コレステロール合成経路の阻害が脂質過酸化による細胞死を抑制する仕組みを解明 -肝疾患に対する治療法の開発に繋がる研究成果-
【本学研究者情報】
〇大学院農学研究科 食品機能分析学分野
助教 伊藤隼哉(いとう じゅんや)
研究室ウェブサイト
【発表のポイント】
・網羅的な遺伝子スクリーニングにより、肝臓においてフェロトーシス(注1)(脂質過酸化細胞死)を制御する因子としてコレステロール合成経路の最終段階を担う酵素DHCR7(注2)を特定しました。
・DHCR7の働きを抑えると、その基質である7-デヒドロコレステロール(7-DHC)(注3)が蓄積し、抗酸化物質として働くことで、細胞死を抑制することがわかりました。
・DHCR7の阻害によるフェロトーシス抑制作用は、コレステロール合成経路の活性に依存しており、肝臓でのフェロトーシス抑制に効果的に働くことを明らかにしました。
【概要】
自治医科大学 分子病態治療研究センター 炎症・免疫研究部の山田直也 研究員、唐澤直義 講師、高橋将文 教授、内分泌代謝学部門 石橋俊 前教授らは、東北大学大学院農学研究科 伊藤隼哉 助教、仲川清隆 教授、九州大学大学院薬学研究院 山田健一 教授らとともに、コレステロール合成経路の最終段階を担う酵素であるDHCR7の阻害がフェロトーシスを強力に抑制する作用があることを新たに発見しました。また、DHCR7の基質であり、プロビタミンD3としても知られる7-デヒドロコレステロール(7-DHC)がラジカルスカベンジャーとして働き、DHCR7の阻害によるフェロトーシス抑制作用を担っていることがわかりました。さらに、DHCR7阻害が肝臓におけるフェロトーシス関連病態を抑制するかを検証するために、DHCR7阻害剤(AY9944)の効果をマウスにおいて検証したところ、DHCR7阻害剤は肝臓の虚血再灌流障害を抑制することが明らかになりました。
本研究は英国科学雑誌Nature Communicationsに3月12日付けでオンライン掲載されました。

図. 新規フェロトーシス制御因子としてDHCR7 とその基質7-DHCを同定 ゲノムワイドCRISPRスクリーニングを用いて、Gpx4阻害剤RSL3により誘導されるフェロトーシスに対して欠損の結果、抵抗性を示す遺伝子としてDHCR7を同定した。DHCR7はコレステロール合成経路の最終段階で7-デヒドロコレステロール(7-DHC)をコレステロールに変換する。DHCR7の欠損あるいは阻害下においては7-DHCが蓄積し、リン脂質過酸化を抑制することでフェロトーシスを阻害する。
【用語解説】
注1. フェロトーシス:2012年に新たに提唱された、制御された細胞死の一つ。細胞膜のリン脂質が過酸化を受けることによって引き起こされる細胞死。
注2. DHCR7: コレステロール合成経路(Kandutch -Russell経路)の最終段階を担う酵素。 ラソステロールから合成された7-デヒドロコレステロールをコレステロールに変換する。
注3. 7-デヒドロコレステロール(7-DHC):コレステロールの前駆体であり、B環内に二つの不飽和結合を保有する特徴をもつ。プロビタミンD3としても知られ、紫外線による開裂を受けることで、ビタミンD3合成にも利用される。
コレステロール合成経路の阻害が脂質過酸化による細胞死を抑制する仕組みを解明 -肝疾患に対する治療法の開発に繋がる研究成果-
— 東北大学大学院農学研究科 (@tu_agr_pr) March 14, 2024
大学院農学研究科伊藤隼哉助教の共同研究成果は2024年3月12日に英国科学雑誌Nature Communicationsにオンライン掲載されました。https://t.co/mtRVPaH8Ul pic.twitter.com/zAbjWc279c
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