動物の健康と福祉

 日本も含め世界の167ヵ国が参加する国際獣疫事務局OIEは、2005年にアニマルウェルフェア基準を作成しました。 命ある生物そして意識ある動物を倫理的に飼いたいとする発想がアニマルウェルフェア指向ですが、方法は動物の肉体的・精神的健康を保つために、飼育環境を整えようとすることであります。 BSEの蔓延等を防止するための議論を行う国際組織であるOIEがなぜアニマルウェルフェアなのでしょうか?  病気防止の必要条件としてアニマルウェルフェアに注目しているからです。 日本でも、畜産物の購入動機は、1998年頃から量から質(栄養価や機能性)へ、2005年頃からは質から飼育方式(環境・安心・アニマルウェルフェア)へと変化してきています。 当研究室では、アニマルウェルフェア研究を日本で最初に始めましたし、これからもリードしていきたいと考えています。

家畜の快適飼育法の確立とその評価

主に乳用牛と肉用牛にとって快適な飼育方法の開発を目指し、研究を行っています。乳用牛の研究では、放牧環境と舎飼環境が搾乳牛の福祉や健康性、生産性に与える影響について調べています。肉用牛の研究では、舎飼環境のエンリッチメントに対する繁殖牛の選択性と飼育環境エンリッチメントが育成牛や肥育牛の福祉や健康性、生産性に与える影響について調べています。
(二宮・遠藤・佐藤)

アニマルウェルフェア現場評価法の開発

動物の健康と福祉

アニマルウェルフェアは倫理議論を終え、畜産技術開発という実学になりつつあります。そこでは、アニマルウェルフェアレベルの現場評価が不可欠となります。そこで、国際的に共通認識となっているアニマルウェルフェア推進要件である5フリーダムスをもとに、飼育環境・管理技術整備からなる現場評価法を開発します。開発の途上で、家畜の肉体的健康や精神的健康により現場評価法プロトタイプを検討し、現場評価法の洗練に繋げます。
(四ノ宮・佐藤)

家畜の個体特性へ影響を及ぼす要因の解明

-Bovine Growth Hormone Gene-
ウシ成長ホルモン(GH)遺伝子には多型が存在し、この多型によって血液中のGH濃度やGH放出ホルモンへの反応が異なります。また、GHはセロトニンやドーパミンといった情動と関わる神経伝達物質の分泌と関連を持つことも実験動物において確認されています。そこで本研究では、GH遺伝子型と神経伝達物質との関係並びにストレスに対する生理的・行動的反応性との関係を調査し、個性を形作る生得的基盤を明らかにします。この情報は、個性に対応した飼育環境の整備へと繋がります。
(舘)

放牧が肥育豚の行動、免疫、生産に及ぼす効果


耕作放棄地や荒廃した人工草地の利用を考える場合、放牧養豚は選択肢の1つとして有望です。一方、放牧は快適飼育法の主たる1つと考えられ、アニマルウェルフェア畜産としても注目されています。そこで本年は、荒廃した人工草地での肥育豚(肉豚)放牧実験を行いました。そして、豚にとって放牧は快適なのか、行動は自由になるのか、ストレスは減少するのか、免疫力は高まるのか、また美味しい豚肉も生産できるのか、そして放牧地はどう変化するのか、を明らかにします。
(小原・田中)

野生動物による獣害の制御

これまで、農作物を食害するニホンカモシカやウシの餌として作っているトウモロコシを食害するツキノワグマの食害行動や、それらの生息場に存在する餌資源量の調査をしてきました。そして、農耕地へのアクセスの容易さが食害を引き起こしているとの結論に至りました。ヒトと野生動物は、緊張関係の中で共生してきました。その緊張関係を取り戻すべく、昨年はニホンシカを対象に、先天的忌避を起こす物質の探査を行いました。今後も、心理的に忌避させる手法の基礎的・応用的研究を続けます。
(二宮・佐藤)