VOICE: Plant Science [No. 032] WANG SHENGKAIさん(土壌立地学分野 博士後期課程2年)

植物生命科学コースの学生・卒業生/修了生・教員の声をお届けするインタビュー記事です。月一回くらいの頻度で更新予定です。→記事一覧はこちら

今回は、土壌立地学分野 博士後期課程2年のWANG SHENGKAIさんにお話を伺います。よろしくお願いいたします。

WANG SHENGKAIさん(土壌立地学分野 博士後期課程2年)

音まで聞こえてきそうないい写真ですね。お腹が減ります(笑)さて、現在どんなご研究をなさっているか教えてください。

 ヒ素汚染は世界中で問題になっていて、日本でも深刻なケースがあります。土の中では、ヒ素の動きは鉄やマンガンといった鉱物と強く関わっています。こうした関係は表面の土ではよく研究されていますが、実はその下の「下層土」については、まだあまり分かっていません。水田では鉄やマンガンの鉱物が下の層にたまることがありますが、我々は、これが“地球化学的バリア”として環境保護的な役割をもつとの仮定を持って研究を開始しました。つまり、ヒ素をつかまえて地下水に流れ出すのを防いでくれる、天然のフィルターのようなものです。ただ、このバリアがどうやってできるのか、ヒ素とどう関わっているのか、そして微生物がどのように還元や酸化に関わっているのかは、まだよく分かっていません。
 そこで私たちの研究では、水田での「湛水と排水」のくり返しが、土の中の酸化還元状態をどう変えるのか、そしてその変化がヒ素・鉄・マンガンの動きにどんな影響を与えるのかを調べています。また、土の深さによって微生物の種類がどう変わるのかも見ています。これらをまとめて、“地球化学的バリア”がどう作られ、どんな働きをしているのかを明らかにしたいと思っています。そして最終的には、汚染の防止や、より持続可能な土壌管理につながるヒントを見つけたいと考えています。

写真/調査の様子:気仙沼(宮城県)に土壌サンプルを採集に行った時の写真です。ハンマーを叩く牧野先生が少し怖かったです。土壌の色は深さによって異なります。

なるほど、面白くて重要な仮説ですね!いつも穏やかな牧野先生が真顔でハンマーを振り下ろすのを私も見てみたい気もします(笑)そもそもこの研究領域/分野を選んだ理由を教えてくださいますか。

 私は食べ物が大好きです(笑)。米のような食用作物でも、カカオのような経済作物でも、何でも好きです。私にとって一番大事なのは、これらの作物がすべて土壌で育つという点です。そもそも土壌に関する研究を選んだのも、そこに魅力を感じたからです。
 実際に土壌の研究を始めてみると、この分野を好きになる理由がさらに増えました。例えば、リンと鉄の鉱物の表面相互作用はとても興味深く、化学式で表現できたり、化学モデルで予測できたりするところが面白くて、こうしたモデリングの作業が本当に楽しいです。もう一つ印象に残っているのは、チョコレートが好きだったことがきっかけで、土壌からカカオの木(最終的にチョコレートの原料となる豆)へのカドミウム汚染をどう抑えるかを研究するグループに参加したことです。好きなものに関わりながら、食料生産の改善にも貢献できているという実感がありました。
 だから、土壌立地学分野に選んで本当に良かったと思っています。

写真/韓国で開催されたICOBTE&ICHMET2025の記念撮影: 私とUniversity of Santiago de Compostela SpainのJuan Antelo先生。

土壌は普遍的な存在でありながらそれぞれ違って奥が深く、本当に面白い研究対象ですね。研究の息抜きになるような趣味はお持ちですか。

 音楽が大好きで、小学校の頃からギターを弾いています。いろんなジャンルの音楽が好きです。特にジャズとファンクが好きで、最近はアニメの影響でヘヴィメタルもよく聞くようになりました。アニメ音楽も好きです。暇なときは、だいたい夜や週末に自分の部屋でギターやベースを弾いていて、今ではちょっとしたスタジオみたいになっています。最近はドラムの練習も始めて、友達とバンドも組みました。うまくいけば、来年ライブができるかもしれません。

写真/部屋でドラムをするのはとても楽しいです。

新しいことにチャレンジするのは楽しいことですね。最後に、将来の夢について聞かせてください。

 土壌科学にはまだ解明すべきことがたくさんあるので、今後も学術研究を続けていきたいと考えています。理想としては、ポスドクのポジションを得て、将来的には教授職を目指して努力したいと思っています。これまで取り組んできた土壌鉱物や汚染に関する研究は継続しつつ、有機物と微生物活動の相互作用についても、さらに深く探求していきたいと考えています また、博士後期課程3年目の研究計画にもテーマとして含めていますが、土壌炭素飽和や微生物群集の複雑な相互作用については、まだごく一部しか明らかにできていません。だからこそ、卒業後も研究を続けたいという思いが強くなっています。  私はモデリング研究にも強い興味があり、土壌の生物地球化学的な相互作用のメカニズムを解明したうえで、土壌発達の現在と未来を記述・予測できる包括的なモデルをつくることが夢です。こうした研究が、スマート農業や資源の効率的利用、そして持続可能な食料生産に貢献できると信じています。

ぜひ土壌の奥深さにチャレンジするような、面白い研究を展開させてください!国際学会でのカッコいい写真もありがとうございます。ますますのご活躍を期待しています。今日はどうもありがとうございました。

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