Banner Image Japanese Top Page English Top Page

« 企画展解説 <7. 土をかえる生物> | トップページ | 企画展解説 <5. 宇宙から土を調べる> »


企画展解説 <6. 植物を育む土>

図6:植物の必須元素とその動態 土の重要な機能の一つは、養分と水を供給して植物を育むことです。そして、私たちはその機能を食料生産に利用しています。また、土の中には、作物の種類にもよりますが、生育を阻害する化学形態の物質を含むものもあり、改善を要します。このような作物と土・肥料の相互関係の中から、目に見えやすい現象をとりあげました。

 植物に必要な必須元素は一般に16種類です。これらのうち、炭素、酸素、水素は植物体を構成する主要元素で、空中から炭酸ガスとして、あるいは土から水として吸収します。窒素、リン、カリウムはその次に多量に必要な元素で、おもに根を介して土から吸収されます。ただし、窒素は後述のように微生物のはたらきにより空中から取り入れる植物もあります。この他に植物はカルシウム、マグネシウム、イオウ、鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン、ホウ素、塩素などを必要とします(図6)。

 これらの元素の起源は土の材料である岩石などに由来し、腐植や粘土などに保持されています。また、自然状態では希薄な養分を集める機能をもつ微生物との共生もあります。自然植物はこのような自然の養分循環の中で生存しています。

 私たちの食料生産においては、上記のような自然の植物養分の動きだけでは十分でなく、品質向上・安定増収のため補給が必要な場合もあります。その養分を補給するのが肥料で、有機質・無機質多様なものが使われています。

  1. おいしいお米をつくるために --窒素の調節--
  2. 肥料にも毒にもなる窒素 --アンモニアガスに対するデントコーンの根の応答--
  3. リン酸肥料にからみつくアブラナ科作物の根
  4. 作物に対する酸性土壌の障害

1. おいしいお米をつくるために --窒素の調節--

 稲はわが国の主要作物です。稲の人口扶養力は高く、東南アジア諸国においても多くの人口を支えています。しかも稲は水田で栽培すれば、長期間連作できます。そして、稲に必要な多くの養分はかんがい水から得られます。

 このような状況下で水稲の生育に最も大きく影響するのは窒素です。しかし、窒素の施肥量は多すぎても少なすぎても水稲にはよくありません。適量の窒素施肥が重要です。写真7は無施肥区、無窒素区、無リン区、窒素・リン・カリウム施与区(三要素区)の写真を示しています。無施肥区のイネは極めて生育不良です。無窒素区では葉が黄緑色となり、下位の葉が枯れます。無リン区では茎の数が少ない一方、窒素は十分あるので葉の緑色が濃くなります。窒素・リン・カリウムを適量施肥すると望ましいイネの生育になります。窒素過剰稲は葉の緑色が濃く、一見良さそうに見えますが、病気がつきやすく、穂のでる時期が遅れ、実りが不十分になります。味の良い米を生産するには、窒素の施肥時期も重要です。穂がでそろってからの窒素施肥は食味を低下させる傾向があります。
写真7:多湿黒ボク土における水稲の施肥試験

2. 肥料にも毒にもなる窒素 --アンモニアガスに対するデントコーンの根の応答--

 適切な窒素施肥は畑作物の生育にも重要な事項の一つですが、窒素肥料の化学形態によって根の生育を阻害することがあります。尿素はよく使われる窒素肥料のひとつですが、土の一部にまとめて施与すると発生したアンモニアガスの濃度が高まり、その部分における根の生育を阻害します。植物根にとってアンモニウムイオンは養分ですが、アンモニアガスは毒です。写真8左はデントコーンの根の部分に窒素肥料をまとめて与えた例で、アンモニアガスの発生により肥料の周辺(左下)には根が広がっていません。

写真8:デントコーンの根の左下部に尿素を施与した効果

 尿素はつぎの式のように、土の微生物のウレアーゼで炭酸アンモニウムに分解されます。尿素→炭酸アンモニウム→アンモニアガス(土の中での尿素の分解過程)。炭酸アンモニウムは水に溶けるとアルカリ性を示します。アンモニウムイオンは酸性側では水によく溶け、気化しませんが、アルカリ性ではアンモニアガスになります。しかし、アンモニアガスの発生は一時的で、種をまいてから6週間後には肥料効果により施与部に根が密集しています(写真8右)

 また、普通農地の土は微酸性で、pH変化を緩和する機能(pH緩衝作用)もあります。炭酸アンモニウムの生成量がpH緩衝能を超えてアルカリ性にならなければ、アンモニアガスは発生しません。尿素はアンモニアガスの害がでないように使う必要があります。

3. リン酸肥料にからみつくアブラナ科作物の根

写真9:デントコーンとコマツナ,ハクサイのリン酸肥料に対する応答の差異 リン酸肥料は、土に施与すると、土の成分と反応して肥効が下がります。リン酸肥料はおもにリン鉱石から作られますが、地球上の利用しやすいリン鉱石の寿命は50-200年とみられています。リンも土の中では作物多収のためには重要な養分です。わが国では現在リン酸肥料を全量輸入に頼っています。

 植物はリンの欠乏にさまざまな応答をします。その中に写真のようにリン酸肥料に根がからみつくものがあります。この性質は今のところアブラナ科作物とソバに認められています。デントコーンの地上部は葉が紫色になるリン欠乏症状を示していますが(写真9デントコーン)、根は白い固形物として施与したリン酸肥料に何の反応もしていません。

 これに対してコマツナではリン酸肥料に根が密に接触しています(写真9コマツナ)。この断面をハクサイの例で見ますと根とリン酸肥料の間には土はなく、リン酸肥料を根が直接吸収できる形態になっています(写真9ハクサイ)。リン酸肥料を施与するとアブラナ科作物が良く生育することは以前から知られていました。その理由はこのようなリン酸肥料に対する強い根の応答のためのようです。アブラナ科植物には後述の菌根菌が感染しないので、この特性によるリン酸肥料の肥効向上等が期待されます。

4. 作物に対する酸性土壌の障害

 多くの湿潤気候下にある台地・山地の土壌は酸性化します。それは薄い炭酸水である雨の影響です。単に岩石が水に溶ければ、弱アルカリ性です。しかし同時に、粘土鉱物も沈殿します。植物が繁茂すれば腐植も集積します。その粘土鉱物や腐植はおもに負の電荷を持ち、その負電荷の部位に保持される陽イオンは雨水(希炭酸水)により、水素イオンまたはアルミニウムイオンにかわります(図7)。

図7:酸性の土のできかた

 アルミニウムイオンは多くの作物に有害です。特にゴボウ、ニンジン、ムギ、ホウレンソウ等はアルミニウムの害を受けやすい作物です。写真は下層にアルミニウム過剰害を示す土(写真10の1、2)と示さない土(写真10の3、4)を置いてゴボウを栽培した例です。下層のアルミニウム過剰害を示す土ではゴボウの根の伸長が悪い様子がわかります。このような土でも石灰(炭酸カルシウム)で土のpHを6付近まで上げると、根は伸びるようになります。したがって、このような土では作土だけでなく、下層の酸性中和も重要です。なお酸性の土ではアルミニウムの過剰害の他に多くの植物必須元素が不足する傾向にあり、施肥により補給する必要があります。
写真10:強酸性下層土と弱酸性下層土におけるゴボウの生育

Banner Image