行ったりして星の観察をしたりするのが、息抜きにもなっています。昔の人の生活を想像したり、木々や星を見ているときに、研究のいいアイデアが浮かんで来ればいいのですが。

写真/福岡県八女市にある岩戸山古墳別区の石人石馬のレプリカ。小学生の時に歴史の本で見たものを実際に見られると、感慨深いです。

将来の夢を教えてください。

 植物のミトコンドリアに興味を持って研究を進めていますが、動物のミトコンドリアと異なっている点が多いことに気が付かされます。特に、ヒトのミトコンドリアゲノムは17 kbととても小さく、遺伝子間領域もほとんどないのですが、植物ではゲノムサイズが大きくイネでは490 kbもあることがわかっています。ミトコンドリアは呼吸に関わる細胞小器官ですので、ゲノムを酸化ダメージから守るためには、小さくした方が有利なような気がしますが、植物ではゲノムが大きくなっているのがとても不思議です。植物ミトコンドリアが、動物のミトコンドリアと同じ起源を持つとは思えないような進化をしてきたのはなぜなのか?という疑問に対して少しでも考察できる科学的な証拠を提供できる研究をしたいと夢見ています。

ありがとうございました。植物のミトコンドリアを調べることは植物の進化の歴史を知ることにつながりそうで興味深いですね。遺跡を訪ねて思いを巡らせるのと通じるものを感じますが、自然科学にはそれを検証する面白さと大変さがありますね。研究のさらなるご発展を楽しみにしています。

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