家畜感染症の制御技術開発

腸内に生息する有用微生物の力で疾病を制御する ~糞便移植の有用性を科学的に検証~

 ヒトや動物の腸内には非常に多種の微生物が多数生息しております。このような微生物が作り上げる腸内フローラは、宿主であるヒトや動物の健康状態に多くの影響を与えます。中でも、私達が研究する腸内に発達する免疫機能(腸管免疫)は、腸内フローラの影響を強く受けます。つまりは、正常な免疫機能を腸内に構築させるためには、良質な腸内フローラを形成することが重要であり、腸内の微生物環境が何等かの理由で悪化すると、その結果として、腸内で炎症反応が引き起こされます。

 生まれたばかりの家畜は、病原性の細菌やウイルス感染によって容易に下痢症を発症します。下痢症を発症した家畜に対する治療として抗生物質が多用されますが、畜産現場における抗生物質の多用は、薬剤耐性菌を生み出す最たる要因として、WHOは警鐘を鳴らしております。畜産現場で生まれた薬剤耐性菌が人畜共通感染型であった場合、感染したヒトに対し、抗生物質は全く効かないということです。我々は、下痢症を発症した子牛に対し、抗生物質治療に代わる画期的な方法として、健康な腸内フローラを有する家畜の糞便を下痢症発症牛に移植することで治療するという、糞便移植技術を開発しております。

 我々の共同研究者(獣医師)の挑戦により、下痢症を発症する子牛に対する糞便移植の優れた有効性は臨床的に実証済みです。我々は、糞便移植により、下痢症を発症していた子牛の体内で何が起きていたのか、その作用メカニズムを明らかにするための最先端の分析技術を駆使した研究を行っています。下痢症を発症していた子牛の腸内フローラは、糞便移植によりどのように変化したのか、糞便移植のドナーとして選抜された健康牛はどのような腸内フローラを有していたのか、さらには、移植された腸内微生物は下痢症発症牛の体内で何をしていたのか、それらを明らかにするための研究は、まさに大学でしか出来ない基礎研究です。我々の研究の目指すところは、家畜生産者/獣医師が生産現場で使える技術の基盤構築であり、免疫学/微生物学研究から得られた知見をもとに、様々な技術の有用性を示す科学的エビデンスを取得すべく日々励んでおります。

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