VOICE: Plant Science [No. 020] 朱 星宇さん(植物遺伝育種学分野 博士後期課程4年)
植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら
今回は、植物遺伝育種学分野 博士後期課程4年の朱 星宇さんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。
朱 星宇さん
植物遺伝育種学分野(博士後期課程4年)
現在どんなご研究をなさっているか教えてください。
私はセイヨウナタネの耐塩性を向上させるための育種研究を行っています。近年は地球温暖化による気象災害が世界各地で頻発し,塩害地の拡大が進行しています。そのため農耕に適した土地の減少も進んでいます。高塩濃度により、植物の生育に複合的に障害を引き起こします。その生理的メカニズムは、大きくわけて吸水し難くさせる浸透圧ストレスと過剰に蓄積したNaClのイオンが代謝を阻害するイオンストレスからなります。これらのストレス晒されると多くの遺伝子それぞれで発現が増減することから耐塩性に関する研究は非常に苦労しました。私の研究では、アブラナ科の中で耐塩性が比較的高いセイヨウナタネに注目し、ゲノムワイドなDNA多型や網羅的な遺伝子発現情報を統計遺伝学的に解析して多くの関連遺伝子の中から効果の強い主働遺伝子を特定すること、そして多くの微働遺伝子を同時に誘導できる植物ホルモンの生理遺伝学研究を行っています。
写真/高耐塩性系統(上)と低耐塩性系統(下)の例。各画像において、左から右に向かって処理塩濃度が高くなっています(右端は海水と同程度のNaCl濃度)。高耐塩性系統は海水と同程度のNaCl濃度で3週間処理しても緑色を保っています。
研究室に入ってから知ったことや、イメージと違ったことがあれば教えてください。
研究室に入る前は、研究者は常に実験室でコツコツ実験を行い、試行錯誤を何度も繰り返しているイメージがありました。そのため、初めて実験を行う際には、多くの植物系統を一度に扱い、複数の仮説を同時に検証しようとしました。しかし、予期しない理由で実験が失敗し、サンプルの処理にも非常に苦労しました。その後、徐々に「Work smarter, not harder」ということの重要性に気づきました。確実なデータを得るためには、もちろん努力が必要ですが、事前に先行研究をしっかり調査し、実験計画を立てること、そして少量のサンプルで予備実験を行い、予想外の問題がないかを確認することが重要です。このようにして研究方法を迅速に改善し、練り上げた計画に基づいて研究対象を拡大し仮説を検証してきました。研究者として多くの人が知っていることですが、私には大変勉強になりました。これから大学院に進学し、研究に取り組む皆さんとこの経験を共有し、共に成長していければと思います。
写真/毎年定例の米作り。ラボのみんなと一緒に栽培したお米を収穫した後の写真です。
研究の息抜きになるような趣味はお持ちですか。
音楽です。中国で学部時代にロックバンドでリードギターを担当しましたが、日本に来て以来、歌うことに魅力され、この6年間でボーカルトレーニングや弾き語りを練習して来ました。普段はよく研究帰りに家の近くのカラオケに通い、いつの間にか最も高いランクの会員になっちゃいました(笑)。ちなみに、最近の進捗として、ミックスボイスの音域が「C5」に伸びるようになりましたので大変嬉しく思っています!
将来の夢を教えてください。
セイヨウナタネの耐塩性研究を通じて、環境危機や地球温暖化の緩和に貢献したいと思っています。セイヨウナタネは世界中で最も栽培される油料作物の一つであり、種子はバイオ燃料の生産に貢献できます。世界では耕作地の20%と灌漑地の33%が塩害を受け、劣化しています。気象変動と農地減少の脅威の中、塩害の土地でも生存できるセイヨウナタネが育成できれば、バイオ燃料の普及による温室効果ガスの減少に寄与できると信じています。将来的には、研究成果を広く社会に応用し、持続可能な農業の発展と環境保護の両立を目指し、地球規模の環境問題解決に貢献したいです。
写真/温室で栽培していたセイヨウナタネの写真です。葉は美味しく食べられ、種の脂肪分はバイオ燃料にもなり、さらに搾油後の油かすが有機肥料や配合飼料として活用できる素敵な植物です!