草地草原の生態学

1) 持続的放牧システムに関する研究
 わが国では,昭和30年代以降,各地に牧草地が造成され,乳牛や肉牛などの草食家畜生産の場として利用されてきました。 最近では,草地・草原には,家畜生産の場としての機能の他に,土壌浸食の防止,水源の涵養,地球温暖化防止,生物多様性の保全,憩い・娯楽・教育の場など,私たちの生活と環境にとって多くの有益な機能があることが明らかとなっています。 当研究室では,草地・草原の環境を保全しながら持続的に家畜生産を行うシステムを作るため,土壌−植物−動物間関係の解明や草食家畜が草地生態系に及ぼす影響の解明に関する研究を行っています。

 

2) 草食家畜の放牧による土地の保全に関する研究
 わが国の農業は,食料自給率の低さや担い手不足の減少などにより,深刻な事態に陥っています。 そのため,各地の農村では耕作放棄地が急激に増加しています。このような荒れた土地は害虫や害獣を招き,自然災害を増大させるなど,多くの問題を発生させる源になるばかりでなく,風景も良くありません。 そこで,耕作放棄地に草食家畜を放牧し,荒れた植生を整備し,食料生産の場として土地を再活用するための研究を行っています。

放牧牛の行動圏サイズを決定する要因の解明と牛群制御への応用

草地草原の生態学

動物が単位時間あたりに利用する領域は行動圏とよばれ、その動物の生態を知るための基礎的な情報です。ウシの場合,1日行動圏サイズは年間平均で17ヘクタールとほぼ安定していますが,季節別にみると,数ヘクタールから100ヘクタールを超える行動圏まで大きく変化します。行動圏サイズは大規模放牧を行う際に集畜効率を左右するため、農学的にも重要な情報です。ウシは主に,餌を探して食べるために移動するため,餌となる植物の量や分布がウシの行動圏を決定付けていると考えられますが,これまであまり研究がなされてきませんでした。そこで当研究室では、放牧地の植生と1日行動圏サイズとの関係を明らかにしようとしています。
(飯野・小倉・佐藤)

小型哺乳類の生息環境としての放牧草地

草地には様々な動植物が生息しているため、草地・草原は生物多様性保全の面で重要な役割を担っています。しかし、家畜の放牧が生物多様性に及ぼす影響についてはよく分かっていません。そこで本研究では,放牧地に生息する草原性小型哺乳類(ネズミ目およびモグラ目)の生息痕跡を調査し、植生や家畜によるかく乱が及ぼす影響について明らかにし,放牧草地における生物多様性保全に役立てます。
(丸山)

放牧草地における植生の動態

放牧草地に生育する植物は,家畜による植物の採食,糞尿の排泄,蹄による踏付けなどの影響を受けるため,草地の植生は時間の経過とともに放牧地特有の変化を示します。川渡フィールドセンターの牧草地と野草地において,植生の定点観測を長期的に続けることによって,家畜の放牧による植生の変化とその要因を解析しています。
(小倉)

大型草食動物における採餌のメカニズム

草牛や緬羊などの草食動物は,様々な植物種の中から,自分によって好ましい植物を識して選び,不適なものを避ける能力があります。大型草食動物として牛を用い,多様な植生の下で好みの植物とその部位をどのように認識して採食するのかについて,植物の立体配置および匂い物質の点を中心に研究を進め,家畜の採餌能力とそのメカニズムの解明を目指します。
(小倉)

遊休桑園の畜産的利用

桑園は養蚕における蚕の飼料として利用されてきましたが,現在では国内の生糸生産は極めて少なく,各地の桑園は遊休化が進んでいます。桑園の多くは傾斜地に位置し,桑樹は根を強く張るため,桑樹を抜根して畑として再生する作業は,高齢化の進む農村ではきわめて大変な作業です。そこで,桑園に牛を放牧して桑葉および下草を飼料として利用し,低コストで手をかけることなく家畜生産の場として再活用する試みを,南三陸農協および宮城県と共同で行っています。遊休農地の解消と畜産振興を両立させ,中山間地の活性化を目指します。
(小倉)