キュウリモザイクウイルス抵抗性遺伝子RCY1に関する研究

植物がもつウイルス撃退システム 私たちは、シロイヌナズナecotype C24がキュウリモザイクウイルス黄斑系統[CMV(Y)]に対する抵抗性遺伝子をもっていることを明らかにし、その遺伝子をRCY1と名づけました。RCY1の遺伝子産物はCC-NB-LRR型Rタンパク質で、CMV(Y)のCPを直接または間接的に認識して細胞死を伴う抵抗性反応(HR: hypersensitive response)を誘導し、ウイルスの全身感染を防ぎます。これまでに、RCY1によるCMV(Y)抵抗性にはサリチル酸を介したシグナル伝達経路とエチレンを介したシグナル伝達経路が寄与することを明らかにしたほか、RCY1の過剰発現によりウイルス増殖が単細胞レベルで抑えられる高度抵抗性(ER: extreme resistance)を付与できること、RCY1と相互作用する転写因子WRKY70がCMV(Y)に対する抵抗性に重要な寄与をしていること、RCY1の効率的な翻訳にはイントロンの存在が重要であることなどを明らかにしてきました。現在、RCY1によるCMV(Y)CP認識の分子機序やRCY1発現量調節の機構について研究を行っています。2012年頃までの研究の詳細はこちらもご覧ください。
Selected publications
  • Sato et al. (2017) Increased cytosine methylation at promoter of the NB-LRR class R gene RCY1 correlated with compromised resistance to cucumber mosaic virus in EMS-generated src mutants of Arabidopsis thaliana.
  • Sato et al. (2014) Role of intron-mediated enhancement on accumulation of an Arabidopsis NB-LRR class R-protein that confers resistance to Cucumber mosaic virus.
  • Ando et al. (2014) WRKY70 interacting with RCY1 disease resistance protein is required for resistance to Cucumber mosaic virus in Arabidopsis thaliana.
  • 宮下脩平・高橋英樹 (2015) 植物のR遺伝子によるウイルス抵抗性
  • ウイルス不顕性感染と植物生存戦略

    病気を起こさないウイルスは植物に何をもたらすのか 近年の研究から、自然界のさまざまな植物の中には、ゲノム上にウイルスゲノムと相同の塩基配列を保有したり、ウイルスが潜在・不顕性感染しているものが存在することが明らかになってきました。しかし、地球生態系に生息する約30万種の植物の生命活動におけるこれらの内在性ウイルスエレメントや潜在・不顕性感染ウイルスの役割は、全く未知です。私たちの研究では、病原体としてのウイルスという発想を転換し、自然界の野生植物や栽培作物に明瞭な病徴を示さずに感染しているウイルスに焦点をあて、宿主植物、ウイルス、内生菌・根圏生息菌群集を包括して超植物体として捉え、植物の生命活動を制御するウイルスのはたらきとその具体的な分子基盤を解明します。

    ウイルス抵抗性のプライミング機構

    植物の記憶と備え 植物が病原体に攻撃された際にその記憶が植物体に残り、次に病原体が感染しようとした場合等に迅速で強い抵抗性反応を誘導する場合があることが知られており、この現象はプライミングと呼ばれます。また、プライミングは一回目に感染しなかった部位でも起こることや、非病原性の微生物による刺激でも起こること、特定の化学物質(プラントアクチベーター)でも起こせることが知られています。植物の記憶にはエピジェネティックな制御が関与していると考えられることから、私たちはヒストン修飾やDNAメチル化の関与に着目してプライミング機構の解明に向けた研究を行っています。

    ウイルスの社会性を標的とする防除技術開発

    ウイルスの弱点は「社会性」にあり ウイルスは変異率が高いため常に多様な変異体が集団内に共存します。この多様なウイルスの集団が宿主体内においてヒトの集団のような社会的挙動を示す可能性が、私たちの研究により明らかとなってきました。すなわち、協力・裏切り・ルールの形成といった社会的挙動です。ウイルスが社会的挙動を示す部分は非常に絶妙な調整がなされており、それがゆえに人為的な介入の効果がでやすいと期待されます。そこで私たちは植物ウイルスの社会システムとその分子レベルでの動作原理を明らかにするとともに、社会システムの弱点を標的とする革新的な植物ウイルス防除技術の確立を目指しています。実験と数理モデリングを組み合わせた研究手法を用い、社会システムの分析と人為的介入の効果予測・検証を一体的に進めています。
    Selected publications
  • Miyashita et al. (2015) Viruses roll the dice: The stochastic behavior of viral genome molecules accelerates viral adaptation at the cell and tissue levels.
  • Miyashita and Kishino (2010) Estimation of the size of genetic bottlenecks in cell-to-cell movement of Soil-borne wheat mosaic virus and the possible role of the bottlenecks in speeding up selection of variations in trans-acting genes or elements.
  • 宮下脩平 (2012) 植物RNAウイルス進化機構の数理モデル
  • 有機農業における有用微生物作用機序

    病原菌と闘う「土」 有機農業では、農薬や化学肥料の使用が抑えられているにもかかわらず、慣行農業と同等の農業生産が可能です。その理由の一つに「土」があります。私たちはこれまでに、有機農業で使われるイネ育苗培土にイネもみ枯れ細菌病やイネ立枯れ細菌病の発生を抑える効果があることを明らかにし、その効果は土壌中の生物によるものである可能性を示しました。ハイスループットシーケンサー(次世代シーケンサー)を用いた土壌中の微生物の網羅的解析から、土壌中の微生物叢の多様性や堅牢性がこの効果に寄与している可能性を明らかにしています。また、単離した培養可能細菌・糸状菌の中に抗菌活性物質を産生するものや植物の病害抵抗性を誘導するものがある可能性について調べています。
    Selected publications
  • Ando et al. (2014) Impact of organic crop management on suppression of bacterial seedling diseases in rice.
  • L-ヒスチジンによるトマト青枯病抵抗性誘導機構

    世界で最も多く作られている野菜、トマト トマトは世界で最も多く生産されている野菜ですが、そんなトマトの重要病害の一つにトマト青枯病があります。トマト青枯病は細菌(Ralstonia solanacearum)の感染による土壌伝染性の病害で、罹病トマトは萎凋症状を示します。トマト青枯病防除には土壌消毒や抵抗性品種の利用、抵抗性の台木を使用した接ぎ木など様々な防除法が利用されています。農研機構を中心としたこれまでの共同研究により、トマト水耕栽培液にアミノ酸の一つであるL-ヒスチジンを加えることで、トマトの抵抗性応答が誘導され青枯病の発病が抑えられることがわかりました。現在私たちはトマトの抵抗性品種・罹病性品種・それらの接ぎ木植物にL-ヒスチジンを処理した際の遺伝子発現変動を網羅的に解析しています。これによりL-ヒスチジン処理による抵抗性応答誘導メカニズムの解明を目指します。