東北大学 大学院農学研究科
生物海洋学分野

生物海洋学

寄生性渦鞭毛藻を利用した赤潮・貝毒発生防除への新たな可能性

 海洋における渦鞭毛藻と呼ばれるグループのなかには、有害有毒な種類がいくつか存在しており、
世界の水産業に大きな被害を与えています。

 これらの対策や防除方法として、モニタリングにより発生時期を予測する、化学物質や超音波によって
有害有毒種を殺滅する、粘土散布により有害有毒種を海底へ沈める、殺藻細菌やウィルスによって有害有毒種を
殺滅する、といった方法が知られています。

 その中で私たちの研究グループでは、寄生性の渦鞭毛藻に着目しています。渦鞭毛藻というグループは、プランクトンの中でも特に生存戦略が多様なグループで、同じ仲間である渦鞭毛藻に寄生して生活しているのです。
渦鞭毛藻には、これまで2000種ほどが知られていましたが、そのうち140種ほどが寄生性の種であることが
分かりつつあります。

 しかし、それらの寄生性渦鞭毛藻が海洋生態系においてどの程度、ホストである渦鞭毛藻の動態を
コントロールしているのか、まだ明らかになっていません。また、その寄生生物は日本の海に何種類
存在しているのか、季節によって種組成は変わるのか、ホストに対する感染特異性はどうか、
ホストがいない時期はどこに潜んでいるのか等々、多くのことが分かっていません。

 これまでの私たち研究者の考えでは、有害有毒プランクトンは海のなかで、水温の変化や
高次捕食者による捕食によって自然に衰退・消滅していくのだろう、と推察していましたが、
これまで見落とされていた寄生生物の存在が、実は私たちの想像以上にその衰退・消滅へ
大きなインパクトを与えていることが明らかになりつつあります。

 私たちの研究グループは2019年、大阪湾から麻痺性貝毒原因プランクトンであるAlexandrium
殺滅させる寄生生物を日本で初めて発見しました。この成果は論文だけでなく、
東北大学のプレスリリースとしても公表しています。
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2021/11/press20211130-02-toxic.html

 この成果は、2021年12月に東日本放送「チャージ」、NHK仙台放送「てれまさむね」、読売新聞などでも
取り上げていただきました。

 今回発見した寄生生物は、有毒プランクトンのみを選択的に殺滅させ、他の無害な
珪藻類などには感染しません。また、ホストが海水中からいなくなると、寄生生物もまた
数日以内に消えてしまいます。

将来的には、この寄生生物を貝毒の「防除生物」として利用し、少しでも貝毒による漁業被害が
低減できることを願い、研究を続けています。

「以下、2023年2月追記」
これまで赤潮や貝毒への対抗策は、何十年とわたり研究されてきました。
泥を散布して有害有毒プランクトンを吸着させて沈める方法、
海底を撹拌して栄養塩を供給することで無害な珪藻を卓越させる方法、
有害有毒プランクトンを消滅させるウィルスやバクテリアを用いる方法、
等々、色々行われてきましたが、いずれも効果的とは言えないと思います。

そんような状況のなか、私たちは2019年から2020年にかけて、
ようやく赤潮や貝毒を引き起こすプランクトンに対する天敵生物を見つけました。
やるべき課題は多いのですが、現在、学生さんの人数がまったく足りておらず、
西谷含む2-3名でなんとか研究を進めています。

赤潮や貝毒の被害により、世界中で多大な被害が生じています。
そのため、この被害軽減策を私たちと一緒に研究してくれる学生さんを大募集しています。
高校生や大学生の研究室訪問は、いつでも歓迎です。
お気軽にメール(ni5@tohoku.ac.jp)にてご連絡ください。



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通常光による顕微鏡写真。黒く見える丸いものが、すべて有毒プランクトン。
通常の光で見ている限り、これらの有毒プランクトンには、何も異常が見えない。
しかし・・。



まったく同じ視野を特殊な蛍光をあてて見た様子。わずかに赤く見えるのは、
有毒プランクトン自身が持つクロロフィル蛍光。
緑色に見えるのは、ホストに感染し、その細胞内で増殖した寄生生物。
つまり、通常光では異常が見られなかったが、蛍光をあてて観察してみると、
ほとんどすべての有毒プランクトンが感染していることが分かる。
感染した有毒プランクトンは、3日程度で死滅する。


左のフラスコでは、有毒プランクトンが大量に増殖して着色しています。
右のフラスコでは、寄生生物の感染によって有毒プランクトンが消滅しました。


2023年2月 khb東日本放送「チャージ」より

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