森林の炭素貯留に影響する菌類の種間競争 〜木材腐朽菌の種間競争とストレス応答〜
【本学研究者情報】
〇大学院農学研究科 深澤遊 准教授
【発表のポイント】
・枯死木を分解する木材腐朽菌、特に褐色腐朽菌は、森林における炭素の貯留を促進すると考えられます。
・ 褐色腐朽菌マツオウジは、白色腐朽菌シハイタケよりも高温ストレス下での代謝を安定化させることで、競争に強いことがわかりました。
・ 高温環境で褐色腐朽菌が優占する生理的な仕組みだと考えられます。
【概要】
枯死木のリグニンを分解する白色腐朽菌と分解しない褐色腐朽菌の相対的な優占度は森林の炭素貯留や生物多様性に影響することがわかってきています。例えばリグニンが分解されない分、褐色腐朽材では白色腐朽材にくらべ森林に貯留される炭素量が多くなると予想されます。一方、リグニンが除去され利用可能なセルロースが露出している白色腐朽材は、褐色腐朽材よりも多様な生物が定着する傾向があります。枯死木内における白色腐朽菌と褐色腐朽菌の競争には温度が影響することが知られていますが、その生理的な仕組みはよくわかっていません。
本研究では、褐色腐朽菌のマツオウジと白色腐朽菌のシハイタケの菌株を使った培養実験により、高温ストレスが白色腐朽菌と褐色腐朽菌の炭素配分と競争に与える影響を調べました。その結果、シハイタケは高温ストレスの影響を受けやすいのに対し、マツオウジは影響を受けにくく、高温ストレス下での競争に強いことがわかりました。
本研究成果は2025年4月24日(木)に国際誌Fungal Ecologyで公開されました。
図1. 菌糸重量あたりのCO2放出量。Fungi1とFungi2の名前が同じ組み合わせが、それぞれの菌の純粋培養。他は、同種他菌株や他種との対峙培養。
【論文情報】
タイトル:Carbon allocation shifts during fungal mycelial competition under the heat stress.
著者:Yu Fukasawa*, Satsuki Kimura
*責任著者:深澤 遊(東北大学大学院農学研究科 准教授)
雑誌名:Fungal Ecology
DOI:10.1016/j.funeco.2025.101435
URL:https://doi.org/10.1016/j.funeco.2025.101435
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