VOICE: Plant Science [No. 019] 渋谷 和樹さん(農研機構 植物防疫研究部門 研究員)

植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら

今回は、コース卒業生で農研機構 植物防疫研究部門の渋谷和樹さんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。

渋谷 和樹さん(農研機構 植物防疫研究部門 研究員)
生物制御機能学分野(現 応用昆虫学分野)博士後期課程修了

現在どんなご研究をなさっているか教えてください。

 レーザー光を利用した新たな害虫防除技術の開発を行っています。これは飛んでいる害虫(例えばガなど)をレーザーで撃ち落として畑への侵入を防ぐというもので、実現すれば化学農薬の使用量削減に大いに貢献することができます。害虫の専門家だけでなく、レーザー科学や画像認識など他分野の専門家と協力して開発を進めています。

図/レーザー狙撃技術。出典:害虫の飛行パターンをモデル化し3次元位置を予測 | 農研機構 (https://www.naro.go.jp/project/results/5th_laboratory/nipp/2021/nipp21_s02.html)

この研究領域/分野を選んだのは、どのような理由やきっかけからでしょうか。

 食料にかかわる大事な分野だと考えて農学部に入りましたが、最初から昆虫学に興味があったわけではありません。転機となったのは学部3年次の学生実験で昆虫を扱った時です。確かアズキゾウムシという害虫がどのような物体に好んで産卵するか、という実験でしたが、条件の違いによってはっきりと行動が変化するのを見て随分面白く感じました。それで害虫の研究をしようと思い、生物制御機能学分野(現在の応用昆虫学分野)に入りました。

あれは面白い実験ですよね!研究室に入られてから、学生時代にどんな研究をしていたか教えてください。

 青色光を用いた害虫防除技術について研究していました。昆虫に様々な波長の光を照射すると、青色の光(約400~500nmの範囲)を当てた時だけ虫が死んでしまうという現象が起こります。これを害虫防除に応用するために、青色の中でも最も効果的な波長はどこなのか、どのくらいの光の強さが必要なのか、ということを種や成育ステージごとに調査しました。また、青色光で死亡に至るメカニズムを解明するために生化学的な研究も行いました。

写真/青色光照射実験の様子。写真中央のシャーレの中に虫を入れ、写真上部のLEDパネルから光を照射します。

最後に、将来の夢を教えてください。

 害虫防除技術の研究を通じて、食料の安定的・持続的生産に貢献したいと思います。現在の害虫防除は化学農薬(殺虫剤)に依存しているため、薬剤抵抗性を発達させた害虫がどんどん発生しています。この状況が続くと効果的な農薬が少なくなっていき、害虫による作物への被害が抑えられなくなるかもしれません。青色光やレーザーのような新たな害虫防除技術を開発、普及させていくことがこの問題解決の一助になればと期待しています。

レーザー狙撃技術について、教えていただいたリンク先の詳細を拝読しましたが、最新の技術で害虫の動きを予測する、という点がとても興味深く思いました。今日のお話を伺って、害虫を「面白い」と思ってよく知ることが新しい防除技術の開発につながるのだろう、と感じました。ご研究のさらなる発展を期待いたします。今日はどうもありがとうございました。

→他の記事を見る

>>応用昆虫学分野のページ