VOICE: Plant Science [No. 004] 北柴大泰先生(植物遺伝育種学分野 教授)

植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら

今回は、植物遺伝育種学分野 教授の北柴大泰先生にお話を伺います。よろしくお願いします。

北柴大泰先生(植物遺伝育種学分野 教授)

現在どんなご研究をなさっているか教えてください。

 アブラナ科植物やイネを対象に優良な特性に関する遺伝学的な研究を進め、品種開発(育種)に応用するための育種学的研究をしています。アブラナ科野菜であるハクサイやカブ、キャベツやブロッコリー、セイヨウナタネ、カラシナ、ダイコンなどを対象にこれらのゲノム情報を取得して研究の基盤を築くとともに、重要な農業特性を決める遺伝子の探索をしています。
 また、アブラナ科野菜が持つ自家不和合性の研究には古い歴史があり、私がいる研究室にでは多くの先輩方がそのメカニズムを探求してきました。今は育種技術への応用を目指した研究に取り組んでいます。
 環境ストレス耐性の研究にも取組んでいます。イネでは耐冷性を対象に、アブラナ科では東日本大震災をきっかけに耐塩性を対象に、それぞれを強化する遺伝子の探索に取組んでいます。
 ほかには、アブラナ科植物を通して福島県の浜通り(葛尾村、南相馬市)の震災復興に向けた教育・研究活動にも取り組んでいます。

写真/収穫間近のカラシナ畑にて

以前米国に留学なさっていますが、その時の経験について教えてください。

 2009年の秋から1年間、アメリカコーネル大学(Cornell Univ.)に留学しました。ここにはアブラナ科の自家不和合性で世界的に権威のあるNasrallah教授がいらっしゃいます。ご夫妻ともに教授で、親身にご指導をいただきました。私がお世話になったNasrallah教授のもとには過去にも多くの日本人が留学されています。コーネル大学があるイサカ(Ithaca)は田舎町でお世辞にも華やかさのある街ではありません。しかし、学生の活気で溢れ、建築物はレトロとモダンが調和し、過ごしやすいキャンパスです。この環境の中で研究に没頭できました。拙い英語能力でしたが、セミナーや講義にも参加し、ほんの一部ですがアメリカのキャンパスライフに触れることができました。当時は新型インフルエンザH1N1が流行していた時期でもありましたが、マスクをしている人は皆無。大学でワクチンを打たせてもらいましたが、それでも気をつけて生活していたのを覚えています。大学のお祭り、Ithacaのお祭り、近隣の村の秋祭りなども楽しみ、あっという間に一年が過ぎてしまいました。研究の成果としては、権威あるアメリカ科学アカデミー紀要雑誌Proc. Natl. Acad. Sci.のほか、総説をNasrallah教授と2人の共著でまとめることができ、私に自信をつけさせてくれた良い機会となりました。帰国の時には感謝の気持ちしかありませんでした。そうそう、その当時まではあまり飲めなかったコーヒーでしたが、地元のIthacaコーヒーで鍛えられた甲斐あって、今では毎日嗜めるようになりました。これも留学で成長したことの一つですね。話は尽きませんが、海外滞在経験はいろいろと勉強になります。お勧めです。

写真/コーネル大学のシンボルである時計台の前で

好きな食べ物や料理、得意料理などがあれば教えてください。

 出張で全国をあちらこちら行くことが多いのですが、訪問した先の特産物は気になります。仕事柄、お米にしても野菜にしても果物にしても、「品種」に注目しています。特に地域で受け継がれている伝統野菜の品種や開発された品種には非常に興味があり、食事で頂いたり、お土産で買って帰ったりします。これらに加えてビールにも興味があります(お酒は二十歳になってから!)。最近、クラフトビールが流行していますが、週末に、旅行先で、出張先で、それぞれの個性を楽しんでいます。これが良い息抜きになっています。

写真/オランダ・アムステルダムにて。地元のビールとスナック(ポテトとビターバレン)

将来の夢を教えてください。

 研究の内容は最初に説明した通りですが、このほかに、ダイコンやカブなどの伝統野菜に興味があります。特に、ダイコンは「古事記」に登場するほど日本において歴史は古い野菜で、日本においては地方の環境に根付いて独自に分化し、地方の文化とともに発展してきました。しかし、起源地と推定されている地中海地域からどのように伝播してきたのか、日本でどのように広がっていったのかは議論があり、大変興味深いものがあります。また、全国に100を超える品種がありますが、生産規模が小さく存続が危ういものが多くあります。これらは貴重な遺伝資源ですので、遺伝的な多様性の理解と保全方法の考案にも関わっていきたいですね。これからも人や社会に貢献することを意識していこうと思っています。

写真/日本各地のダイコン(青葉山新キャンパスで栽培)※画像クリックで拡大

ご研究はとてもお忙しそうですが、同時に楽しみも多いことがよく分かりました。作物の農業特性や品種の歴史を辿るのは祖先の歴史を辿ることにもつながっており、興味深いですね。ありがとうございました。

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