菌糸ネットワークは地方分権 〜局所刺激に対する地方限定のシグナル応答を解明〜

【本学研究者情報】
〇大学院農学研究科森林生態学分野 助教 深澤遊
研究室ウェブサイト

【概要】
菌類(カビやキノコ)は、胞子から菌糸と呼ばれる管状の細胞を伸ばして成長し、分岐と菌糸成長を繰り返して、菌糸体と呼ばれる放射状に広がるネットワークを形成します。このネットワークは、水分や栄養を広く行き渡らせるのに適しており、菌類の生存域の拡大、生態系における栄養循環、菌根共生、病原性などにとって重要です。しかしながらこれまで、菌糸ネットワーク内のシグナル伝達を可視化した報告はありませんでした。本研究では、菌糸内のカルシウム濃度変化を蛍光で可視化し、局所的な刺激に応答して菌糸ネットワーク内部でカルシウムシグナルが伝搬する様子を明らかにしました。

菌糸内部でのカルシウムシグナルの伝わる範囲がごく狭いこと、刺激を与えた場所でのみ菌糸の成長に遅れが見られたことから、菌糸ネットワークが局所的な反応をしていることが示されました。また、Ca2+受容体を免疫沈降し、質量分析によりその下流の標的を同定しました。局所刺激は、さまざまなシグナル伝達を介して代謝を調節する一方で、菌糸先端の細胞骨格と膜輸送の再編成を通じて、菌糸成長の停止と再開を制御することが示されました。本研究では、脳や神経系のような集中制御系を持たない菌糸ネットワークが、局所的なストレスに応答して、局所限定でカルシウムシグナルが活性化されることにより、地方分権型の応答を示すことを明らかにしました。菌糸ネットワークにおけるシグナル伝達の理解は、菌類が関わる生態学的役割の制御など、バイオテクノロジーへの応用につながると期待されます。

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