VOICE: Plant Science [No. 027] 矢原匠人さん(環境適応植物工学分野 博士前期課程2年)

植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら

今回は、環境適応植物工学分野 博士前期課程2年の矢原匠人さんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。

矢原匠人さん(環境適応植物工学分野 博士前期課程2年)

現在どんなご研究をなさっているか教えてください。

 ウシの乳房炎という病気を治療するための抗菌タンパク質を、イネの培養細胞に作らせる研究をしています。乳房炎を発症すると牛乳の量や質が大きく下がり、日本国内だけで年間約800億円もの経済的な損失が出ています。現在は抗生物質によって治療されていますが、薬の効かない耐性菌が生まれるリスクがあることが課題です。そのため、薬剤耐性が生じにくい抗菌タンパク質を使った新しい治療法が期待されていますが、このタンパク質は作るのに非常にコストがかかり、1回の治療に約100万円も必要になります。 そこで私は、培養コストが安く、扱いやすいイネの培養細胞に抗菌タンパク質の遺伝子を導入し、安価に大量生産することを目指しています。現在はまだ十分な量を作ることができていないため、生産量を増やす工夫に取り組んでおり、将来的には酪農家の経済的負担を減らす技術として役立てたいと考えています。

写真/遺伝子を導入したイネのカルスです。この中で抗菌タンパク質が作られています。ワクワク

この研究領域/分野を選んだ理由を教えてください。

 小さい頃から植物が好きで、身近に生えている植物をものづくりに使えたら面白いなと思っていたのが、この分野を選んだきっかけです。植物が好きになったのは、幼い頃に祖父と一緒に散歩しながら、植物の名前や特徴をいろいろ教えてもらったことが大きいと思います。
 大学では、たった20種類のアミノ酸の組み合わせで多彩な機能を持つタンパク質ができることを知って、「植物に面白いタンパク質を作らせたい!」と思うようになりました。今はイネで抗菌タンパク質を作る研究をしていますが、今でも気分転換も兼ねて青葉山で植物観察をしながら、「この植物にも何か使い道がないかなー」と妄想しています。

なるほど、そんな目で植物を見ている人もいるのですね。研究をしていて、楽しいと感じる瞬間について教えてください。

 新しい遺伝子組換え体を作製している過程に、特に楽しさを感じます。たとえば、遺伝子をうまくPCRで増幅できたとき、目的の遺伝子がプラスミドに正しく連結されたと確認できたとき、イネに遺伝子を導入できたときなど、ひとつひとつのステップがうまくいくたびに楽しいなあと感じています。初めて自分で作製したプラスミドの塩基配列を読み、設計通りに完成していたと分かったときの喜びは今でも忘れられませんし、これからもずっと覚えていたいと思っています。
 一つの組換え体を完成させるまでに半年ほどかかることもあるからこそ、最終的な結果だけでなく、その過程そのものを楽しむことがとても大切だと実感しています。

写真/塩基配列の解析結果を見ている様子です。これを見ながら飲むお酒が美味しいんです。

そうですね、小さな喜びを見つけていくのは研究を楽しむコツかもしれません。最後に、将来の夢について聞かせてください。

 今は、農業をよりストレスフリーにするための研究に携わりたいと考えています。大学の圃場で自分の手で野菜を育てていると、思った以上にトラブルが起こります。たとえば、ネギの育ちが悪いなと思ったら根っこが虫にかじられていたり、明日収穫しようと思っていたトマトが次の日にはカラスに食べられていたり。そろそろ暖かくなってきたからと苗を屋外に植えたら、急に冷え込んで弱らせてしまったこともありました。こうした体験を通して、「もっと便利にしたい!」という気持ちが強くなってきました。
 私はイラッとしたことをけっこう根に持つタイプなので(笑)、そのフラストレーションを将来の独創的な研究の種に変えていけたらいいなと思っています。私なりのフラストレーションを見つけるためにも、学生のうちに手足をしっかり動かして、たくさんの経験を積んでいきたいです。

写真/私の推し米、雪若丸です。可愛くて、研ぐ前にいつもじっと眺めてしまいます。

矢原さんの「イラッ」がみんなの幸せに昇華(笑)米粒の形のような小さな喜びに飽き足らず、イライラまで楽しんでしまう姿勢に感服しました。今日は楽しい話をどうもありがとうございました。ご研究の発展を期待しています!

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