VOICE: Plant Science [No. 018] 亀岡笑先生(作物学分野 准教授)

植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら

今回は、作物学分野 准教授の亀岡笑先生にお話を伺います。よろしくお願いします。

亀岡笑先生(作物学分野 准教授)

現在どんなご研究をなさっているか教えてください。

 作物の収量を安定させることを目指し、効果的な栽培管理方法を確立し、気象変動に強い根の形質を探る研究に取り組んでいます。
 世界の主要作物であるイネは、アジアを中心に多く消費され、今後もさらなる増産が必要になるとされますが、安定的な栽培に必要な農業用水の不足が深刻な問題となっています。節水と収量確保の両立を実現するため有効な節水技術のひとつに、AWD(Alternate Wetting and Drying;間断灌漑)があります。これは、水田を常時湛水にするのではなく、湛水にした水が引いてからしばらくして再灌水する(それを繰り返す)、という水管理方法です。この方法では、再灌水のタイミング決定が極めて重要となりますが、私はこのタイミング決定には、根の発育評価も役立つと考えています。そのような考えをもとに、土壌水分変動に対する根の発育応答を定量化しながら、AWDにおける再灌水の最適なタイミングを探っています。

写真/イネ栽培試験の様子:ガラス室内での節水栽培試験の様子です。ひとつひとつのポットには、土壌の乾燥程度を定量化して示すことのできる土壌水ポテンシャルセンサーが挿入されています。(写真は2024年3月までに在籍した北海道江別市の酪農学園大学にて撮影しました)

この研究領域/分野を選んだ理由を教えてください。

 もともと自然環境や食べることが好きで、それらを包括的に学ぶことのできる農学部への進学を決めました。同時に、世界の貧困・飢餓の問題はどうやったら解決できるのだろうという思いを高校生のころから漠然と抱いていました。
 大学3年生の研究室選びの段階で、作物学研究分野では世界各国・各地域での安定的な食糧生産を目指した研究がなされることを知り、これは世界の貧困・飢餓の問題解決への有効なアプローチ方法のひとつだ!と思い、この研究分野に進むことを決めました。研究を通じて国内外の作物生産に関わる多くのことを学び経験し、たくさんの刺激を得る中で、自分にとって有意義な分野選択をできたと感じています。

写真/世界遺産(イフガオ州バナウェ)の棚田:学生時代に、フィリピンに研究調査に行ったときの写真です。棚田の圧倒的なスケール感の中で、稲作がアジアの人々にとってかけがえのないものであることを実感しました。

研究をしていて、楽しいと感じる瞬間について教えてください。

 研究をしていて楽しいと感じる瞬間は、自分が興味をもつ研究分野において新たな発見をしたとき、疑問点に対する理解が進んだとき、または異なる分野との間に予想外の関連性を見いだしたときです。これらの瞬間に感じる圧倒的な喜びや興奮が、今も研究を続ける原動力になっています。
 2016年4月~24年3月まで、北海道江別市の酪農学園大学に勤務し、その間にイネだけでなく、バレイショ、ダイズ、トウモロコシ、タマネギなど、多くの畑作物の栽培研究にも取り組みました。生産現場を訪問する機会にも恵まれ、そのスケール感に圧倒されながら、各作物の面白さや生産背景における強み・諸課題を学び、作物学研究の意義をより深く実感しました。各研究分野に共通すると思いますが、作物学研究もまた、広く深くて、興味が尽きることがありません。楽しさを感じる瞬間をひとつでも多く積み上げられるよう、日々努力していきたいです。

写真/バレイショ品種「コナヒメ」の花:夏の開花期の写真です。茎が可食部となるバレイショ(ジャガイモのことです)は、その強みや特徴がイネと大きく異なり、作物学研究におけるたくさんの新たな楽しさを教えてくれました。

将来の夢を教えてください。

 将来の夢は、大きく二つあります。一つ目は、自分の研究によって食糧生産の安定性改善に少しでも貢献することです。食糧は我々の生活に不可欠ですが、安定的な生産は今後ますます難しくなると思います。今なにが求められるのかを日々勉強し、そこに作物学研究における自分の専門性がどのように貢献できるのか考え続けていきたいです。
 二つ目の夢は、研究を通じて得た楽しさを、ひとりでも多くの人たちと共有することです。一人が感じる楽しさは、誰かと共有することで連鎖反応的に広まり・深まっていくのだと、これまでに多くの学生たちが教えてくれました。作物学を含めた農学研究に興味をもつ人が一人でも増えることを願っていますし、学生をはじめ、多くの人たちと楽しさを共有していきたいです。

写真/イネの根:上で紹介した試験の根サンプリング時の様子です。根の評価は文字通り根気のいる作業ですが、環境変化への応答性が奥深くていつもわくわくします。

ありがとうございました。AWDのご研究が進むと植物がもつポテンシャルをもっと引き出せる気がして、ワクワクしながら伺いました。深く&幅広く勉強して考えを巡らせたり、人と議論したりすることで研究がますます楽しくなる、というのはぜひ多くの学生に実感してほしいですね。研究成果を伺うのを楽しみにしています!

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