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企画展解説 <7. 土をかえる生物>

 土には植物の他にたいへん多くの生物が住んでいます。それらはネズミやモグラのように大きな動物、ミミズや昆虫、そして、カビや細菌のような微生物です。これらの生物は、有機物の物理的分解、化学的分解合成などの形態変化、移動、循環などに重要な役割を果たしています。動植物の遺体、生ゴミなどが土の中でしだいに分解されて形が無くなるのもこれらの生物の働きです。

 ここではこれらの中からイトミミズ、菌根菌、根粒菌のはたらきを紹介します。

  1. 田んぼのショベルカー --水生ミミズ(イトミミズ類)の働き--
  2. キンコンキンってなんだ?
  3. 気から肥料をつくる --根粒菌--

1. 田んぼのショベルカー --水生ミミズ(イトミミズ類)の働き--

 畑の中のミミズは土を食べ、消化し、フンとして排出することによって土を耕し、肥沃にすることが知られています。水を張った田んぼにも水の中で生きることができるミミズ(イトミミズ類)が住んでいます。田んぼのおもなイトミミズ類(イトミミズ科)は、ユリミミズとエラミミズであり、最大でも15cm程度の大きさで、紅色をしています。このイトミミズ類は農薬を使わない田んぼで多くなりますが、どんな働きをしているのでしょうか。

 イトミミズ類は頭を土の中に、尻(尾部)を土の表面に出し、活発に土(の中の有機物や微生物)を食べて、フンを土の表面に排出します。そのため、イトミミズ類は、(1) ベルトコンベアーのように下層の土を表面にもち上げ、(2) 土にたて穴を掘り、(3) 土の有機物を部分的に消化し、微生物による分解を促進するのではないかと考えられます。
写真11:エラミミズ図8:水田でのイトミミズ類の働き(模式図)

 そのために、イネにとって最も重要な栄養分である土の中の窒素(アンモニウム態窒素)がイトミミズ類の活動によって増加します。さらに、イトミミズ類は、(1) の働きによって雑草の種子を土にうめこむので、農薬を使わない田んぼ(有機栽培)で雑草を少なくすることが期待されます。これらは田んぼでイネを作る時のメリットとなります。

 イトミミズ類は栄養分が豊富で、田んぼにすむドジョウなどのエサとして優れているだけでなく、(2) と (3) の働きによって田んぼの水に栄養分(窒素など)を増加させ、植物プランクトンとそれを食べる動物プランクトン(ドジョウなどのエサ)を増やします。田んぼにドジョウやカエルがふえると、それを食べにサギやコウノトリなどの水鳥がやってきます。このような食物連鎖のつながりを通じて、イトミミズ類は田んぼの生態系を豊かにすることが期待されます。
写真12:不耕起栽培水田(有機栽培)における昨年の稲わらの埋没図9:水田状態での雑草種子(コナギ)のイトミミズ類による埋没

2. キンコンキンってなんだ?

写真13:ダイズの根の細胞内に形成されたアーバスキュル(樹枝状体) 植物の根は、生育に必要な水や養分を土から吸収する重要な役割を果たしています。その根には、ある種の菌類(カビ)が共生していて根の養分吸収を助けています。この菌類のことを「菌根菌(きんこんきん)」と呼びます。実に陸上の8~9割の植物種には、「菌根菌」が共生していると考えられています。

 菌根菌にはいろいろなタイプがありますが、代表的な菌根菌は、「アーバスキュラー菌根菌」あるいは「VA菌根菌」と呼ばれるタイプで、ごく一部の分類群を除く、きわめて広範囲の種類の植物種に形成されています。「アーバスキュラー菌根菌」の形成されている根は見たところ普通の根と何ら変わりはありませんが、色素を使って染色してみると、根の中に菌類が入りこんでいる様子を観察することができます。「アーバスキュラー」という名称は、根の細胞の中にこの菌の菌糸が入り込んで形成される「アーバスキュル(樹枝状体)」に由来しています(写真13)。

写真14:菌根菌が植物(白クローバ)の生育に及ぼす効果 菌根菌は、植物の根の中から土の中へ広く菌糸を伸ばして、土の中の養分、特にリン酸を吸収して、それを植物に供給しています。一方、植物の光合成産物である糖類などの炭素化合物が菌根菌へ供給されます。つまり、菌根菌と植物は、お互いに養分を供給しあって助け合う文字通り「共生」関係にあるのです。このような作用で、アーバスキュラー菌根菌は、リン酸分の少ない痩せた土で植物が生育するのを助けることができます(写真14)。肥料の主成分の一つであるリン酸は資源の枯渇が危惧されています。昨今、リン酸肥料は高騰し、農家は困っています。菌根菌を含んだ農業用資材はすでに販売されています。まだまだ高価ですが、私たちは、この菌の機能を活用することによって、作物を栽培する時のリン酸肥料の節減を目指して研究を進めているところです。

写真15:アーバスキュラー菌根菌の胞子 アーバスキュラー菌根菌は、普通の菌類とはずいぶんと違っています。0.1~0.5ミリという、菌類としてはきわめて巨大な胞子を作ります(写真15)。最近の分子系統学的な研究の結果、この菌は、菌類の中でももっとも古いタイプに属すことが分かってきました。さらに、最古の植物根の化石の中に菌根菌に似た構造があります。4~5億年前、植物が進化し、そのすみかを水の中から陸地へと移した頃には、すでに根に菌根菌が共生していたらしいのです。今の陸上の多様な植物も、土の中の菌類との「菌根」共生という営みを数億年にわたってつづけて、共に進化をしてきたのです。

3. 空気から肥料をつくる --根粒菌--

 土の小さな生き物の中には、空気から肥料を作るものがいます。最も身近なものはダイズなどのマメ科植物の根に共生している根粒菌(こんりゅうきん)です。窒素分が少ないやせた土でもマメ科作物を植えると盛んに育つことが昔から知られていました。根粒菌はマメ科植物の根にこぶ状の「根粒」を形成します(写真16)。「根粒」を切ってみると中は赤くなっています(写真17)。この赤い色は、マメ科植物と根粒菌が共同してつくるタンパク質で、私達の血液中のヘモグロビンと似ています。空中の窒素を有機窒素化合物にかえるために大切な役割を果たします。
写真16:ダイズの生育を大きく促す根粒菌の窒素固定写真17:ダイズに着生した根粒とその内部

 共生は二つの生き物が助け合って生きていることですが、マメ科植物と根粒菌の関係は、まさに共生です。マメ科植物は太陽エネルギーから作り出した糖分を根粒菌に与え、その見返りとして根粒菌は空中から窒素を有機化合物に変えてマメに与えています(図10)。

 根粒菌とマメ科植物のこのような関係は約7000万年前に作りだされたといわれています。ただ、どの土にも役に立つ根粒菌が住んでいる訳ではないので、根粒菌が販売され、マメ科作物の栽培に利用されています。このように昔から知られている根粒菌でも、「どうしてマメ科植物だけが根粒菌と共生するのか?」、「根粒はどのようにできるのか?」、「こぶは作らなくても植物に役に立つ微生物はいないのか?」などわからないことがたくさん残っています。二つの生き物の関係は大変複雑ですので、その関係の謎解きは遺伝子やゲノムといった最新の生命科学の手段で行われています。
図10:ダイズと根粒菌の共生関係

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