VOICE: Plant Science [No. 031] 鈴木貴恵さん(栽培植物環境科学分野 博士後期課程1年)
植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら
今回は、栽培植物環境科学分野 博士後期課程1年の鈴木貴恵さんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。
鈴木貴恵さん(栽培植物環境科学分野 博士後期課程1年)
現在どんなご研究をなさっているか教えてください。
コムギの根の研究をおこなっています。コムギは主要穀物の1つであり、世界中で栽培されています。コムギの根は酸性土壌に弱い性質を持っていることが多いため、下層土が酸性だと根は伸びにくく、根域は制限されてしまいます。この課題を解決するため、酸性条件にも強くなることを期待して、根の機能を強化した系統が作出されています。根には光合成で吸収した大気中のCO2由来の炭素が含まれるため、土壌微生物の活動が低いことが予想される酸性の下層土へ、根を伸長させて炭素を貯めておくことができれば、地球温暖化の緩和に役立つかもしれません。そこで、この系統では、下層土が酸性の場合どんな根の分布になるのか、酸性の下層土に根を伸長したとき根の近傍に存在する根圏と呼ばれる微小な領域では、どんな土壌微生物叢と炭素動態の変化が起きるのか、そしてそれらは根圏の土壌炭素蓄積へどのように貢献するのか、これらを知るための研究をしています。
写真/根箱によるコムギの栽培試験の様子です。
コムギの系統によってそのあたりが変わってくることが期待されるのですね。面白いですね。博士後期課程に進学した理由・きっかけを教えてください。
修士から研究員時代までは、今とは違うアーバスキュラー菌根菌の研究に取り組んできました。植物の根に共生し、土壌中のリンなどの養分を植物に供給することで、植物生育を促進する効果を持つこの土壌微生物に出会い、研究を好きになれたことは、進学を考えるようになった最初のきっかけだったと思います。また、修士を終えてからも研究に携われたこともきっかけとしては大きかったです。その中で、尊敬する研究者の方々と仕事をしたり、学会や国際会議で最新の研究を学んだりできたことで、もっと研究を続けたいという思いが強くなりました。最終的に進学を決断できたのは、指導教員の先生と職場に恵まれ、背中を押してもらえたからですね。
写真/チェコで開催された国際会議でポスター発表をしました。とても緊張しましたが、一回り大きく成長できました。
なるほど、今のご研究とのつながりも理解できました。研究の息抜きになるような趣味はお持ちですか。
昔から郷土史、民俗学、芸術が好きなので、神社仏閣巡りをしたり、資料館、博物館、美術館を見にいったりすることが息抜きになっています。また、子供のころから習っている書道に取り組んでいると、気持ちの切り替えができて、もっと研究を頑張ろうと思えたり、研究のいいアイディアも浮かぶような気がしたりしています。
写真/コース内スポーツ大会で着用するため、研究室の企画で作成したTシャツの文字を書かせてもらえたことは、とても良い思い出です。
気合が入りそうなTシャツです!書道って、集中力が引き出される気がしますね。最後に、将来の夢について聞かせてください。
現在、リン資源の有限性や気候変動による地球温暖化など、環境問題は地球規模で進行し、深刻化しています。そして、今後さらなる増加が見込まれる世界人口を支えるためにも、土壌の生産力と作物の生産性を維持しつつ、環境負荷を低減していく持続的な作物生産が求められています。こうした課題を解決していくためには、今ある資源の有効利用と地球温暖化の緩和が必要です。このような世界が直面している環境問題の解決に、これまで携わってきたアーバスキュラー菌根菌を活用する研究と博士後期課程で取り組んでいるコムギの根の研究を通して、自分にできることをコツコツと積み重ねながら、少しでも役立つような成果を出せたらいいなと思っています。そして、世界中の人たちが安心して生活できるような、環境と調和した持続的な作物生産の実現に貢献していけたらと考えています。
写真/私は現在、東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センターの技術職員として、研究と実習の支援業務にも従事しています。アーバスキュラー菌根菌を使った実習の様子です。顕微鏡をのぞくとこんな感じで染色した根が見えます。