研究室沿革

栄養学分野は、昭和25年の農芸化学科第二講座への有山教授の着任に始まり、昭和 27年の生活科学科・栄養科学講座開設を経て、昭和 35年から食糧化学科・栄養化学講座へと引き継がれた。そして平成4年の学部改組に伴い、応用生物化学科・栄養学講座へと改名され、大学院大学となった平成10年に応用生命科学専攻・生命機能科学講座・栄養学分野、さらに平成15年、生物産業創成科学専攻・食品機能健康科学講座・栄養学分野へと改組されて現在に至っている。

初代教授である有山恒教授(昭和25年~昭和38年)は、ビタミンおよびタンパク質・アミノ酸の栄養生理学的研究を続け、「ビタミンの摂取と供給に関する基礎的ならびに実際的研究」で昭和36年に日本農芸化学会鈴木賞を、「パントテン酸拮抗体の研究」で昭和40年に日本ビタミン学会賞を受賞した。本分野の伝統的な研究テーマであるビタミンの研究はこの時に始まっている。小柳達男教授(昭和36年~昭和45年)は、基礎研究を基盤としたフィールド問題への展開を見せ、ヒトの栄養素摂取不足と健康障害に力点を置いて実践的な栄養学を展開し、ビタミン欠乏症あるいは児童の栄養状態と生理機能に関する研究を精力的に行い、「日本人の栄養改善に関する研究」で昭和41年日本農芸化学会鈴木賞を受賞した。木村修一教授(昭和46年~平成5年)は、「生活している人間の栄養学を目指す基礎研究」を柱に、「加齢と栄養」研究を継続させるとともに、ビタミンに関しては、これまでの主な研究対象のパントテン酸(PaA),ビタミンB2(VB2), VB12, Niacin, VC に加えて、新しく VA, VE, VK, Biotin なども加え、広範にその生理作用の研究を行った。さらに「栄養的適応」という概念を導入し、無菌マウスを用いての腸内菌叢の栄養生理的役割、甲状腺癌の発生機構(諏訪助手)、フェオホーバイドによる光線過敏症の発症メカニズムから癌の診断と治療への応用などの研究をスタートさせた。この間、加齢に関する研究は、摂食パターンと免疫に関する研究、制限食の免疫機能等に及ぼす栄養生理学的研究へと発展させ、無菌動物を用いた研究(駒井助手)は、食物繊維の栄養生理学的研究、VKの生体内動態に関する研究へと発展させている。脂質代謝に関する研究は、木村教授がニューヨーク州立大学に留学した頃からの課題で、必須脂肪酸の栄養生理学的研究やPaAの脂質代謝における役割に関する研究が続けられた。昭和55年から古川勇次助教授(平成6年より教授、~平成14年3月)が、これにリポタンパク質代謝に関する研究を関連させ、EPA、トランス型脂肪酸、サフラワーリン脂質、豚肉ペプチド、遊離脂肪酸等による脂質代謝・コレステロール代謝の研究を進めてきた。さらに、「食品成分の毒性発現と栄養条件の研究」と題して、すなわち、フェオホーバイド関連物質 による癌の診断と治療、変異原物質の定量化および極微弱発光に関する研究、甲状腺癌の発生機構に対して、木村教授が昭和55年度の日本栄養・食糧学会賞を受賞した。また、食塩およびアルコールの嗜好性に関する研究では、食餌タンパク質レベルあるいは同時に摂取するアミノ酸やうま味成分との関連を初めて明らかにした。栄養学分野で伝統的なビタミンの研究に関しては、平成6年に木村教授の「ビタミン欠乏動物を用いた栄養生理学的研究」に対して日本ビタミン学会賞が授与された。

古川教授は、従前よりビオチンを導入し、ビオチンの骨代謝改善への寄与に関する臨床的な研究や、糖代謝改善作用に関する生理学的研究を行い、新しい知見を発表した。また、VKの生体内変換の生理的意義や変換反応機構の解明についても取り組み(駒井助教授)、脂溶性と水溶性の両群のビタミン研究を維持してきた。脂質代謝に関してはLCATの反応機構、特に、コレステロール逆転送系に対するLCATの生理的役割(古川)、また、栄養条件およびアミノ酸、ペプチドによるコレステロール代謝・アルコール代謝の改善に関する研究では、その機構の解明へと発展させた。古川教授は、「ビオチンの新しい生理作用に関する基礎的研究とその応用」という研究題目で、平成14年度の日本栄養・食糧学会賞を受賞した。

平成8年から駒井三千夫が助教授となり(平成14年より教授、~平成31年3月)、新しく米国モネル化学感覚研究所より味覚神経生理学を導入し、栄養状態と味覚受容、辛味物質などの食品中の三叉神経刺激性成分と味覚に関する神経生理学的研究を行い、亜鉛欠乏ラット、カプサイシン摂取ラット、疲労状態のラット等により、味覚生理学の総合的な研究を展開した。

平成14年より、駒井教授・白川助手(平成15年4月から助教授、19年4月から准教授に改称、平成31年4月より教授)体制となり、組織内活性型ビタミンK(メナキノン-4)の新規生理機能に関する研究、ビオチンの糖代謝改善機能等の新しい機能に関する分子栄養学的解明、低用量ダイオキシンが受容体型転写因子(AHR)を介して種々の物質代謝に与える影響の解明、食品中に含まれる核内受容体結合成分の生理機能解析などの分子栄養学的な研究(白川助手)に着手した。平成19年4月から後藤知子助教が加わり、研究の一層の発展が見られ、消化管亜鉛シグナルによる摂食調節、メナキノン-4による抗炎症・テストステロン産生増強作用、ビオチンによる糖新生抑制、核内受容体(糖質コルチコイド受容体)とAHRの相互作用による転写調節を明らかにした。駒井教授は、「微量栄養素の新規機能の解明に関する研究」の題目で平成26年度の日本栄養・食糧学会賞を、「ビタミンKの新規機能の解明に関する研究」の題目で平成29年度の日本ビタミン学会賞を授賞した。さらに、米糠の健康機能性と含有する機能性成分の探索に関する研究を、山形大学農学部小関卓也教授との共同研究で進め、酵素処理脱脂米糠が高血圧症、糖尿病などの生活習慣病の発症を抑制することをモデル動物で示した。また、機能性成分の分離・同定を行ない、アデノシンやトリプトファンが血圧降下作用、インスリン抵抗性改善作用を示すことを明らかにした。

令和元年10月に大崎雄介助教が着任して腎生理学的手法を取り入れ、ビタミンB6による酸化・糖化ストレス抑制に関する研究を開始した。また、令和元年9月よりHalima Sultana助教が、令和3年10月よりAfifah Zahra Agista助教が着任し、従来からのビタミンKやビオチンの新たな機能に関する研究、発酵米糠やこれに含まれるトリプトファンの微生物代謝物による抗炎症作用に関する研究などを行っている。

令和3年10月1日