大腸菌のD-アラニン排出輸送体を同定

【本学研究者情報】
〇大学院農学研究科 動物微生物学分野 教授:米山 裕

【発表のポイント】
・当研究室が初めて同定した大腸菌のL-アラニン排出輸送体が、立体異性体(注1)であるD-アラニンも排出する輸送体であることを明らかとしました。
・膜タンパク質をコードすると推定される大腸菌の機能未知yciC遺伝子は、第2のD-アラニン排出輸送体をコードしていることが示唆されました。
・常在細菌叢(注2)の一つである大腸菌のD-アミノ酸の排出機序を理解することで、D-アミノ酸を介する宿主–パラサイト相互作用(注3)の理解につながり、ひいては腸管内環境を制御することによる新たな健康維持に資する技術の開発が期待されます。

【概要】
 生物はタンパク質のビルディングブロックとして2つある立体異性体(L-型とD-型)のうちL-アミノ酸を利用しています。生物がD-アミノ酸を利用する場面は限られており、よく知られている事例は細菌の細胞壁構成成分であるペプチドグリカン(注4)、無脊椎動物の組織に存在するD-アラニン、そして、哺乳動物の神経伝達物質としてその生理機能が解析されているD-セリンなどがあります。しかし、自然界には遊離のD-アミノ酸がかなりの量存在していることが近年明らかとなり、特に、動物腸管内に腸内細菌に由来する数種のD-アミノ酸が見いだされ、その生理機能に興味が持たれています。
 当分野では腸内細菌の一つでモデル生物でもある大腸菌のアミノ酸代謝に関する研究の過程で、エネルギー依存性L-アラニン排出体AlaE(Alanine Export)を先行研究で初めて同定することに成功し、今回、このAlaEが立体異性体であるD-アラニンを細胞外へ分泌する排出輸送体として機能することを明らかとしました。さらに、膜タンパク質をコードすると推定される機能未知yciC遺伝子が第2のD-アラニン排出輸送体をコードする遺伝子であることが示唆されました。
 D-アミノ酸を介する腸内細菌と宿主間の相互作用が宿主の免疫能ひいては健康維持に関与していることがごく最近報告されており、この領域における今後の発展に本研究成果は基盤となるデータを提供してくれるものと思われます。
本研究成果は、2023年6月16日(日本時間6月11日)付でInternational Journal of Molecular Science誌(電子版)に掲載されました。
DOI: https://doi.org/10.3390/ijms241210242

【用語解説】
注1.立体異性体:アミノ酸のような炭素を含む化合物は、正四面体の中心の炭素に四つの異なる置換基(グリシンを除く)をもっている。このような化合物は、同じ化学結合と化学式をもつが三次元空間における置換基の配置が異なる二つの立体配置(L-型アミノ酸とD-型アミノ酸)をとり、鏡像異性体とも呼ぶ。天然のタンパク質を構成するアミノ酸はグリシンを除くすべてはL-型アミノ酸である。

注2.常在細菌叢:動物の体内、体表の各部位に常に存在している(共生している)細菌集団でマイクロバイオータとも呼ばれる。ヒト腸内には体を構成する60兆個とも言われる細胞をはるかに凌ぐ100兆個を超える細菌が存在している。この細菌叢は多様な代謝活性を有しており、ヒトの健康維持に関与していることが近年明らかとなっている。この常在細菌叢の構成が乱れるディスバイオーシスと呼ばれる状態は、さまざまな病気(炎症性腸疾患、肥満など)と関連があることが明らかとなってきている。

注3.宿主–パラサイト相互作用:動物を含む宿主とその病原因子はさまざまな相互作用を通して生存している。病原細菌が宿主に感染し、感染症の成立、病気の発症に至る際も特定の宿主–パラサイト相互作用が重要な役割を果たすことが知られている。一方で、常在細菌叢と宿主との間の相互作用が健康維持に関与していることが近年明らかとなってきており、その因子の一つとして腸内細菌叢が産生するD-アミノ酸が機能している可能性が示されている。

注4.ペプチドグリカン:細菌の細胞壁を構成するN-アセチルグルコサミンとN-アセチルムラミン酸からなる糖鎖をペプチドが連結した網目構造の袋状の構造で、細菌の形態形成に必須の構造体である。よく知られている抗生物質であるペニシリンの標的であり、ペニシリン処理によりペプチドグリカン合成が阻害され細菌は溶菌する。糖鎖を連結するペプチドの構成成分としてD-アラニンとD-グルタミン酸が含まれているため、細菌細胞壁はL-アミノ酸とL-アミノ酸を連結するペプチド結合を切断するタンパク質分解酵素に抵抗性を示す。

問い合わせ先
東北大学大学院農学研究科
動物微生物学分野
教授:米山 裕
電話番号:022-757-4364
E-メール:hiroshi.yoneyama.a4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)